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「バカンスの国」フランスでも、長期休暇明けは出勤が憂鬱なのか

長期休暇明けは、多くの日本人が憂鬱に感じるようです。日本よりも長い長期休暇を取るフランス人も、日本人と同様に憂鬱なのでしょうか。

バカンス明けはフランス人も憂鬱?
バカンス明けはフランス人も憂鬱?

 今年のゴールデンウイーク(GW)は10連休となりましたが、こうした長期休暇明けは、会社に出勤するのが憂鬱(ゆううつ)になる人も多いと思います。しかし欧米では、長期休暇は一般的で、特にフランスでは「バカンス」として1カ月近くの休みも珍しくありません。フランス人は、どのようにモチベーションを整えて、憂鬱な気持ちを払拭(ふっしょく)し、長期休暇明けに会社に出勤するのでしょうか。

 フランスに7年在住し現地の文化にも詳しい、チェリストで料理家の大前知誇(おおまえ・ちか)さんに聞きました。

休み明けのどんよりした空気ない

Q.日本では長期休暇明けに、「会社に行きたくない」というネットの投稿が増えます。フランス人もバカンス明けには、出勤することを憂鬱に感じる人が増えるのですか。

大前さん「私がフランスに住んでいた頃の経験から言えば、フランス人の友人で、長期休暇(バカンス)明けに仕事に復帰するのが憂鬱になる、という人は一人もいませんでした。『ああ、また仕事が始まるなあ』という気持ちにはなるようですが、バカンス明けの空気が何となくどんよりしているとか、友人たちの愚痴を聞いたこともありません。休み明けに、支障なく仕事に戻るための工夫や準備をしているわけではなく、比較的淡々と仕事を再開するといった様子だと思います」

Q.フランス人は、休みと仕事の切り替えがうまいのでしょうか。

大前さん「フランス人は、バカンスと仕事をうまく切り替えているわけではありません。そもそも、仕事自体に、日本人ほどストレスを感じてないからだと思います。フランス人は、プライベートと仕事の時間をしっかりと日頃から分けており、プライベートタイムを日常的に持ち、帰宅も遅くなりません。毎晩しっかり、家族や時には友達たちと過ごしています。そのため、仕事に追われて疲弊するということがさほどないのでしょう」

Q.フランスで、バカンスという風習が生まれたのはいつですか。

大前さん「フランスのバカンスは、1936年に2週間の連続休暇(年休)が労働者に与えられたことが始まりです。その後、労働協約や法律で年休が長期化し、1982年以降は全ての労働者が約3週間の年休、いわゆるバカンスを取得できるようになりました。現在では、年間で5週間の年休を取得できることが法律で決まっています。多くの人が7月と8月、クリスマスに取得し、期間は2~5週間が一般的です」

Q.皆が一斉に休みを取ると、社会機能に支障が出ると思いますが、企業などでは順番に取得する習慣があるのですか。

大前さん「社員同士で、バカンスを取得する日にちや時期を相談しますが、さほど厳密ではないようです。基本的には、取得したいときに自由に取ることが可能です。バカンスでは、家族と一緒に過ごすことが基本的な考え方で、例えば、子どもがいない社員は、学校の休みと関係ない6月や9月に取ってもらうこともあるようです。業務のレスポンスが遅いなど、仕事に多少の支障は出るようですが、『それも仕方ない』という考え方です」

Q.10連休の前に、パートやアルバイトの人たちから「10日も休みになると給料が激減する」と嘆く声も聞かれました。フランスではバカンス分の給料は支払われるのでしょうか。

大前さん「フランスでは、働く場合は全て正社員としての雇用になります。『期限付き正社員』か『期限なし正社員』かということです。そのため、1日しか働かなくても、保険など社会的負担の責任は全て天引きされ、有給休暇もきちんと付きます。1カ月働くと、バカンスとは別に2.5日の有給休暇も与えられます。どんな人でも“平等に働く権利”“休む権利”があるという、フランス革命以来の精神が根付いているようです」

Q.日本では長期休みが取りにくく、有給休暇も世界と比べると取得率は低いです。フランスで長期間の在住経験がある立場から、この日本の現状をどのように感じますか。

大前さん「日本では、GWやお盆休みは海外にしろ国内にしろ、旅行や遊びに行くという感覚で計画を立てることが多いのではないでしょうか。フランス人は、バカンスはのんびりと家族と一緒に過ごすもの、という感覚の人が多いです。『旅行は楽しいけど、目いっぱい疲れた』という声をよく聞く日本人とは、長期休暇の概念が違うように感じます。

バカンス明けにフランス人と話すと、皆どんなに素晴らしいバカンスを過ごしたかの話で持ちきりで、とてもリフレッシュして元気なイメージです。休み明けの仕事が憂鬱な日本人が多いとフランス人が聞くと、『えっ、日本人かわいそう!』と思う人が多いと思います。

全てのフランス人が、会社に戻ることにストレスを感じていないわけではないですが、やはり日本の多くの仕事のあり方が、本当にハードなのだと思います。休みと仕事のスイッチをどう入れ替えたらよいか、分からない日本人が多いと感じます」

Q.フランス人の長期休暇の考え方を見習いたいですね。

大前さん「日本には、電車は遅れない、工事もきちんと終わる、いつもお店は開店しているなど、それに起因する便利さがあります。日本の常識に慣れていた私は、フランスにいると現地のルーズさに慣れるのに大変でしたが、それぞれの長所や短所は必ずあります。すぐに違う文化や風習は取り入れられませんが、フランス人のプライベートの時間の切り替えや、休暇は家族を大切にする感覚は、日本人にも徐々に浸透していけばと思います」

(オトナンサー編集部)

大前知誇(おおまえ・ちか)

チェリスト、料理家

桐朋学園大学音楽学部卒業後、ジュリアード音楽院、デトモルト国立大学、パリ国立音楽院で学ぶ。2002年ラッコニージ国際コンクール第2位。「ファンダメンタル・ノート」を含む2枚のCDをリリース。国内および欧州各地で数多くのコンサートに出演している。演奏活動の傍ら、パリのエコール・リッツ・エスコフィエにて、フランス料理・製菓・パンのマスター・ディプロマを取得、リッツ・ホテル内「エスパドン」での修業を経て、帰国後、「音と食のコンサート」シリーズなどコンサートプロデュース、エッセー執筆、セミナー講師など活動は多岐にわたる。2021年、国際ソムリエ協会が主催するソムリエ資格試験で「International A.S.I.Sommelier Diploma」を取得。料理教室「メゾン・ブランシュ」主宰、レコール・デュ・ヴァン講師、日本ソムリエ協会認定シニアソムリエ。

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