9人体制の法人警護で暴力団員と対峙…緊迫の応接室〜実録・ボディーガード体験談
「御社の協力は必要ない」…眼光鋭い相手の反応は
しかし、企画室長は態度を変えません。「ご心配ありがとうございます。ただし、御社の協力は必要ありません」と告げました。相手の態度が急変するかもしれない緊張の瞬間です。しかし、相手は眼光こそ鋭かったものの、言葉を荒らげることはありませんでした。おそらく私が同席した時点で、いろいろと悟っていたように思います。名刺を出さなかったのも意図してのことでしょう。肩書を名乗ると、それだけで脅迫になる恐れがありますから。
彼らは最後まで、私が誰かは尋ねてきませんでしたが、警察と勘違いしていたように思います。もしかしたら、別室に刑事がいたことも察していたかもしれません。それに、応対した企画室長が、実に毅然(きぜん)としていました。一般の人が極道を前にして、あの堂々とした態度は無理です。相手もプロなので、何かを感じてもおかしくないでしょう。
実は、警護が同席するメリットの一つがこれです。心のゆとりは、毅然とした態度につながります。多くの人は、落ち着かない心持ちで席に着き、相手のペースに引き込まれてしまいます。シビアな話し合いの場で不安を見せたら、勝ち目はありません。
そしてこの日以降、彼らが現れることはありませんでした。「この会社からは1円も引き出せない」と判断したのだと思います。早い段階でそれが分かったので、彼らのダメージも少なかったのでしょう。仮に、仕込みから長い月日が経過していた場合、「1円も取れませんでした」では、引くに引けなかったはずです。やはり「早期対応」が鍵です。人は時間と金を注ぎ込むと、それを回収するまで止まりません。最悪の場合、死人が出ます。
この日で危険は去りましたが、警護は半年間続きました。なぜなら、「脅迫が終わってからが危険の始まり」というケースもあるからです。裁判でもそうですが、脅迫やトラブルの真っただ中はある意味、安全なのです。
脅しの目的は単純です。「要求をのめ! さもないと、どうなっても知らんぞ!」というゴリ押しです。逆にいえば、「要求さえのめば、何もしませんよ」とも受け取れます。つまり脅迫中は、相手にとって“交渉の最中”でもあるのです。そんなときに暴力を振るっても得がありません。ただし、脅迫がやんだ後や、その理由によっては、前にも増して警戒が必要になります。今回のケースだと、相手が「メンツをつぶされた」と感じている可能性があります。対象が暴力団の場合、時には顔を立てる配慮も必要です。
ちなみに法人の警護では9割以上が、大きな問題が起きずに終わります。むしろ個人のご依頼の方が、トラブルが多い印象です。これには、3つの理由があると見ています。
一つ目は、「企業への脅しは金銭目的が多い」点です。金銭が狙いの場合、成功率が低ければ諦めます。逆に、ストーカーのように、憎しみが原動力の場合、損得抜きで襲撃する者も珍しくありません。後先を考えない相手は危険です。
2つ目は「警護体制の強固さ」です。単純に個人よりも法人の方が、警備予算が多いのです。予算が上がれば、おのずと安全度も上がります。そして3つ目は、「初動の早さ」です。法人の場合、予算が組みやすいので、「ちょっと危険かも?」という早めの段階で依頼ができます。
個人の場合は、深刻な状況になってからのご依頼が多いので、解決に時間がかかります。しかし多くのトラブルは、早期対応で被害を軽減できるのです。
(一般社団法人暴犯被害相談センター代表理事 加藤一統)

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