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受験シーズン到来 「カンニング」「なりすまし」などの不正は、法的責任を問われる?

1月19、20日に大学入試センター試験が行われます。カンニングはもちろんダメですが、もし発覚したら、法的責任を問われるのでしょうか。

カンニングした場合の法的責任は?
カンニングした場合の法的責任は?

 1月19、20日に大学入試センター試験が行われ、受験シーズンが本格化します。2018年は東京医科大学をはじめとする医学部入試で「大学側の不正」が問題となりましたが、例年、「受験生の側の不正」も少なからず報告されています。カンニングなどの不正行為が発覚すれば、受験した科目をすべて0点にされるなどのペナルティーを受けるのはもちろんですが、法的責任を問われることもあるようです。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

京大入試で偽計業務妨害容疑も

Q.入学試験で受験生が、カンニングペーパーを持ち込む、他人の回答を盗み見るなどのカンニング行為をした場合、罪に問われる可能性はありますか。

牧野さん「試験でカンニングをする行為は、試験官や主催者をだますことになるので、詐欺罪が成立しそうですが、詐欺罪は『人を騙(だま)して、財物や財産上の利益を奪った場合』に成立します。カンニングして良い点数を取ったことは、財物や財産上の利益を奪ったことにはならないので、詐欺罪は成立しません。

また、他の受験生の解答を盗み見た場合、窃盗罪が成立しそうですが、窃盗罪は他人の財物を窃取しなければ成立しません。『他の受験生の解答』は『財物』ではないので、窃盗罪は成立しません。

しかし、カンニング行為は、答案不正を行ったことで、試験監督業務や入学試験業務を妨害したことになるので、偽計業務妨害罪(他人を騙して、他人の業務を妨害、3年以下の懲役または50万円以下の罰金)が成立する可能性があります。

具体的には、2011年の京都大学の入試で、携帯電話を利用したカンニング事件が発生し、偽計業務妨害罪の容疑で捜査が行われました。また、カンニング行為は『他人の業務に対して悪戯(いたずら)などでこれを妨害した者』(軽犯罪法31号)として、拘留(1日以上30日未満)または科料(1000円以上1万円未満)に処せられる可能性があります」

Q.カンニングで民事上の責任を問われる可能性はありますか。

牧野さん「不法行為による権利侵害で生じた損害(精神的な損害である慰謝料)の発生とその因果関係を証明できるかどうかですが、対策委員会を設置したり、その対応に追われたりなどしても、大学側に追加出費などの損害がなければ、慰謝料の請求は現実的には難しいでしょう。

ただし、大規模・組織的なカンニングで試験がやり直しになった場合、大学側に追加出費などの損害が発生するので、大学が受験生に損害賠償を請求できる可能性があります」

Q.カンニング行為を疑われた受験生が、結果的に「無実」と分かった場合、その受験生は、大学側に賠償請求や慰謝料請求ができるでしょうか。

牧野さん「その受験生が合格しており、カンニング行為を疑われて合格が取り消しになった場合、結果的に『無実』と分かったら、合格者の地位の回復の請求、浪人を余儀なくされた場合は浪人により発生した損害の賠償請求、さらに、精神的な損害(慰謝料)の賠償請求ができる可能性があります」

Q.ほかの受験生に回答を教えた受験生がいた場合、教えた側が罪に問われる可能性はありますか。

牧野さん「教えた側は、偽計業務妨害罪あるいは軽犯罪の教唆・幇助(ほうじょ)罪が成立する可能性があります」

Q.過去には、替え玉受験(なりすまし)が問題となった例もありました。替え玉受験が発覚した場合の法的責任を教えてください。

牧野さん「1991年の明治大学の入学試験で、組織的な替え玉受験が行われた際には、受験者でない者が、受験者の名義を使って勝手に文書を作成(偽造)し、そのまま答案を提出(行使)したとして、有印私文書偽造罪・同行使罪で有罪となりました。

また、大規模・組織的な替え玉受験が行われて試験のやり直しになった場合、大学側に追加の出費などの損害が発生するので、発生した損害の賠償を請求される可能性があります」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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