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「切り傷」の正しい止血&処置方法について詳しく解説!

日常のささいなきっかけで発生する「切り傷」。その正しい処置方法について、医師とともに解説します。

切り傷ができた時の適切な対処法とは?
切り傷ができた時の適切な対処法とは?

 日常のささいな動作がきっかけで生じてしまう「切り傷」。状況によって傷口の広さや深さはさまざまです。放っておくだけで自然に治癒するものであればよいのですが、手当てが必要となる大きな切り傷だと、とっさに判断ができない場合もあるでしょう。適切な手当ての方法や医療機関を受診する必要性の判断など、切り傷の正しい処置方法について、医師の市原由美江さんに聞きました。

切り傷とは

 切り傷とは、皮膚の表面を何らかの原因で切ってしまった傷口の切れ目のことを言います。状態としては、皮膚と呼ばれる部分のみの損傷から、筋肉や骨に至るもののほか、周囲に腱(けん)が走行していれば腱も含めて切ってしまうケースもあります。皮膚表面の下には無数の血管が走っているため、出血する場合がほとんどですが、出血量が多く、全身の血液量が減少し過ぎてしまうと血圧が下がって重篤になることもあります。

 切り傷の対処法を間違えば、その部分から細菌が侵入して炎症を起こし、化膿(かのう)する場合もあります。化膿が原因で周囲が腫れることがあるほか、全身の反応としては細菌と戦うための生体反応が働くことで、発熱を伴う場合もあります。

 さらに重症になると、感染部分の組織が死滅して再生できなくなることもあります。また、侵入した細菌が血液の中まで入り込み、血流とともに全身に回ってしまうと、敗血症に発展して命に関わる可能性もあります。

切り傷ができてしまったら

 切り傷ができてしまう機会は、日常生活の多くの場面で見られます。

・カッターを使って段ボールを切っている時に勢い余って指を切ってしまう
・料理中、ピーラーや包丁で指を切ってしまう
・割れたガラスや陶器の後始末の際に指を切ってしまう
・仕事中、鋭利な木や鉄材などで大きく切ってしまう
・草むらを歩いた時、草の鋭利な部分で切れてしまう
・読書や仕事で紙を扱っている時に紙で切ってしまう
・食事や飲水中、缶や欠けた食器で唇を切ってしまう
・カミソリを使用したひげ剃りなどで顔を切ってしまう

 それでは、切り傷ができてしまった時はどうすればよいのでしょうか。切り傷の手当てにおける4ステップは以下の通りです。

【1.傷口の確認をする】
 体のどこの部位に切り傷を作ったか、どのような原因で起きたかなど状況によっても変わりますが、事故などで意識障害を伴うような重症でなければ、まずは傷の深さや広さ、傷口の汚れの有無、出血量を観察してください。その上で、自己処理すべきか、すぐに病院で治療を受けるべきか判断します。

【2.傷口を洗浄する】
 出血が少なければ、傷口を水道水できれいに洗い流します。その際はため水ではなく、流水で十分に洗うようにしてください。傷口の浅い部分に異物がある場合はピンセットなどで取り除いても構いませんが、深いものや大きなものは医療機関で処置する必要があります。

【3.止血をする】
 出血が続くようなら、傷口にハンカチやタオル、ガーゼなどを当てて圧迫しなければなりません。その際、患部を心臓の高さより高い位置に持っていくのがポイントです。手や手指などであれば座ったままでも挙上できますが、足などであればいったん横になり、タオルケットやクッションなどの上に置いて挙上するようにしてください。

【4.傷を保護する】
 止血が確認できたら、次は開いている傷口の保護です。絆創膏(ばんそうこう)ではなく、創傷被覆材を使用するのがよいでしょう。最近は市販品でも、傷のパターンに合わせた、さまざまな種類の保護製品がそろっています。傷口の浸潤環境を作り出すハイドロコロイドや、浸出液を吸収しながら保護するアルギン酸塩、ポリウレタンフォームなどを材料とするものなどがあります。傷口の程度に伴った創傷被覆材を使用してください。

