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グランメゾン東京も好評! ハードル高いイメージの「フランス料理」、魅力や歴史は?

ハードルが高いとイメージされがちなフランス料理ですが、意外な魅力があります。専門家に聞きました。

フランス料理の意外な魅力とは?
フランス料理の意外な魅力とは?

 木村拓哉さんが、すご腕のフレンチシェフを演じるテレビドラマ「グランメゾン東京」(TBS系)が好評です。ドラマにはさまざまなフランス料理が出てきますが、フォアグラやトリュフなどの高級食材を使ったり、見た目が華やかだったりするフランス料理は「ハードルが高い」「日本人の口には合わないのでは?」と感じる人が多いかもしれません。

 そんなフランス料理の歴史や魅力について、パリで修業経験もある料理家でチェリストの大前知誇(おおまえ・ちか)さんに聞きました。

マリー=アントナン・カレームが4種のソースを考案

Q.そもそも、フランス料理とは。

大前さん「フランス料理というと、各地方の郷土料理も含まれ、多彩で幅広いものですが、このドラマでいう『フランス料理』とは、宮廷料理から派生した『オート・キュイジーヌ』、いわゆるコースなどレストランで提供される料理のことを指します。

歴史をさかのぼると、19世紀前半にナポレオンやロスチャイルド家の料理人だったマリー=アントナン・カレームが、現代のフランス料理の元となる数多くのレシピを書き残し、現代に通じる4つのソースを考案しました。

20世紀に入ると、オーギュスト・エスコフィエによってカレームのレシピが洗練され、現在のフレンチに欠かせない厨房(ちゅうぼう)システム(シェフ、パティシエなどの役割分担)が確立されます。その後、20世紀後半には、ポール・ボキューズ、ジョエル・ロブションらへと受け継がれ、さまざまなレシピが生み出されました。

『フレンチはソースが大事』とよく言われますが、ソースの根幹を構築しているのが『フォン』『ジュ』と呼ばれる、食材を煮込んで取るだしです。例えば、いまや日本でもよく耳にする『フォン・ド・ヴォー』は牛肉の骨、『フォン・ド・ヴォライユ』は鶏ガラからそれぞれ取るなど、各食材に応じたさまざまなだしが存在します。

これらのだしをもとに、ソースを極限まで煮詰めたり、野菜のピューレやトリュフなどと合わせたりすることでソースを構築していきます。他の料理にもだしは存在しますが、フレンチのだしは、その種類が豊富で何十種類とあり、なおかつ、だしをベースにしたソースと食材をうまく組み合わせる点が他の料理との大きな違いと考えられます。

そして、もう一つの大きな特徴は、料理にほぼ砂糖を使わないことです。和食は多くの場面で砂糖を使うことがありますが、実際にフランスで売られている砂糖と日本の砂糖では甘さが全く違い、用途の違いをはっきりと知ることができます。さまざまな骨や野菜から抽出され凝縮した『うま味』がフランス料理にとっての、またフランス人にとっての甘味といえます」

Q.日本人の中には、フランス料理にあまりなじみがない人もいると思います。

大前さん「フランス料理はさまざまな食材からだしを取り、それらをベースに作ったソースと食材を組み合わせて完成する料理ですが、こうした一連の技法がフランス国外の食材と出合うことで新たな料理が誕生します。

例えば、ユズや昆布、さんしょうなど日本特有の食材をフレンチという異国の技法で調理したとき、どういった化学反応を起こすのかが面白く、うまく融合されたときには、これまでにない、おいしい料理が生まれます。フランス料理は国や地域に応じて多彩な料理が生まれる土壌があり、食文化のあるべき姿を体現しています。

私のもう一つのフィールドであるクラシック音楽の世界でも同じようなことが言えますが、日本人はフランス料理に対し『憧れはあるがハードルが高そう』というイメージを抱くことが多いですが、実際は、フレンチレストランでありながら現地の食材をうまく生かした料理を提供しているレストランも多く、一度食べてみれば『この食材が使われていたのか』と親しみを感じることもあるかと思います」

Q.ドラマでは、木村さん演じるフレンチシェフが、元同僚が運営する料理教室の生徒に本場仕込みの料理を提供する場面がありましたが、食べた人の評価はいま一つでした。

大前さん「パリで修業したシェフが本場で培った技法だけで料理しても、日本人がおいしいと感じるとは限りません。フランスと日本では食材の質が違うからです。例えば、トマト一つ比べてみても、日本で作られたものとフランスで作られたものとでは、水分量や酸味、甘みなどに違いがあります。フランスのトマトに合うレシピでも、日本のトマトには合わないということもあります。

また、フランスで本場のフレンチを食べた日本人の中には『おいしくない』と感じた人もいると思いますが、それは無理もありません。日本人とフランス人では食文化が違うため、これまでに食べたことがない味で困惑する場合もあります。

それはDNAが違うからです。稲作文化の東洋人と狩猟文化の西洋人では、身体的な部分や分解酵素などの違いもありますが、一番は、母の味から受け継がれた子どもの頃から慣れ親しんだカツオと昆布のだしとのうま味の違いでしょう。フランス料理といっても、本場のフレンチレストランで出される料理と、日本のフレンチレストランで提供される料理は異なるものだと考えた方がよいでしょう」

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大前知誇(おおまえ・ちか)

チェリスト、料理家

桐朋学園大学音楽学部卒業後、ジュリアード音楽院、デトモルト国立大学、パリ国立音楽院で学ぶ。2002年ラッコニージ国際コンクール第2位。「ファンダメンタル・ノート」を含む2枚のCDをリリース。国内および欧州各地で数多くのコンサートに出演している。演奏活動の傍ら、パリのエコール・リッツ・エスコフィエにて、フランス料理・製菓・パンのマスター・ディプロマを取得、リッツ・ホテル内「エスパドン」での修業を経て、帰国後、「音と食のコンサート」シリーズなどコンサートプロデュース、エッセー執筆、セミナー講師など活動は多岐にわたる。2021年、国際ソムリエ協会が主催するソムリエ資格試験で「International A.S.I.Sommelier Diploma」を取得。料理教室「メゾン・ブランシュ」主宰、レコール・デュ・ヴァン講師、日本ソムリエ協会認定シニアソムリエ。

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