認知症になって妻に不倫された43歳男性、娘を守りたい一心で離婚を決断するまで(下)
「娘のことは姉に任せたい」
「娘のことは妻ではなく、姉に任せたい」
それが雅一さんの希望だったので、筆者は後見人に関する公正証書を作成することにしたのです。具体的な文面は以下の通りですが、本人の希望を書面化しておけば、裁判所が雅一さんの意思を尊重してくれる可能性は高まります。後見人の希望を挙げる行為は夫婦双方の同意ではなく、雅一さん一人の意思で行うことができて安心です(民法839条)。
具体的にいうと、先に離婚届の提出、後に公正証書の作成という順です。なぜなら、雅一さんが単独親権者にならなければ、公正証書を作成することができないからです。雅一さんは不本意ながらも、公正証書を作成するため、離婚に応じる旨を妻に伝えましたが、妻は不倫相手と一緒になることしか考えておらず、娘さんは単なる付属品に過ぎなかったのでしょう。どちらが親権を持つのかを決めなければ、離婚届は提出できませんが、妻は娘さんの親権をあっさり断念したので親権の問題は杞憂(きゆう)に終わりました。
そして、万が一のことを考え、雅一さんが署名捺印した公正証書はお姉さんの家の金庫で大事に保管することにしたのです。
公正証書の手続きが終わった後、雅一さんからの連絡は途絶えてしまったので、現在の様子は把握していません。若くして難病に襲われた雅一さんの気持ちを察すると、「病は気から」という言葉を軽々しく使うことははばかられますが、公正証書をお守り代わりに気持ちを落ち着け、病状の進行を遅らせ、できるだけ長く娘さんと一緒に暮らせることを願うばかりです。
<雅一さんが作成した公正証書遺言の文面>(※証人の名前は仮名)
遺言公正証書
本職は遺言者・菅野雅一の嘱託により、証人・二村清、右松正の立会の上、次の遺言の趣旨の口述を筆記しこの証書を作成する。
第1条 遺言者は平成31年4月1日に成立した原口聖子との協議離婚に伴い、原口聖子との間の未成年の子・菅野心寧(平成16年5月8日生まれ)の親権を得て、現在も心寧の親権者である。
万が一、菅野心寧(平成16年5月8日生まれ)が成人する前に私が亡くなったり、重度の障害を負ったりして親権者としての責任を果たせなくなった場合、未成年後見人として、次の者を指定する。
住 所 神奈川県横浜市旭区関内町3-2-15
職 業 無職
氏 名 志村知花
生年月日 昭和48年8月20日
第2条 遺言者は一切の財産を菅野心寧(平成16年5月8日生まれ)に相続させる
第3条 本書遺言の執行者を神奈川県横浜市旭区関内町3-2-15 志村知花に指定する。
本旨外要件
遺言者 会社員 神奈川県川崎市幸区吉田3-1-40 ヨコミゾハイツ303 菅野雅一
(以下、省略)
(露木行政書士事務所代表 露木幸彦)


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