湿潤療法(モイストヒーリング)を用いた対処法

 切り傷に対する処置方法として広く知られているのは、消毒液を使って消毒をし、ガーゼを当てて傷口を乾燥させることで治療するものでした。しかし、現在は、その考え方とは全く逆の「湿潤療法(モイストヒーリング)」と呼ばれる方法が用いられるようになっています。

 湿潤療法とは、傷から出る浸出液が持つ「細胞を増やす力」、いわゆる自然治癒力によって傷を回復させようというものです。傷口が腫れたり、熱感を持ったり、赤みや痛みが生じたりしていない場合は炎症ではありません。これらの症状が見られず、浸出液が出ている場合はガーゼで無理に吸収せずに、適切な創傷被覆材を使用して傷の乾燥を防ぎ、浸出液が創傷被覆材に染みてきたら交換するようにします。

【湿潤療法を使った自己処理がNGなケース】
・かさぶたができてしまっている
・化膿している
・糖尿病患者やステロイド内服中、乳幼児、老人など免疫力の弱い人
・出血が止まらない
・傷口に異物が入っている
・細菌感染の可能性が考えられる
・動物にかまれた場合

やってはいけない処置法

 切り傷ができてしまった場合に、行ってはいけない処置法があります。

【縛る】
 切り傷の部位が心臓より遠い末梢部分(指先など)であれば、その根元を縛るとよいという話もよく聞かれます。しかし、これは逆効果となり止血しづらくなります。一時的な圧迫は必要ですが、ゴムやひもできつく縛ることは血行不良につながり、組織が死滅してしまう危険性もあります。

【消毒薬で消毒する】
 昔から知られる「赤チン」をはじめとした消毒薬は、使用しない方が傷の治癒を促します。外部から侵入しようとした細菌などは消毒によって死滅しますが、同時に止血作用のある血小板や細菌防御、または細胞の再生補助に関わる白血球の働きまでも阻止してしまうのです。

【傷を乾燥させる】
 傷を乾燥させると、傷口に肉芽を作る細胞が移動できないため、なかなか傷口がふさがりません。傷口から出る浸出液を取り除くと、傷の治りを遅くする原因となります。

 また、次のような状態の時は必ず病院で処置をしてください。

・ガラスなどの異物が入っている(可能性がある)場合
・くぎなどによる深い切り傷
・泥などの汚染が多い切り傷
・骨が見えるまでの切り傷
・傷口がギザギザしている
・2~3分しても出血が止まらない
・傷口が化膿している
・刃物で指先を切り落としてしまった

切り傷を放置するとどうなる?

 切り傷の処置をせずに放置すると、目に見えないゴミや細菌が傷口に残ってしまい、二次的な病気に移行する場合があります。

【破傷風】
 破傷風の原因となる「破傷風菌」は土の中に存在します。山や川の中、工事現場など土のある場所で何かの拍子に指や手足に切り傷を負うと、傷口に土が付着する可能性があります。その際、洗い流しが不完全な状態で放置すると、傷口から菌が侵入し、症状を引き起こします。首筋の張り、口が開けづらくなるなどの症状が進行すると、顔面の筋肉が引きつり、さらに悪化すると全身のけいれんや呼吸困難などを発症することもあります。

【蜂窩織炎(ほうかしきえん)】
 傷口からブドウ球菌などの細菌が侵入し、皮下組織にまで入り込むことで症状を引き起こすものです。痛みや腫れ、赤みが出現し、高熱も出ます。血行が悪く、足などがむくんでいる人に起きやすい傾向があります。

傷が治るまでのメカニズム

 皮膚は全身を守る一つの臓器といっても過言ではありません。体の中には骨や血管、内臓が多く詰まっています。それらを守る役割が皮膚であり、外部からの細菌や刺激が内部に入り込まないようにクッションとなったり、炎症反応を起こしたりすることで防御しているのです。人間の体内の60%は水分で保たれていますが、皮膚は水分を失わないように調節し、汗をかくことで体温調整もしています。

