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感染拡大最優先に…首相の「読み間違い」「言い間違い」頻発、どうすれば防げる?

菅義偉首相の記者会見や式典あいさつでの、原稿の「読み間違い」「言い間違い」が頻発しています。なぜ間違い、どうすれば防げるのでしょうか。

菅義偉首相(2020年10月、時事)
菅義偉首相(2020年10月、時事)

 菅義偉首相の記者会見や式典あいさつで、原稿の「読み間違い」「言い間違い」が頻発しています。8月6日の広島平和記念式典では、核兵器廃絶に触れた部分を1ページ分読み飛ばし、同17日の新型コロナウイルス対策についての記者会見では「感染拡大の防止を最優先に」と言うべきところで「感染拡大を最優先に」と正反対のことを言ってしまうといった状態です。

 誰でもミスをすることがあるとはいえ、大事な会見やあいさつでのミス、しかも、それが相次ぐとなると「この人に日本の政治を任せても大丈夫なのだろうか」と思う人もいるでしょう。記者会見などでの原稿の読み間違い、言い間違いはなぜ発生し、どうすれば防げるのでしょうか。広報コンサルタントの山口明雄さんに聞きました。

準備不足が最大の原因か

Q.記者会見などで原稿がある場合、発言する立場の人は一般的にどういう準備が必要で、本番ではどういう点に注意すべきなのでしょうか。

山口さん「記者会見で原稿を読み上げる発言者は事前に自分自身で原稿を書くか、部下やスピーチライターに原稿を書いてもらいます。原稿の準備ができた後、発言者は何度か目を通したり、読み上げたりするべきですが、それに加えて、会見場に向かう直前に再度、原稿を読むことが大切です。その場合、小声でもよいので、声に出して読むと効果的です。

人間の記憶の大部分は時間とともに薄れてゆくといわれています。本番直前の『音読』は読み間違い、言い間違いなどを少なくするために絶大な効果を発揮するのです。私は『メディアトレーニング』という、記者対応のトレーニングを仕事の一部にしており、記者会見の演習も含まれます。記者会見の登壇準備を行う場合、常に原稿や資料を声に出して読むようアドバイスしています。音読すると、なぜか、しっかりと頭に入るのです。

頭に入るだけではなく、文章のトーンやニュアンスが妥当であるかどうかの判断もできます。黙読では往々にして見逃してしまう事柄です。さらに、音読するだけでリハーサルの効果を得ることができます。リハーサルを積めば積むほど心は落ち着き、余裕が生まれ、仮に本番で1ページ分を読み飛ばしたとしても、直ちに気付くことは受け合います」

Q.準備時間がほとんどないような記者会見の場合はどうでしょうか。あるいは、予定時間を遅らせてでも準備時間を確保すべきなのでしょうか。

山口さん「記者会見に登壇するときは、どんな場合でも準備時間を確保すべきです。記者会見での失言、言い間違いや読み飛ばし、さらに記者の質問に答えられなかったり、質問を無視したりすることはそのこと自体がニュースとなって、会見の主要なテーマやメッセージがかすんでしまうからです。

それだけではありません。会見の報道をテレビで見たり、新聞記事で読んだりする国民は時には数千万人に上ります。失敗は数千万の人たちの信頼を失ったり、落胆させたり、嘲笑の対象になったりすることにつながります。十分な準備をせずに記者会見に臨むのは、神事に例えると、塩ではなくガソリンをまいて、火渡りをするようなものだと思います。記者会見に登壇するなら、会見の時間と準備の時間をパッケージにして、スケジュールを組むべきです」

Q.広島の平和記念式典や8月17日の会見では、菅義偉首相は読み間違いに気付かなかったようですが、もし、自身で言い間違い、読み間違いに気付いた場合、どのように訂正、おわびするのが望ましいのでしょうか。また、周囲の人間が先に気付いた場合、どう伝えるべきなのでしょうか。

山口さん「言い間違い、読み間違いはスピーチの枠内で訂正すれば、間違いに焦点を当てた報道が出ることはまずありません。また、スピーチが終わった後の式典の中での訂正であれば、記事になったとしても、辛辣(しんらつ)な内容にはなりません。しかし、式典後の訂正には抑止効果はありません。雲泥の差が出ます。

