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娘と家出した妻に毎月6万円を送り続け…人間ATMと化した男が辿り着いた「絆の整理」(下)

淡い希望を捨てきれずにいたが…

「離れて暮らしてほとんど連絡を取らず、お金のやり取りだけ。これでは離婚したも同然ですよ。別居と離婚の違いは戸籍だけなので、籍だけ入れていても仕方ないのでは?」

 私は裕司さんへアドバイスしたのですが、それでも裕司さんは被災者から勇気をもらうことで7年間、妻子を待ち続けたのです。7年間、女手一つで当時4歳だった娘さんを育てるのは大変なので「男がいるのでは」と勘ぐるべきですが、妻への未練をにじませる裕司さんにそのことを伝えるのは私には無理でした。

「あわよくば娘が帰ってきて、妻と寄りを戻し、夫婦としてやり直したい」

 裕司さんはそんな淡い希望を捨てきれずにいたのですが、そんな中、妻の方から決定的なメールが届いたのです。「一緒になりたい人がいるから別れてほしい」と。妻は岡山県内で原発ゼロ運動を行っている団体の職員と一緒に暮らし、夫婦同然の生活を送っており、あとは籍を入れるだけという段階でした。

「ふざけるな! 震災から今日まで……お前があんなふうに出て行って、こっちはどれだけ苦労したと思っているんだ!! そっちだけ幸せになって喜べるわけがないだろ!」

 裕司さんは真っ赤な顔で思いの丈を妻にぶつけたのですが、妻は反省の色も見せず、「だからどうしたの」という感じで開き直ったのです。

「花梨は彼の娘として育てていくつもり。もう福田家の跡取りでもないんだし、福島の地を踏むことは金輪際ないわ! いい加減、花梨のことは忘れて、そっちはそっちで生きていってくださいな」

 妻は離婚の条件として養育費の停止を提案してきたのですが、実際のところ、裕司さんも会社員としての仕事に加え、週末は除染のアルバイトに出かけており、すでに心身共に限界が近付いていました。離婚を断ったところで新しい彼氏がいるのなら、妻が裕司さんのところへ戻ってくることは期待できず、娘さんにとっても生みの親と育ての親が存在すれば、今後の生活に支障が出ることが予想されるので、裕司さんは苦渋の決断でしたが、離婚に応じ、養育費を止め、休日の仕事をやめることでようやく体力的にも金銭的にも、そして精神的にも落ち着きを取り戻すことができたのです。まさに金の切れ目が縁の切れ目という感じで、裕司さんは「人間ATM」状態から解放されたのです。

 もしかすると震災が起こらなければ、裕司さん夫婦は離婚せずに済んだかもしれないので、裕司さんも震災の被害者だと言えるのではないでしょうか。

「絆の重要性を再認識したという美談をよく耳にしますが、本当にそんな夫婦ばかりなのでしょうか。僕は違います。僕は今回の件で、誰との絆が大事で、誰との絆が大事ではないかを再認識しましたよ。結果的に『絆の整理』ができたんじゃないかと思っています。もちろん、娘を失ったショックが大きいことに変わりはありませんが」

 裕司さんはそんなふうに振り返りますが、震災から7年間、離婚の件数は増えるどころか減っているくらい。震災をきっかけに夫婦間にトラブルが起こったケースが「震災前」には存在しなかったことを考えると、離婚を思いとどまっている夫婦が現在も相当数いることは察しがつきます(離婚件数は平成29年=21万、平成28年=21万、平成27年=22万、平成26年=22万、平成25年=23万、平成24年=23万、平成23年=23万。厚生労働省「人口動態統計」より)。

 まだ夫婦の関係が壊れていなければ、震災はやり直すチャンスでしょう。しかし、すでに壊れている場合は別です。裕司さんは震災が起きる前に離婚していた方がよかったかもしれません。なぜなら、つらい思いをするのは1度で済んだのだから。震災があって一度はやり直したものの、その後、妻に出て行かれたので裕司さんは2度もつらい思いをしなければならなかったのです。相手の気持ちが一時的なものか、そうではないのか。それを見極めることが大切です。

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(露木行政書士事務所代表 露木幸彦)

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露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)

露木行政書士事務所代表

1980年12月24日生まれ。いわゆる松坂世代。国学院大学法学部卒。行政書士・ファイナンシャルプランナー(FP)。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化し行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界最大規模に成長させる。他で断られた「相談難民」を積極的に引き受けている。自己破産した相手から慰謝料を回収する、行方不明になった相手に手切れ金を支払わせるなど、数々の難題に取り組み、「不可能を可能」にしてきた。朝日新聞、日本経済新聞、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインで連載を担当。星海社の新人賞(特別賞)を受賞するなど執筆力も高く評価されている。また「情報格差の解消」に熱心で、積極的にメディアに登場。心理学、交渉術、法律に関する著書を数多く出版し「男のための最強離婚術」(7刷)「男の離婚」(4刷、いずれもメタモル出版)「婚活貧乏」(中央公論新社、1万2000部)「みんなの不倫」(宝島社、1万部)など根強い人気がある。仕事では全国を飛び回るなど多忙を極めるが、私生活では30年以上にわたり「田舎暮らし」(神奈川県大磯町)を自ら実践し「ロハス」「地産地消」「食育」の普及に努めている。公式ブログ(https://ameblo.jp/yukihiko55/)。

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