 また、皮膚は新陳代謝によって新しい細胞が作り出されると、古い細胞が皮膚の表面へ移動し、はがれ落ちます。こうした機能があるからこそ、切り傷ができてしまっても時間経過とともに皮膚が修復されていくのです。

 皮膚が傷つくと血管が断裂され、出血が起きます。血液の中に含まれる血小板は、すぐに傷口に集結し、液体である血液を固めます。血小板が作り出す物質であるサイトカインは、「傷ができた」「出血している」という情報を発します。それをキャッチした白血球やマクロファージが、ダメージを受けた組織などを処理するほか、浸出液を分泌させ、外部から細菌などを侵入させないように防御します。さらに、肉芽を作り出す細胞に働きかけることで傷が治癒するのです。

 病院の縫合処置を受けると、このような一連の働きがスムーズになり、再生された皮膚の見た目がきれいに形作られることにもつながります。

傷の回復に効果のある食べ物

 切り傷の回復に効果的な食べ物は以下の通りです。

【タンパク質】
 血や肉、皮膚など、すべてのものは基本的にタンパク質からできています。切り傷で失った組織や細胞を作り出すために、その主成分となるタンパク質を摂取することが早期回復の一手段となります。肉類、魚貝類、卵、大豆類に多く含まれます。

【亜鉛】
 皮膚を作り出す細胞の活性化を促します。皮膚のケラチンも作り出すため、強い皮膚作りにも役立ちます。牡蠣、アサリ、牛肉、レバー、大豆、高野豆腐、玄米などに多く含まれます。

【クエン酸、ビタミンC】
 両者は亜鉛を吸収しやすくするほか、ビタミンCは皮膚の成分であるコラーゲンを作る働きを手助けする効果もあります。「ビタミンC=果物」のイメージがありますが、野菜の方がより効果的に摂取することができます。クエン酸は梅干し、ビタミンCはブロッコリー、キャベツ、ピーマン、キウイフルーツ、オレンジなどに多く含まれます。

【ビタミンA】
 傷口がふさがりやすくなり、皮膚の新陳代謝を活発にする働きがあります。卵、ブロッコリー、ホウレンソウ、トマト、カボチャなどに多く含まれます。

【ビタミンB群】
 皮膚の細胞を作り出すほか、特に炎症が起きている場合には緩和する役割も果たします。卵、納豆、バナナ、牡蠣、鮭、海苔、赤ピーマンなどに多く含まれます。

【ビタミンE】
 細胞の酸化を防ぎ、傷の回復を早める効果があります。ナッツ類、ホウレン草、ブロッコリー、かぼちゃ、キウイフルーツなどに多く含まれます。

いざという時、慌てないために…

「古くから、傷に対する処置法は人の知恵をもとに編み出され、伝えられてきましたが、研究が進むにつれ、傷口を乾燥させるのではなく、浸出液の力で自然治癒させる方法へと大きく変わってきました。正しい方法を知ることは、傷による被害を小さくとどめるだけでなく、傷痕をできるだけ残さないことにもつながります。傷ができてしまっても、慌てずにしっかり対処できるように準備しておきましょう」(市原さん)

(ライフスタイルチーム)

市原由美江(いちはら・ゆみえ)

医師(内科・糖尿病専門医)

eatLIFEクリニック院長。自身が11歳の時に1型糖尿病(年間10万人に約2人が発症)を発症したことをきっかけに糖尿病専門医に。病気のことを周囲に理解してもらえず苦しんだ子ども時代の経験から、1型糖尿病の正しい理解の普及・啓発のために患者会や企業での講演活動を行っている。また、医師と患者両方の立場から患者の気持ちに寄り添い、「病気を個性として前向きに付き合ってほしい」との思いで日々診療している。糖尿病専門医として、患者としての経験から、ダイエットや食事療法、糖質管理などの食に関する知識が豊富。1児の母として子育てをしながら仕事や家事をパワフルにこなしている。オフィシャルブログ(https://ameblo.jp/yumie6822/)。eatLIFEクリニック(https://eatlife-cl.com/)。

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