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うつ病でひきこもり状態の30歳長男 “無収入脱出”のため利用した2つの制度 社会保険労務士・FPが解説

就労すると障害年金はもらえない?

 そこまで話を伺った私は、障害年金の説明を始めました。

「息子さんは、その障害で初めて病院を受診した日が会社員のとき(厚生年金のとき)なので、障害厚生年金を請求することになります。障害厚生年金には、障害の程度が重い方から1級、2級、3級とあります。仮に障害厚生年金の3級に該当した場合、月額で約4万8600円になります」

 すると母親は不安を口にしました。

「長男が働くようになったら、障害年金はもらえなくなってしまうのでしょうか」

「息子さんが働くようになったからといって、必ずしも障害年金が停止になるわけではありません。働きながら障害年金が受給できるかどうかはケース・バイ・ケースで、各個人の状況を踏まえて判断されます。なお、就労と精神疾患による障害年金の関係は次のように説明されています」

 そこで、私は厚生労働省の「国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン」に記載されている次の文章を提示しました。

労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認した上で日常生活能力を判断する。
※厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン 2016年9月」より

「フルタイムで働き、さらに残業もこなせるくらいまで回復すれば、障害年金が停止してしまうこともあるでしょう。一方、障害者雇用や就労継続支援(障害や病気のために一般企業などで働くことが困難な人を対象に、就労の場を提供する制度)で働いているようであれば、働きながら障害年金を受給できる可能性は高いことでしょう。実際に障害年金を受給しながら障害者雇用などで働いている方は多くいます。何はともあれ、まずは障害年金の請求をするところから始めましょう。私もご協力いたしますので」

「いろいろとご説明いただき、どうもありがとうございます。よく分かりました。請求のお手伝いもどうぞよろしくお願いいたします」

 母親はそう答え、長男も同意を示すように小さくうなずきました。その後、長男から正式に依頼を受けた私は、障害年金の請求に必要な書類をそろえ、請求を完了させました。

 障害年金の請求から3カ月が過ぎた頃。母親から「障害年金の3級を受給できた」という連絡がありました。さらに、母親は長男の近況についても話してくれました。

「おかげさまで長男は無収入の状態から抜け出せたので、少しだけ安心できたようです。現在は、就労支援の方に協力してもらいながら、就職活動の準備をしています。一時はどうなるものかと不安ばかりでしたが、おかげさまで何とかなりました。本当にどうもありがとうございました」

 そう話す母親の声はとてもうれしそうでした。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

【知ってた?】就労後も障害年金の受給は可能 その理由を写真で説明!

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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