傷害事件でレスラー逮捕…「格闘家」による暴行や傷害は一般人より罪が重くなる?
格闘技の専門家が一般人に暴行すると、大けがをさせる可能性がありますが、一般人が暴行するときよりも罪は重くなるのでしょうか。
先日、あるプロレスラーが神奈川県内の駐車場で一般男性とトラブルになり、暴行してけがをさせたとして、傷害容疑で現行犯逮捕されました。今回、被害者のけがは軽傷でしたが、プロの格闘家、空手や柔道の有段者、力士などが一般人に暴行すると、大けがをさせてしまう可能性があります。プロの格闘家が一般人に暴行をすると、一般人が加害者の場合より罪が重くなるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
「凶器」とされ量刑が重くなることも
Q.プロの格闘家などが一般人に対して暴行したとき、どのような罪に問われますか。けがをさせる可能性が高いことから、特別な罪に問われることもあるのでしょうか。
牧野さん「プロの格闘家であっても、一般人と同じ罪状です。暴行を加えた場合は暴行罪(刑法208条、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料)、暴行にとどまらず傷害まで負わせた場合は、傷害罪(刑法204条、15年以下の懲役または50万円以下の罰金)が成立する可能性があります」
Q.量刑は一般人よりも重くなるのでしょうか。
牧野さん「具体的な量刑は、暴行・傷害に至った経緯や態様、傷害の程度など諸般の事情を考慮した上で決められます。『プロの格闘家である』という事実は、凶器を使うことと同じであると評価され、一般人が行った場合よりも危険性が高いとして、量刑が重くなる可能性はあります」
Q.傷害事件の加害者が、プロ格闘家の場合と一般人の場合とでは、量刑にどれくらいの差が出ますか。判例があれば教えてください。
牧野さん「量刑は、それぞれの事件の諸事情も鑑みて決まるので、どれくらいの差が出るのかは正確には言えません。ただ、一般人よりも重い量刑が科せられた判例はあります。2017年6月に格闘家に頭部を蹴られた男性が、意識不明の重体(外傷性くも膜下出血)となり死亡した事件です。
傷害致死罪に問われた格闘家に対して千葉地裁は『一般人に暴行を加えたことは、厳しい非難を免れない』『被害者が防御することが困難な状況で暴行し、頭部を狙っており危険性が高い』として、通常より重いと考えられる懲役5年の判決を言い渡しました」
Q.仮に、自ら格闘家であることを誇示した上で相手に暴行した場合、量刑に影響がありますか。
牧野さん「この場合は、自分で格闘家であることを認識しながら、暴行を行ったことになります。裁判では悪質であると判断され、量刑は、『格闘家である』と誇示しないときよりも厳しい方向に認定されると思います」
Q.格闘家が、暴行してきた相手に反撃して思いがけず大けがをさせてしまった場合、正当防衛は認められますか。
牧野さん「格闘家であっても正当防衛は認められます。ただし、『急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない』(刑法36条1項)の要件に該当する必要があります。つまり、本当にやむを得ない反撃だったかが問われます。また、格闘家であるがゆえに、防衛の程度を超えた行為(刑法36条2項、いわゆる『過剰防衛』)と判断されやすい傾向はあると思われます」
Q.格闘家が酔って一般人に暴行するという事件もあります。一般人がそうした場面に巻き込まれた場合、民事上の損害賠償は通常よりも多く請求できるのでしょうか。
牧野さん「被害の程度・状況に加えて、加害者の状況として損害賠償額の算定で考慮されると思います」
(オトナンサー編集部)
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