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「髪を染めていると、採用されない」という話も… 飲食業界が頭髪に厳しいのはなぜ?

多くの飲食店が、従業員の頭髪や服装について、厳しいルールを定めているのはなぜなのでしょうか。専門家に聞きました。

飲食業界が頭髪や服装に厳しい理由は?
飲食業界が頭髪や服装に厳しい理由は?

 新型コロナウイルスのオミクロン株の流行が続いていますが、まん延防止等重点措置が3月に解除されたことを受けて、通常営業に戻す飲食店が増えています。ただ、飲食業界では、新型コロナ以前から人手不足が叫ばれており、コロナ禍で失業者が増える中でもなかなか求職者が集まらず、休業を余儀なくされる店もあります。

 飲食業界が不人気な要因について、ネット上では「髪を染めていると、採用されない」といった話もあり、頭髪や服装のルールが厳しいことも関係しているのかもしれません。多くの飲食店では、なぜ従業員の頭髪や服装について、厳しいルールを定めているのでしょうか。また、飲食店がルールを緩和した場合、どのようなメリットやデメリットが生じるのでしょうか。飲食店専門経営コンサルタントの成田良爾さんに聞きました。

異物混入や第一印象悪化を防ぐ

Q.飲食業界では、なぜ従業員の頭髪や服装について、厳しいルールが定められているのでしょうか。

成田さん「従業員の身だしなみが不適切な場合、髪の毛などの異物が料理に混入する危険性が高まるためです。そこで、飲食業界では、以前から身だしなみに関する厳しいルールが設けられてきました。異物混入で最も多いのが髪の毛なので、多くの飲食店ではまず頭髪を清潔にすることが求められ、『髪は毎日洗う』『髪をとかして、抜けている頭髪はあらかじめ取り除く』『長髪の場合は1つに結ぶ』などのルールを定めていることが多いです。

また、服装についても、ルール上、小さなごみやほこりが付着しにくい素材を使った、店専用のユニホームの着用を義務付けたり、異物混入の恐れのある装飾品を外したりすることなどを定めていることが多いです。つまり、異物混入や食中毒のリスクを極力回避するために、従業員は身だしなみのルールをしっかり守って仕事に臨むべきだとされています」

Q.従業員の染髪を禁じる飲食店が多いともよく聞きますが、大手の飲食チェーン店の中には、従業員の染髪を認めている店もあるようです。髪を染めた従業員は、来店客にどのような印象を与えるのでしょうか。

成田さん「業態や客層にもよりますが、一般的に髪を染めた従業員は、よく言えばカジュアルでおしゃれな印象を与え、悪く言えば軽く見えたり、安心感がなく見えたりするでしょう」

Q.では、飲食店従業員は髪を染めるべきではないのでしょうか。

成田さん「『飲食店従業員は髪を染めるべきではない』とは、私は思いません。業態やターゲットにする客層などによっては、そういった身だしなみも経営戦略の一つと考えているからです。

ただし、飲食店である以上、清潔感は必須ですし、仕事をしっかりやれていなければ、『優先順位が違う』と言われがちです。例えば、管理者による清潔感の指導や研修期間中は不可とするなど、頭髪や服装に関するルールは、ある程度必要なのかもしれません」

Q.飲食店が従業員の頭髪や服装に関するルールを緩和した場合のメリット、デメリットについて教えてください。例えば、従業員の仕事のモチベーションや従業員の採用にどのような影響を与えるのでしょうか。

成田さん「頭髪や服装に関するルールを緩和した場合のメリットとして、従業員の仕事のモチベーションはとても高くなると考えます。頭髪や服装に関するルールの緩和は、外国人利用客も増え、サービスの多様化やパーソナリティーの重要性、幅広い価値観の理解が必要とされている現代に合っていますし、そうしたことを求めている従業員も増えています。

もちろん、人材募集の面で見た場合も、ルールの厳しさを求職時の判断材料にしている人も多くいると思います。飲食業界は人手不足が続いていますが、大手飲食企業の頭髪や服装のルールの緩和に見て取れるような、新たな時代に柔軟に対応していく姿勢の飲食店が増えれば、優秀な人材が集まってくる可能性はあるでしょう。

デメリットとしては、やはり、最低限のルールがないと、衛生面や食の安全が脅かされる可能性も出てきます。そこは注意が必要でしょう」

Q.飲食店が、従業員の頭髪や服装に関するルールを緩和する場合の注意点について、教えてください。

成田さん「何度も強調しますが、飲食店は料理や飲み物を提供する場所であり、衛生面や食の安全が何よりも重要です。従業員の頭髪や服装に関するルールを緩和することは、飲食店として最優先の『食の安全』を守るためのルールと、時代の流れとともに変化する価値観に柔軟に対応するためのルールを融合させた、画期的なルールだと私は考えています。安易に緩和するのではなく、業態や客層ごとに精査された新たなルールづくりが必要でしょう」

(オトナンサー編集部)

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成田良爾(なりた・りょうじ)

飲食店専門経営コンサルタント

ヴィガーコーポレーション代表取締役。厚生労働省公認レストランサービス技能士(国家資格)、文部科学省後援サービス接遇検定準1級、食生活アドバイザー2級、他。飲食業界25年以上。ミシュランガイド掲載の高級レストランから個人経営の小さな大衆店まで幅広いジャンルの飲食店に携わり、その経験に基づく統計解析および枠にとらわれないアイデアで多くの赤字店を黒字化させてきた実績を持つ。「100年続く店づくり」をモットーに、次世代育成や飲食業の働き方改革などにも力を入れており、食文化普及の他、職業訓練校講師(フードビジネス科)や子育て女性就職支援事業講師なども歴任。現在も多くの飲食店経営者のサポートを手掛ける。飲食店専門のコンサルティング「オフィスヴィガー」HP(http://with-vigor.com/)。

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