「猫」も虫歯や歯周病になる? 歯のケア方法を獣医師に聞いた
動物も虫歯や歯周病になることがあるのでしょうか。身近なペットである「猫」が虫歯や歯周病になる可能性と、歯の手入れ方法について、獣医師に聞きました。

6月4日から10日は「歯と口の健康週間」です。啓発活動の一環として、動物園でカバなどの歯磨きが披露されることがありますが、そもそも、動物も虫歯や歯周病になることがあるのでしょうか。身近なペットである「猫」が虫歯や歯周病になる可能性と、歯の手入れ方法について、獣医師の増田国充さんに聞きました。
歯周病に要注意
Q.猫も人間と同様、虫歯など歯の病気になることはあるのでしょうか。
増田さん「猫にも、お口のトラブルが存在します。人間では虫歯と歯周病が主なものですが、猫の場合は歯周病に関連したものがほとんどです。
歯科で『齲歯(うし)』と呼ばれる虫歯は、猫に生じることはほぼないといわれています。これは、普段食べている物の違いに関係しています。猫は肉食動物で、口の中が弱アルカリ性になっています。口の中の環境が酸性になると、歯を溶かすことで知られる『ミュータンス菌』が活発化して歯を溶かしますが、猫は肉食でミュータンス菌が生存しにくいことが、虫歯がほぼない理由の一つです。
一方で、猫の歯周病は非常に多く、高齢になると歯石の付着がみられるほか、強い歯周炎を伴って、食べることが困難になるほどの痛みが生じることがあります。歯周病菌は、口の中がアルカリ性だと活発化しやすい特徴があります。また、飼い猫が一般的に食べているキャットフードは食べかすが口の中に残りやすく、歯垢(しこう)となります。歯垢がたまると歯周病菌が繁殖しやすくなるため、特に歯垢の残りやすい歯と歯茎の間を中心に歯周炎が生じます。
ほかに、歯に穴が開いたり溶けたりして虫歯のように見えることがありますが、これは厳密にいうと虫歯ではなく、『破歯(はし)細胞性吸収病巣』と呼ばれるもので、その原因は不明とされています。また、感染症や免疫のアンバランスによって、歯茎の腫れや『肉芽腫(にくがしゅ)』と呼ばれるできものが生じることもあります。ちなみに、猫の歯の本数は乳歯が26本、永久歯が30本です」
Q.歯の病気の治療法を教えてください。
増田さん「『猫では歯周病が多い』とご紹介しましたが、歯垢や歯石はきれいに取り除く必要があります。特に、歯石は目に見える部分だけでなく、歯周ポケットと呼ばれる、歯と歯茎の間に隠れている部分の処置が、特に重要です。重度の歯周病で歯がぐらついている場合は、抜歯することもあります。その際、目に見えない部分はエックス線撮影をして抜歯の必要性があるかの評価をします。
また、さまざまな理由で歯が折れてしまった場合、その部分の修復治療を行う動物病院もあります。専門医による、より高度な歯科治療が行える動物病院もあります。歯の疾患の中には、歯以外の箇所が原因の場合もあり、その際は、原因となる疾患の治療も行います」
Q.人間の場合、医師と歯科医師とは別の資格です。獣医師の世界でも、別の資格があるのでしょうか。
増田さん「現在の獣医師法では、動物に対して侵襲(注射や投薬、手術など体に負担を掛ける行為)を伴う治療行為を行えるのは獣医師のみとなっています。動物に対する歯科治療では、歯周ポケットの治療や抜歯といった、出血を生じる可能性のある処置を行うことを前提としています。そのため、獣医師によって処置が行われなければなりません。
人間を診療する医師の場合、『医師』と『歯科医師』とで資格が分かれていますが、獣医療では区別されていません。ただし、歯科医療に詳しい獣医師は存在し、日本小動物歯科研究会が獣医歯科のレベル認定制度を設けており、専門知識や技術を持った獣医師が全国で活躍しています」
Q.猫の症状に合わせて、かかる獣医師を選んだ方がよいのでしょうか。それとも、まずはかかりつけの獣医師に診てもらうのがよいのでしょうか。
増田さん「動物の場合は、人間の医療ほど診療科目が細分化されていないところがあります。より高度な歯科治療を必要とする場合は、専門医にお任せすることがあります。まずは、猫の歯の状態をかかりつけの獣医師に確認してもらい、必要に応じて、専門分野に精通した動物病院を紹介してもらうのがよいと思います」
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