流鏑馬神事で“馬”が逃走し「警察、神主、巫女さん爆走」「怖かった」、ケガしたら法的責任は?
大阪で昨年行われた「流鏑馬神事」で1頭の馬が逃走し、大きなニュースとなりました。幸い、捕獲されてけが人は出ませんでしたが、こうしたケースで動物が人に危害を加えた場合、どのような法的問題が生じるでしょうか。

2017年10月に大阪天満宮で行われた「流鏑馬神事」の最中に、1頭の馬が逃走するハプニングが発生。テレビやウェブニュースで大きく取り上げられたほか、SNS上でも話題になりました。報道によると、馬は神主が騎乗した後に興奮状態となって暴れ出し、神主を振り落として表門から外へ逃走。10分後、約600メートル先の橋の上で捕獲されたといいます。落馬した神主を含めてけが人はいませんでした。この様子を現場で目撃していたと思われる人からは「馬が逃げた!」「警察、神主さん、巫女さん爆走中!」「事故にあったらどうする」「めっちゃ怖かった」など、さまざまな投稿がなされました。
人間に飼育・管理されている動物が何らかの原因によって逃げ出し、人に危害を加えてしまった場合、どのような法的問題が発生するのでしょうか。オトナンサー編集部では、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
どう猛な動物の場合は重過失致死罪も
Q.今回は幸いにもけが人はいなかったようですが万が一、逃げた馬によってけが人が発生した場合、法的責任の所在はどこにあると考えられますか。
牧野さん「動物愛護法7条には『動物の所有者又は占有者の責務等』が規定されています。その内容は『動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者としての責任を十分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない』というものです」
牧野さん「『動物の所有者又は占有者の責務等』に違反した場合、罰則はありませんが、どう猛な動物の管理が不十分な場合は、後述する事例のように刑法の『重過失致死罪』が適用され、実刑を受ける可能性があります。他方、動物の占有者の管理が不十分な場合は民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。民法第718条第1項では『動物の占有者等の責任』が規定されており、『動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない』とあります。今回のケースでは、馬が他人に損害を与えないように『相当の注意をもってその管理をし』なければなりません。たとえば、安全ヒモでつないだり、走行ルートをフェンスなどで囲んだりする、などの措置が必要とされるでしょう。今回はケガ人がいなかったようなので、損害がなければ賠償責任は発生しません」
Q.過去に同様のケースで動物が人間にけがをさせた事例を教えてください。
牧野さん「大型犬の飼い主は、特に犬が危害を加えないよう未然に防止する注意義務を負うことが民事・刑事双方の事件で判断されています。平成26年2月、北海道の海岸を散歩中の当時59歳の女性が放置されていた土佐犬2匹(いずれも3~4才の雄、体重約50キロ、体長1メートル超)に突然襲われ、顔や腹などを多数かまれた上に、海に追い込まれて溺死したケースがあります。飼い主の当時65歳の男性は、この2匹を含む計3匹の土佐犬を飼っていたものの、犬登録も狂犬病予防注射もせずに自宅で違法に飼育していました。男性は『重過失致死罪』で懲役2年6カ月、罰金20万円の実刑判決(平成26年7月31日、札幌地裁判決)を受けました。また、民事の損害賠償請求の訴訟も提起され、平成27年1月28日の札幌地裁の判決では、慰謝料など6300万円の支払いが命じられました。裁判所は判決理由について『土佐犬は大型で、人に危害を加えることが予想されるのに、安易な考えで綱を手放した過失は重大』としています」
(オトナンサー編集部)
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