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「学校の給食時間が短い」の声多数! じゃあ何分必要? 大学教員が検証してみた

効果的な対策は?

 では、給食の時間は、どのように延ばせばよいのでしょうか。平日の授業の時間数は、戦後、教育基本法が改正されるたびに少しずつ増えていますし、学校給食法では給食の時間は指導の時間、つまり仕事の時間です。先生方には労働基準法が定めた休憩を取ってもらわないといけないし、働き方改革も進めなければなりません。従って、学校の1日のスケジュールの中で給食時間のために削れる時間は極めて限定的です。

 給食の時間を確保する手っ取り早い方法は、給食の準備を早く終わらせることです。多くの学校では、給食の準備時間、食べる時間、片付けの時間はセットになっていて、予定通りの時間で準備が終われば、食べる時間はそれほどタイトではない時間設定となっています。しかし、実際にはなかなか予定通りに準備が終わらず、結果的に準備の遅れが食べる時間を圧縮しているようです。

 そこで、調べてみると、給食の準備を短くするための研究論文がいくつか見つかりました(※4~※7)。これらの論文には学習心理学的にも行動経済学的にも妥当性があると考えられるさまざまな工夫が載っており、実際の給食準備で時間短縮の効果が確認されています。私の解釈が一部入っていますが、これらの工夫を以下のようにまとめてみました。

(1)「給食準備が早く終わると、『ゆっくり食べられる』『その後の昼休みが長く取れる』など、良いことがある」ということを子どもに十分理解させ、クラスの共通目標にする。

(2)準備の手順をなるべくシンプルにする。その上で、クラスの全員が理解できるよう、手順を図で示し、掲示する。

(3)タイマーなどの大型の時計を利用して時間経過をフィードバックする。

(4)時間内にできたこと、適切な行動、友達を助ける行動などをその都度褒める。場合によっては、シールなど目に見える形で褒める。

(5)子ども同士の声掛けの方法や言い方について説明する。その上で練習し、お互い協力するように促す。声掛け、協力のポイントは下記を参照。

・相手を非難せず、穏やかに言うこと。
・何をしてほしいのかを具体的に伝える。
・「ふざけないで」「しゃべらないで」などのように、「〇〇をやめて」という声掛けは、やめて何をすればよいか分からず、否定されていると受け取られることがあるのでNG。
・「早くして」は、具体的に何を早くすればよいのか分からないので微妙。
・「このお皿を〇〇のところに運んで」のように、具体的にやってほしいことを伝えているとOK。やってくれたら「ありがとう」「助かる」「さすが」などの声掛けをすればさらに効果的。

(1)の目的・目標の共有は、組織運営上、重要とされています。工夫や判断の拠り所にもなります。(2)や(3)のように段取りの全体像や現在の自分の位置を可視化することは、モチベーションを維持し、次の手順で「迷子になる」ことを防ぎます。

(4)は学習心理学では「正の強化」と呼ばれ、繰り返し褒めることでその行動は強化されていきます。一方、罰にはさまざまな副作用が知られているため、極力用いない方が良いでしょう。

(5)がうまく機能すれば「自分ごと化」が進みます。(1)と併せて、先生にやらされているからやるのではなく、「自分たちで工夫・協力して目標を達成するんだ」という気持ちが芽生えれば、クラス全員の能力を今よりもっと引き出せるかもしれません。

 さて、ここまでいくつかの研究論文を引用しながら書き進めてきましたが、こうした研究者の取り組みだけでなく、多くの先生方は、日々学校現場でさまざまな事例と向き合い、給食時間の確保について工夫をしていると思います。

 そこでお願いですが、そういう先生方はうまくいった方法を何らかの形で情報発信してください。そして、準備が遅くて困っている先生方はどんどん情報収集して、優れた取り組みをまねしてください。

「先生たちは忙しくてそれどころではない」という声が聞こえてくるかもしれませんが、給食は子どもたちの健康に関わる問題ですから、優先順位は勉強よりも上です。また、給食準備のスピードアップを通して、お互いが適切なコミュニケーションを取り、協力し合うスキルが身に付けば、結果的に給食以外の学級運営も格段に楽になるのかもしれません。

 現代は食育、食品ロスの削減、SDGs(持続可能な開発目標)などが重要視される時代です。このような時代において、時間がないから給食を牛乳で流し込むようなことが起きないように、少しでも長く給食の時間を確保できるよう、工夫していただけることを願っています。

【引用文献】
(※1)小森ノイ(1976)女子学生の喫食時間調査,栄養学雑誌,34,115-120.
(※2)小島唯・阿部彩音・安部景奈・赤松利恵(2013)学校給食の食べ残しと児童の栄養摂取状況との関連,栄養学雑誌,71,86-93.
(※3)安部景奈・赤松利恵(2011)小学校における給食の食べ残しに関連する要因の検討,栄養学雑誌,69,75-76.
(※4)鶴見尚子・五味洋一・野呂文行(2012)通常学級の給食準備場面への相互依存型集団随伴性の適用-相互作用を促進する条件の検討-,特殊教育学研究,50,129-139.
(※5)杉本任士(2016)相互依存型集団随伴性にトークンエコノミーシステムを組み合わせた介入による給食準備時間の短縮-小学校1年生を対象とした学級規模介入-,行動分析学研究,31,48-54.
(※6)宮木秀雄・山本拓実(2021)小学校通常学級における児童の給食準備行動への非依存型集団随伴性の適用,行動分析学研究,35,177-186.
(※7)杉本任士(2021)相互依存型集団随伴性による給食準備・片付け時間の短縮-小学校2年生を対象とした学級規模での介入の効果-,行動分析学研究,36,58-66.

(近畿大学生物理工学部准教授 島崎敢)

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島崎敢(しまざき・かん)

近畿大学生物理工学部准教授

1976年、東京都練馬区生まれ。静岡県立大学卒業後、大型トラックのドライバーなどで学費をため、早稲田大学大学院に進学し学位を取得。同大助手、助教、国立研究開発法人防災科学技術研究所特別研究員、名古屋大学未来社会創造機構特任准教授を経て、2022年4月から、近畿大学生物理工学部人間環境デザイン学科で准教授を務める。日本交通心理学会が認定する主幹総合交通心理士の他、全ての一種免許と大型二種免許、クレーンや重機など多くの資格を持つ。心理学による事故防止や災害リスク軽減を目指す研究者で、3人の娘の父親。趣味は料理と娘のヘアアレンジ。著書に「心配学〜本当の確率となぜずれる〜」(光文社)などがあり、「アベマプライム」「首都圏情報ネタドリ!」「TVタックル」などメディア出演も多数。博士(人間科学)。

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コメント

1件のコメント

  1. 15分と聞くと確かに短すぎると感じますが、社会に出て会社員になると、昼食時間は10分から15分で済まさないと間に合わないので、その練習にはなりますね。