「学校の給食時間が短い」の声多数! じゃあ何分必要? 大学教員が検証してみた
「学校の給食の時間が短い」という話をよく聞きますが、どの程度の時間が必要なのでしょうか。大学教員が検証してみました。
近年、「学校の給食の時間が短い」という話を聞くようになりました。実際にSNS上では、「給食時間が短すぎる」「地元の中学校の給食時間は15分」「小学校の給食時間が20分なのはやばい」といった内容の声が上がっています。
多くの学校では、給食時間を15~20分に設定しているようですが、子どもたちが無理なく給食を食べ終えるには、どの程度の時間が必要なのでしょうか。事故防止や災害リスク軽減に関する心理的研究を行う、近畿大学生物理工学部・准教授の島崎敢さんが検証しました。
最低でも25分は必要か
ある日、私は、小学生の娘から「給食を食べる時間が短すぎて困る」という相談を受けました。そこでインターネットで検索してみたところ、相談サイトには同様の相談が多数寄せられており、関連の記事もたくさん配信されています。どうやら「給食を食べる時間が短すぎる問題」は、多くの小中学生を悩ませる全国的な問題のようです。
一方、私が調べた範囲では、これまでの記事は「給食時間が短い」という実態を伝え、「これで良いのか」という問題提起をするにとどまっているものが多いようです。そこで、今回の記事では、いくつかの研究やデータを引用しながら客観的な議論を進め、解決策についても検討してみたいと思います。
始めに「『短すぎる』とはどのくらいの時間なのか」「『十分な時間』はどのくらいなのか」を考えてみたいと思います。そもそも人間は、一般的にどのくらいの時間をかけて食事をするのでしょうか。また、その個人差はどの程度なのでしょうか。
例えば、誰が座っても壊れない椅子を作るためには、体重が一番重い人に合わせた強度設計が必要です。同様に、誰もが食べ終わることができる給食時間にするには、食べるのが遅い人に合わせた時間設定が必要です。そして、こういった議論をするためには、食事時間の平均や分散のデータが必要です。
食事時間に関する調査は数多く行われていますが、ほとんどの調査は「10分以内」「10分から15分」「15分から20分」のように区切りを設けて選択してもらう方式です。こういったデータも参考にはなりますが、このタイプのデータからは正確な平均値や分散が算出できません。
そこで、論文検索サイト「J-STAGE」で研究論文を探したところ、女子短大生の食事約2200食分の食事時間の平均値は14.02分、データの散らばり具合を示す数字である「標準偏差」は3.11分であるというデータを発見しました(※1)。
食事時間の平均と標準偏差が分かれば、食事開始から何分で何パーセントの人が食べ終わっているかを計算できるため、計算結果を図表にしてみました(図1、表1)。
この調査の対象者は18歳〜20歳の短大に通う女性で、「何時までに食べ終えなさい」と言われていない状態でのデータです。そのため、このデータをそのまま小中学生の給食に当てはめるのは少し無理があるかもしれませんが、こういった違いを理解した上で使えば、食事時間が十分であるかを評価する参考にはできます。
例えば、ある日の給食時間が15分だった場合、「大人の女性が普通に食べても半分強の人しか食べ終わらない時間なのだから、小中学生の食事時間としては短すぎるのではないか」という具合です。また、25分あれば、大人は100%食べ終わり、20分でも97%以上の人が食べ終わっているため、「できれば25分、短くても20分は確保したいね」という具合に検証できます。
図1からは、もう1つ面白いことが分かります。グラフの中には角度が急な部分があり、わずか10分足らずの短い時間に食べ終わる人が集中しています。だから食べ終わりの時間は、この時間帯より後に設定する必要があります。現在の食事時間がどのくらいなのかにもよりますが、この急な角度の付近に食べ終わりの時間があるなら、給食時間を数分延長するだけでも、事態が劇的に改善できるかもしれません。
この急な角度が小中学生の場合、どの辺りにくるのかは、クラスの子どもたちのデータを基に計算する必要があるかもしれません。学校の先生は、子どもたちに休みの日の昼食時間を計ってもらえれば、自分のクラスのデータを集計できます。
表計算ソフトがあればAVERAGE関数で平均値が、STDEV関数で標準偏差が計算でき、この2つの数字とNORMDIST関数を組み合わせれば、任意の経過時間の食べ終わり率が計算できます。
なお、食事の時間は個人情報なので、データは自由意志で出してもらうこと、集めたデータが漏えいしないように細心の注意を払うことを忘れないようにしましょう。
給食時間が短いと栄養不足に陥る可能性
給食に関することは、「学校給食法」という法律に書かれています。学校給食法にはさまざまな目的が書かれていますが、最初に「適切な栄養の摂取による健康の保持増進を図ること」とあります。
ここにある「適切な栄養の摂取」の中身、つまり給食で摂取すべきカロリーや各栄養素は「学校給食実施基準」で基準値が定められていて、給食の献立は、この基準を満たすように作られています。つまり学校給食は「残さず食べる」ことで、初めて法律が定めた目標が達成できるのです。しかし、実際には多くの食べ残しが発生しています。
環境省の調査によれば、1人当たりの給食の食べ残しの量は年間7.1kgにもなるそうです。この値は平均値のため、食べ残しをしない子どもも含めた数値です。
では食べ残す子どもの割合はどれくらいいて、また、食べ残している子どもは必要な栄養を取れているのでしょうか。この疑問に答える研究論文が見つかりました。
この研究では、都内の小学5、6年生の給食の食べ残しとその内容を調査したところ、36.7%の子どもが給食を残しており、残した子どもが摂取したカロリーや各種栄養素の中央値は、完食した子どもに比べて2〜3割少なく、ビタミンCに限っては4割ほど少なかったことを明らかにしています(※2)。
ではなぜ子どもたちは給食を残すのでしょうか。給食を残す原因を尋ねる調査も多数行われており、どの調査でも「嫌いなものが出る」「量が多い」「食べる時間が短い」の3つが必ず上位にランクインします。多くの調査では「嫌いなものが出る」が1位となっていますが、これは給食全般について漠然と質問しているからなのかもしれません。
ある日の給食に食べ残しがあったかどうかと、「今日の給食に嫌いなものがあったか」「今日の給食の時間は足りたか」などの質問に対する回答の関係を調べた研究では、「嫌いなものがあった」よりも「時間が足りない」の方が食べ残しの有無により強い影響を与えていることが分かっています(※3)。
短すぎる食事時間は、医学的な見地からも問題かもしれません。早食い習慣と健康の関係を指摘した研究は非常に多く、いずれも早食い習慣が各種の検査数値を悪くしたり、肥満や生活習慣病につながったりすると結論づけています。給食を通じて「急いで食べる」ことが身に付いてしまうと、子どもたちの将来的な疾患リスクが上がってしまいます。
また、数年に一度ほどですが、給食を喉に詰まらせ、窒息して亡くなる子どももいます。給食の時間が短く、急いで食べるほど、こうした事故のリスクが高まると考えられます。
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