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「場当たり的」な経営者や上司を批判ばかりしていられない理由

就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

河野太郎ワクチン担当相(2021年6月、時事、代表撮影)
河野太郎ワクチン担当相(2021年6月、時事、代表撮影)

 新型コロナウイルスワクチンの接種を巡って、政府の対応が一部で「場当たり的」だと批判されています。菅義偉首相が「1日100万回」「7月末までに全高齢者接種」と掲げた目標に合わせようと、河野太郎ワクチン担当相が自治体や企業、大学に接種促進を呼び掛けたのに、予想以上の接種促進でワクチン供給のバランスが崩れ、自治体などの現場が混乱してしまったからです(ただ、これはいろいろな状況があると思われますので、本当に「場当たり的」だと言えるかは分かりません)。

「場当たり的」な対応が問題となるのは身近な場面、例えば、会社の中でもありそうです。上司や経営者が場当たり的だと部下が感じたとき、どう対応すべきか、考えてみましょう。

「場当たり的」は避けたいが…

 何かの物事に直面したとき、事前の準備や計画に基づかずにとっさの思いつきで対応することを「場当たり的」と呼び、基本的には「うちの上司はいつも、場当たり的な指示を出して、部下は苦労している」などとネガティブな表現として使われています。確かに、思いがけない指示で現場が混乱することはよくありますし、計画的に物事を進めることができるのであれば、どれほど楽なことかと思います。

 しかし、多くの場合、さまざまな不確定要素の中で物事を進めなければならないのが通常のビジネスです。立てた事業計画に基づいて、着実に運営していけるような会社はなかなかありません。

「現在の状況が続く」という思い込み

 例えば、神戸大学大学院の原田勉教授の著書「OODA Management(ウーダ・マネジメント)」の中に、原田教授が米アップル社を訪問した際、同社では3カ月計画を事業計画、1カ年計画を中期計画と呼ぶ一方、日本企業で一般的な3~5カ年計画は「ドリーム」と呼んでいるという話がありました。

 世界一の時価総額で世界中の才能を集めているアップル社であっても、わずか数年先のことですら、「計画を立てても実現可能性は薄いのだから、意味はない」と考えているのかもしれません。それだけ、世界は想定外に動いていく、逆に言えば、人間はたった数年先のことでも予想するのは難しいということでしょう。

 筆者の昔の上司だった、元ライフネット生命社長で現在は立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明さんも似た考えを示しています。以前、「接線思考」という考え方を筆者に教えてくださいました。円に接線を引く際、円を少し回転させれば(状況が少し変化すれば)、接線の向く方向は大きく変化するのに、人間は「円は回転しない」、つまり、「現在の状況が続く」と思い込みがちで、自分を取り囲む諸条件=「状況」が変化しないものとして思考をする人が多いというものです。

 この「状況」の中に「上司の指示」や「経営方針」もあるわけですが、それらが変わらないと思う方が未熟で世間知らずだといえます。「場当たり的」な計画外のとっさの指示や変更は避けられませんし、むしろ、状況が変化すれば、「場当たり的」と批判されても修正しないとダメでしょう。

「曖昧耐性」の低さが障害に?

 もちろん、計画なしに何かを指示されたり、指示の前言撤回が頻繁に続いたりすれば、現場は混乱しますし、もし、筆者がメンバーでも腹が立つと思います。その気持ちはよく分かります。ただ、先述のように、そういうことが不可抗力な時代になってしまっているのです。「場当たり的」であること自体を責めても仕方がないかもしれません。方針が変わることに対して、素早く変化し、対応していく能力を身につけることこそが、現代に生きるわれわれに必要なことではないでしょうか。

 不確かなことに対しての適応力や志向を「曖昧耐性」と呼ぶことがありますが、日本人はこれが弱いようです。楽観的なのか慎重なのか、変化と秩序のどちらを好むのか、多様性を好むか好まないか、未知なものと既知なもののどちらを好むかなどですが、筆者の感覚値に過ぎず恐縮ですが、日本人は「慎重で秩序を好み、一様であることを好み、既知なものを好む」という、曖昧耐性の低い人が多いように思います。

 そして、この性格特性は「場当たり的」なことに対しての嫌悪感につながり、変化対応能力に対してはマイナスに働きます。ベーシックな性格はなかなか変えられませんが、それでも曖昧なことに対して、即座に「ダメ」と考えることに対しては注意すべきかもしれません。

可能なコントロールまで、しないのはNG

 以上、「場当たり的」であることを擁護するようなことばかり述べてきましたが、無論、それは環境などのアンコントローラブルなことに対してです。

 もし、「場当たり的」な上司や経営者が自分でコントロールできるものに対して、コントロールして予測の正確性を高めることをしていなければ、それは単なる怠惰であり、自分がすべき仕事を部下に押し付けて迷惑をかけているだけです。自分の足元を照らし、直近の予測すらきちんとできないのであれば、リーダーとしては失格でしょう。そういう「場当たり的」な上司は批判してしかるべきです。

 ただ、それでも、将来リーダーを目指す人であれば、そういうダメな「場当たり的」上司が存在するという不測の事態(しかし、よくあること)にも対応できる柔軟性を持ちたいものです。組織の中で、上に行けば行くほど、曖昧で予測不可能なことに対しての判断をすることになります。明確で予測可能なことは、現場で判断して実行するからです。

 もし、皆さんが今まさに現場にいて、ダメな上司に「場当たり的」な指示をされていたとしたら、それは、本来もっと昇格しなければ経験できないアンコントローラブルなことへの対処を経験しているわけです。リーダーになどなりたくなければ、ただの迷惑ですが、もし、リーダーを目指すのなら、そのようにポジティブに考えた方が、ただ愚痴るより前向きかもしれません。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス」(共著、ソシム)など。

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