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“自閉症”の9歳息子、3月に情緒不安定に それでも母が動じないワケ

知的障害がある自閉症の息子を育てる女性ライターが、息子が3月に情緒不安定になりやすい理由について、紹介します。

毎年、3月になるとソワソワする自閉症の息子(べっこうあめアマミさん作)
毎年、3月になるとソワソワする自閉症の息子(べっこうあめアマミさん作)

 ライター、イラストレーターとして活動するべっこうあめアマミさんは、知的障害を伴う自閉症がある9歳の息子と、きょうだい児(障害や病気を持つ兄弟姉妹がいる子ども)の5歳の娘を育てながら、発達障害や障害児育児に関する記事を執筆しています。

 人の入れ替わりが多い年度末。何となく落ち着かずにソワソワしてしまう人は多いのではないでしょうか。他の人以上に分かりやすく落ち着かなくなってしまう息子と、そんな息子の成長の仕方に関する気付きについて、お伝えしたいと思います。

人生には変化があることを学んでいる息子

 3月は、大人も子どもも、人の入れ替わりを感じる季節ですね。幼稚園や保育園の卒園式、学校の卒業式。会社では異動の辞令が出るタイミングです。そんな時期ですから、知らず知らずのうちに、世間にザワザワした空気感がつくられているのかもしれません。

 私の息子は自閉症があり、人一倍変化に敏感な特性があるため、そんな「切り替わり」の時期である年度末は、必ずと言っていいほど情緒が不安定になります。息子が大好きな「いつもと同じ」であるはずの物事が、ことごとく覆されてしまうからです。

 学校の時間割でいつもと違うスケジュールが入ったり、短縮授業があったり、何となく先生たちが慌ただしいことを感じたり…そういったことで変化の予兆を感じているのでしょう。9年間というまだまだ短い人生経験ですが、数多くの出会いと別れを経験してきた息子です。3月の年度末になると、「また何かが変わってしまう」という不安感があっても不思議ではありません。

毎年3月、4月は気持ちが荒れがち

「今、自分の周囲にいる人たちが、急にいなくなってしまうかもしれない」

 そんな漠然とした不安があるようで、3月になると息子はいつもソワソワしています。発語がほとんどない息子は、言葉で不安を伝えることはできません。これまで落ち着いていた問題行動が3月に再発したり、これまでできていたことができなくなったり、あるいはやらなくなったりと、行動でソワソワ感を表してくるのです。

 そして、4月になり新しい環境になったことで、また少し荒れてしまうのが困りどころ。やっとできるようになっていたことも、2月ごろをピークに、3月、4月で振り出しに戻ってしまうことが多いため、親としては少々がっくりきてしまいます。

「3歩進んで2歩下がる」 一筋縄ではいかない息子の成長

 以前、子どもの成長は右肩上がりの坂道ではなく、階段のようなものだという話を聞いたことがあります。少しずつ坂道を登るようにできるようになるというよりは、しばらく直線上を行き、あるとき急に一段上がるということです。

 しかし、それは「定型発達」と言われる、一般的な発達過程をたどって成長していく子どもたちに当てはまることで、息子のような障害がある子どもだと、少しだけ違うような気もします。

 階段でも一段一段上がっていけばよいのですが、息子の場合は上がってもまた下がってしまうこともしばしば。作りもシンプルな階段ではなく、ぐるぐる回りながら上っていくらせん階段のような気がしています。

 らせん階段の円を息子の一年に例えると、4月から始まり、円を回りながら少しずつ上に上がっていき、3月になってなぜか数段下るのです。そして、また4月から上り直してまた次の3月で数段下る。まさに3歩進んで2歩下がるといったところでしょうか。

 これが、「発達がゆっくり」といわれる、知的障害を伴う自閉症がある息子の特徴なのかもしれません。

過去にできたことができなくなっても「退化」ではない

 息子はときに、3歳くらいのときにできていたことが9歳になって急にできなくなる(急にやらなくなる)ことがあります。

 ボタンがある服の着脱など、昔はできたのに最近はやらなくなってしまったことなどもあり、親としては脱力感が半端ありません。

 しかし、過去にできていたことが今できなくても、退化したわけではないと思っています。過去にできたことは、またひょっこりできるようになることもありますし、「一度はできた」という事実は消えないからです。そんな息子なりの成長の仕方を理解したら、少し気楽に育児ができるようになりました。

 今、発達に課題がある幼いお子さんを育てている親御さんは、自分の子どもの成長が、他の子と比べて遅かったり、できたことができなくなったりしたら、大きな不安に駆られてしまうかもしれません。

 しかし、成長の仕方はその子それぞれ、いろいろなパターンがあります。私も母親として、「前はできたのにできなくなった」「前にできなくなったけど、またできるようになった」という経験を重ねたことで、そう思えるようになりました。

 何かができなくなっても、別の日に急成長を見せることもありますし、「階段を上って下りて」を年単位で繰り返す、何とも不思議な成長の仕方をする息子のような子だっています。

 子どもの障害や発達の遅れの有無にかかわらず、3月、4月は精神的に不安定になりやすい時期だと理解して、わが子の様子を温かく見守っていけたらいいですね。

(ライター、イラストレーター べっこうあめアマミ)

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べっこうあめアマミ(べっこうあめあまみ)

ライター、イラストレーター

知的障害を伴う自閉症の息子と「きょうだい児」の娘を育てながら、ライター、電子書籍作家として活動。「ママがしんどくて無理をして、子どもが幸せになれるわけがない」という信念のもと、「障害のある子ども」ではなく「障害児のママ」に軸足をおいた発信をツイッター(https://twitter.com/ariorihaberi_im)などの各種SNSで続けている。障害児育児をテーマにした複数の電子書籍を出版し、Amazonランキング1位を獲得するなど多くの障害児家族に読まれている(https://www.amazon.co.jp/dp/B09BRGSY7M/)。「べっこうあめアマミ」というペンネームは、障害という重くなりがちなテーマについて、多くの人に気軽に触れてもらいたいと願い、夫と相談して、あえて軽めの言葉を選んで付けた。

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