いまや、ほとんどの記者はパソコンを本社のデスク(編集責任者)とつないで、式典の進行と同時進行で執筆しています。間違いの訂正は絶対に必要ですが、それが式典終了後や記者会見の後になると『後の祭り』です。スピーチの最中に読み違いに気付いた記者は『とっくの昔』に記事にして、デスクに送り、デスクは新聞社のネットに記事として投稿済みというようなケースが起きるのです。

スピーチの最中、自身で言い間違いなどに気付いた場合はなるべく早めに、例えば、『先ほど、“感染拡大の防止を最優先に”と言うべきところを“感染拡大を最優先に”と言ってしまったようです。間違いですので、訂正いたします』と言えば完結です。『申し訳ありませんでした』を追加すれば、なおよいでしょう。

問題は本人が言い間違いに気付かない場合です。記者会見では、登壇者と連絡がとれる要員をステージ下に配置し、訂正のポイントを紙に書いて、直ちに登壇者へ手渡すようアドバイスしています。式典のようなケースでは、ステージ上に登壇者用のビデオモニターを置く、またはイヤホンを装着してもらい、直ちに訂正等のメッセージを伝える方法が考えられます。スピーチでの言い間違いはスピーチが終わるまでに訂正することが肝要です」

Q.菅首相の読み間違い、言い間違いが頻発する原因として、どのようなことが考えられますか。

山口さん「菅首相の読み間違い、言い間違いが頻発する原因として、首相はずっと休みなしで働き続けていて、疲労困憊(こんぱい)しているからだとか、もともと、言葉によるコミュニケーションを重視するタイプではないとか、説明の語彙(ごい)が乏しい『ボキャ貧』と表裏一体だなどと、さまざまな推測が報道されたり、ネットをにぎわせたりしていますが、私は『準備不足』が最大の原因だと思っています。

10年ほど前、当時の首相にメディアトレーニングを行ったことがあります。重要な記者会見の前日だったのですが、首相が会見で読むスピーチの原稿が、首相とは一切の打ち合わせなしで官僚が書いたものであったことに驚きました。首相は『官僚の作文はレベルが低い』などと文句を言いながら、自ら朱を入れて書き直し、自分の言葉の原稿にするとともに、書き直した原稿を何度も声に出して読み上げ、準備をしていました。スピーチの評価はさまざまでしたが、読み違いはありませんでした。

あくまでも私の想像ですが、菅首相は官僚、または内閣の担当者が書いた原稿を目は通したにしても、そのまま壇上に持ち込んだのではないでしょうか。そうだとすると、極論すれば、首相自身の思いではない言葉が羅列されている原稿かもしれないのです。読み違いや読み飛ばしがあっても気付かないのは当然だろうと思います」

「自分の言葉」で仕上げる

Q.記者会見や大事なあいさつの場で、読み間違い、言い間違いを防ぐ心構えやコツを教えてください。

山口さん「読み間違い、言い間違いを防ぐコツは、スピーチやあいさつの原稿を自分の言葉で仕上げることです。自分自身で書かない場合は、ライターと事前にしっかりと打ち合わせをして、自分の思いを自分の言葉で語る原稿を準備してもらうことです。そうすれば、読み違いが頻発することは絶対にないと思います。

また、ステージ上での緊張が一部の人たちにとって、言い間違いの原因となることはよく知られています。登壇直前に腹式の深呼吸を2、3回することはおすすめです。緊張がたちまち解け、それが実感できるほど心が落ち着くと、登壇経験者の多くが私に証言しています」

(オトナンサー編集部)

山口明雄(やまぐち・あきお)

広報コンサルタント

東京外国語大学を卒業後、NHKに入局。日本マクドネル・ダグラスで広報・宣伝マネージャーを務め、ヒル・アンド・ノウルトン・ジャパンで日本支社長、オズマピーアールで取締役副社長を務める。現在はアクセスイーストで国内外の企業に広報サービスを提供している。専門は、企業の不祥事・事故・事件の対応と、発生に伴う謝罪会見などのメディア対応、企業PR記者会見など。アクセスイースト(http://www.accesseast.jp/)。

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