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「酒に酔って記憶をなくして暴行」「しらふで暴行」、罪の重さに違いはある?

酔って記憶をなくした状態で暴行した場合と、しらふで暴行した場合で罪の重さは異なるのでしょうか。それとも――。

酔って暴行としらふで暴行、罪の重さは異なる?
酔って暴行としらふで暴行、罪の重さは異なる?

 先日、人気音楽グループ「AAA」のリーダーが、面識のない女性を殴ったとして暴行容疑で逮捕されました(後に釈放)。本人は「酒に酔って記憶がない」と話しています。こうしたケースは一般人でも見られますが、共通するのは、暴行について「酒を飲んでいて覚えていない」と話すことです。酔っているにせよ、しらふにせよ、罪に問われることに変わりはありませんが、「記憶がない状態」と「記憶がある状態」では刑罰の重さに違いがあるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

「酔って覚えていない」は反省なし

Q.そもそも、暴行罪の場合、どのような刑罰を科すと定められているのでしょうか。

牧野さん「『人の身体に対し不法に有形力を行使すること』により、暴行罪(刑法208条、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料)が成立します。具体的には、飲み屋でけんかをして相手の胸ぐらをつかんだり、水をかけたりした場合、体に直接触れてはいませんが、暴行罪が成立する可能性があります。暴行の結果、相手を負傷させてしまった場合は、傷害罪(刑法204条、15年以下の懲役または50万円以下の罰金)が成立する可能性があります」

Q.酒を飲んで記憶を失った状態での暴行と、しらふでの暴行とでは、相手に同じ程度の暴行を加えた場合でも、刑罰の重さは異なるのですか。

牧野さん「酒を飲んでいる場合の方が、しらふの場合よりも罪が重くなる可能性があります。そもそも、酒に酔って覚えていないからといって、量刑が軽くなるでしょうか。むしろ、酒のせいにする態度は『反省していない』と思われ、量刑が決まるときに有利になることはありません」

Q.他の犯罪も含め、酔って記憶をなくしたときに行った犯罪で、罪に問われないケースはあるのでしょうか。

牧野さん「責任能力(善悪の判断力)を持たない者が罪に問われないケースは確かにありますが、飲酒で善悪の判断力を失ったからといって免責されるとは限りません。飲酒によって他人を傷つける可能性を知りながら飲酒しており、自ら責任能力を失ったにすぎないからです。

例えば、車の運転を予定していながら飲酒によって泥酔してしまい、そのまま自動車を運転して事故を起こした場合、業務上過失致死傷罪または危険運転致死傷罪が成立し、心神喪失状態であっても責任能力が認められます。

刑法には明文の規定がありませんが、民法では、故意または過失によって、一時的な精神上の障害で自己の行為の責任を理解する能力を欠いた場合、損害賠償の責任を負う規定があります(713条ただし書き)」

Q.例えば「上司から無理やり酒を飲まされた」「新歓コンパで一気飲みをさせられた」といった状況から記憶を失って暴行した場合、刑罰の重さに違いは出るでしょうか。また、無理やり飲ませた側の法的責任は。

牧野さん「飲酒を強要や強制された場合、減刑される余地はあります。飲ませた側については、泥酔して他人を殴り、けがをさせる性癖の人に無理やり酒を飲ませた場合は、因果関係があれば民事責任(民法709条不法行為)が認められる可能性があるでしょう」

Q.もし、酒を飲んで記憶をなくしていそうな人に絡まれ、暴力を振るわれた場合、現場ではどのようにして証拠を記録したらよいですか。

牧野さん「まずは『君子、危うきに近寄らず』がベストです。証拠を残す手段としては、スマホで録音・録画などをしておく、あるいは、証人がいれば協力を依頼しておく、などが考えられるでしょう。訴えるときには、民事・刑事の両面で検討すべきです。弁護士などの専門家へ相談するとよいでしょう」

Q.酒に酔って周囲に迷惑をかけると罪に問われる「酔っぱらい防止法」(通称)がありますが、適用例は少ないようです。今回のリーダーのケースでも適用されそうにないのでしょうか。

牧野さん「正式名称は、『酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律』です。酒に酔って暴れても、器物損壊罪(刑法261条、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料)や暴行罪に問われない場合に刑罰を科す法律です。

具体的には、『酩酊(めいてい)者が公共の場所または乗物において、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野または乱暴な言動をしたときは、拘留または科料に処する(4条1項)』『警察官の制止を受けた者が、その制止に従わないで4条1項の罪を犯し、公衆に著しい迷惑をかけたときは、1万円以下の罰金に処する(5条2項)』などの場合に適用されます。日本の航空会社の機内で前者の適用例があるようです。

今回は暴行容疑で逮捕されていますので、いわゆる『酔っぱらい防止法』は適用されません」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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