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フランスパンはなぜ硬い? 程よい硬さに焼くことも可能では?

フランスパンは表面が硬く、歯が弱い高齢者や小さな子どもには「食べにくい」という印象を持たれがちです。程よい硬さにすることも可能なのに、なぜ、フランスパンは硬いのでしょうか。

フランスパンはなぜ硬い?
フランスパンはなぜ硬い?

 日本でもおなじみの「フランスパン」は、表面が硬く、歯が弱い高齢者や小さな子どもには「食べにくい」という印象を持たれがちです。例えば、食パンのように表面を程よい硬さで焼き上げることも、技術的に難しいわけではありません。そのように焼き上げた方が、幅広い人に受け入れられると思うのですが、なぜ、フランスパンは硬いのでしょうか。意図的に硬くしているのでしょうか。パリでフランス料理の修業経験がある料理家で、チェリストの大前知誇(おおまえ・ちか)さんに聞きました。

フランス産小麦の特性が関係

Q.フランスでも日本と同じく、表面が硬く、棒状のように細長い「フランスパン」があるのでしょうか。

大前さん「日本で『フランスパン』と認識されているパンは、フランスでは『パン・オ・トラディショナル』と呼んでいます。つまり、フランスで『フランスパン』と言っても、現地では伝わりません。

日本では、棒状のパンを『フランスパン』というくくりで呼ぶことが多いと思いますが、フランスでは同じ材料を使っていても、重量や形によって規格があり、『バゲット』『バタール』『フィセル』『エピ』と、それぞれ名称が異なります。『バゲット』が、日本でよく見かける細長い棒状のフランスパンを指すと思ってよいでしょう。

材料は、小麦粉とパン酵母、塩、水だけで作られていて、バターや砂糖は入れません。表面がパリッと焼け、内側には大小の気泡が入っているのが特徴です。

なお、日本でも、『バゲット』『バタール』『エピ』などを区別して呼んでいるパン店も増えています」

Q.フランスパンは、なぜ硬いのでしょうか。意図的に硬くしているのですか。

大前さん「フランスでは、もともと土壌や気候の影響で、パンの膨らみに欠かせないグルテンが少ない小麦粉が主流で、ふっくらとしたパンを作ることが難しかったそうです。そのためフランスでは、粘り気の少ない生地を使うパン作りが求められ、結果として硬い外皮と、サクサクした中身を持つ独特のパンが生まれることになりました。

現在ではもちろん、さまざまな小麦粉が流通していますが、フランスではその食文化ともマッチしてこの伝統的なパンが主流になり、砂糖や油といったパンを柔らかくする材料を加えず、あえて外皮が硬くなるように作られています。

硬いパンが広く作られるようになったのは、諸説ありますが、フランス皇帝だったナポレオンが、兵士たちのポケットに入れて持ち運べるように、あえて硬いパンを作るようにしたという話もあります」

Q.日本とフランスのフランスパンには、何か違いがありますか。

大前さん「日本とフランスでは、その小麦粉の成分に違いがあるので、同じように作ったとしても日本の小麦粉で作る場合、フランスのものと比べて仕上がりが多少柔らかく、ふわっとしたフランスパンになります。また、湿度など気候の違いもあるので、表面の外皮の硬さに違いも出てきます。

さらに、日本では柔らかくふわふわとした食べ物が、より好まれる風潮があるので、おのずと硬いパン(日本人からすると硬すぎるパン)ではなく、多少ふわっとした中身のフランスパンが主流になったと思います」

Q.フランス人の中にも、フランスパンの表面の硬さを苦手とする人は、いるのでしょうか。苦手な人は、どのようにしてフランスパンを食べているのですか。

大前さん「フランス人で、フランスパン(バゲット)の硬い部分が苦手という人は、聞いたことがありません。フランスでは、『硬い』というよりは、パリパリしてよく焼けているのが好まれます。苦手ではないけれど、あまりに硬くて口の中が切れそうという場合は、スープに浸したり、薄く切ってチーズと一緒に食べたりします。

歯が弱くなった高齢者は、パンを半熟卵に浸したり、ソースに浸したりするなど、柔らかくして食べるさまざまな工夫をしています。日本でもおなじみのオニオングラタンスープの中にパンを入れるのは、もともとこの硬くなりすぎたバゲットを食べるためといわれています」

Q.フランスパンの端は、形が丸く、しかも硬くて、食べにくいと思います。どのように食べるとよいのでしょうか。

大前さん「バゲットの端は、『キニョン』または『クルトン』と呼ばれています。日本では、パンの切れ端を小さく切って揚げたり焼いたりしたものを『クルトン』と呼びますが、フランスでは主にパンの端の呼び名で、フランス人には特に人気な場所なのです。『クルトンだけが好き!』という人も多く、みんなでバゲットを食べるとき、真っ先に取るのは失礼でマナー違反だともいわれています。

ちなみにフランスでは、子どもの歯が生え始めた頃、歯固めとして硬くなったバゲットをしゃぶらせる家庭もあるそうです。フランスでは、赤ちゃんの頃から硬いバゲットに慣れ親しんでいるので、違和感を覚えることなく硬いパンを好むようになるのかもしれません」

(オトナンサー編集部)

大前知誇(おおまえ・ちか)

チェリスト、料理家

桐朋学園大学音楽学部卒業後、ジュリアード音楽院、デトモルト国立大学、パリ国立音楽院で学ぶ。2002年ラッコニージ国際コンクール第2位。「ファンダメンタル・ノート」を含む2枚のCDをリリース。国内および欧州各地で数多くのコンサートに出演している。演奏活動の傍ら、パリのエコール・リッツ・エスコフィエにて、フランス料理・製菓・パンのマスター・ディプロマを取得、リッツ・ホテル内「エスパドン」での修業を経て、帰国後、「音と食のコンサート」シリーズなどコンサートプロデュース、エッセー執筆、セミナー講師など活動は多岐にわたる。2021年、国際ソムリエ協会が主催するソムリエ資格試験で「International A.S.I.Sommelier Diploma」を取得。料理教室「メゾン・ブランシュ」主宰、レコール・デュ・ヴァン講師、日本ソムリエ協会認定シニアソムリエ。

コメント

1件のコメント

  1. むしろ外皮が硬いブールが見つからなくて悲しい。