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「『無痛分娩』は楽」にモヤッと…実際のところは? メリット/デメリットも解説

出産で「無痛分娩」を選択した女性から、「全くの無痛というわけではなかった」「楽な出産なんてない」という声が聞かれます。実は「無痛」ではないのでしょうか。

無痛分娩は本当に「無痛」?
無痛分娩は本当に「無痛」?

「無痛分娩(ぶんべん)なら楽だね」「楽に出産できてよかったね」

 無痛分娩を選択したことで、周囲からこうした言葉をかけられ、「モヤッとした」「複雑な気持ちを抱いた」経験のある妊婦さんの声はネット上によくあります。実際に無痛分娩で出産した女性からは「全くの無痛というわけではなかった」「楽な出産なんてないと実感した」などの声も上がっており、「モヤッとする気持ちはよく分かる」「どんな出産も命懸けだと思う」と共感の声がある一方で、「無痛分娩って“無痛”じゃないの?」「どんな痛みがあるのか知っておきたい」など無痛分娩の「痛み」について疑問を持つ人も少なくないようです。

「痛みがないから楽」というイメージを持たれやすい無痛分娩ですが、実際のところはどうなのでしょうか。自身も無痛分娩による出産経験がある、産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。

「楽なお産」はない!

Q.「無痛分娩」はどのような分娩方法ですか。

尾西さん「無痛分娩とは、腰から麻酔のチューブを入れ(腰椎硬膜外麻酔)、そこから継続して麻酔薬を入れることで下半身に麻酔をかけ、痛みを和らげながら分娩する方法です。費用は病院にもよりますが、通常の分娩料金にプラスして10万円程度の所が多いです」

Q.無痛分娩はどんな妊婦さんでも選択できる方法なのでしょうか。

尾西さん「無痛分娩は麻酔によるリスクがあるので、通常の分娩よりリスクが上がります。そのため、どこの病院でも行っているわけではなく、実施している病院はまだまだ少数です。また、妊婦さん自身に血液が固まりにくい病気や心臓の病気などの合併症がある場合は行えないこともあります。逆に、分娩時に痛みを取ることで合併症を少なくできると考えられる場合(妊娠高血圧症など)は積極的に無痛分娩を行うこともあります」

Q.「痛みを和らげながら分娩」ということは、「無痛分娩」といっても全くの無痛というわけではないということでしょうか。

尾西さん「無痛分娩にはその言葉通り、『完全無痛分娩』で行う病院と痛みを和らげる『和痛分娩』を行う病院があります。この両者をまとめて『無痛分娩』と呼ぶことが多いため、『痛くないつもりだったのに痛かった』ということもしばしばです。

どちらの場合も、陣痛を起こすために陣痛誘発剤を使うことが多いのですが、完全無痛の場合は麻酔薬を入れるのと陣痛誘発剤を使用し始めるのがほぼ同時、一方の和痛は陣痛誘発剤を使用し始め、子宮の入り口がある程度開いてきてから麻酔薬を入れるというタイミングの違いがあります。自然に陣痛が来てから麻酔を入れる病院もありますが、その場合は和痛に近い形になります。

なぜ全て完全無痛にしないのかというと、麻酔によって陣痛が弱まるため、あまり早くから始めたり、麻酔の量が多過ぎたりすると子宮の入り口がなかなか開かず、分娩が長引いてしまう危険性があるからです。分娩が長引くと赤ちゃんへのストレスが大きくなり、具合が悪くなってしまうと最終的に帝王切開になることもあります。つまり、陣痛が来て、子宮の入り口が開いてから麻酔を入れる和痛の方が陣痛開始から出産までがスムーズなので、こちらの方法を取る病院も多いのです」

Q.無痛分娩の「痛み」に関する一般的な認識についてどう思われますか。

尾西さん「やはり、名称が『無痛』なだけに『全く痛くない』と思っている人が大半だと思います。しかし、実際はそうではないことも多いです。そのため、無痛分娩を希望する妊婦さんは分娩する病院で事前に、無痛分娩に関する説明会を受講することになります。どんな麻酔なのか、合併症や痛みの程度はどれくらいかなどを詳しく聞けるので、不安がある場合はそのときにしっかり解消しておきましょう。

私自身は1人目の出産時が無痛分娩、2人目が自然分娩でどちらもブログで体験談を書いています。現在はこうした『実際の体験者の声』をSNSやブログで知ることもできるので、参考にしてみるのもよいでしょう」

Q.無痛分娩のメリット/デメリットを教えてください。

尾西さん「まず、メリットとしては痛みが少ない分、お母さんの疲れも少なくて済むので、出てきた瞬間に赤ちゃんをしっかり抱き締めることができ、家族と出産の喜びを分かち合えることでしょう。また、出産後の回復が早いという傾向もあります。

一方、デメリットは麻酔や陣痛促進剤による副作用のリスクがある点です。例えば、麻酔薬が血管に入ることで母体の血圧が急激に低下してしまったり、麻酔薬によって陣痛が弱まるため、分娩が長引いたり、最終的に吸引分娩や帝王切開になる可能性があったりします。そのため、人手がある日中に分娩予定を立てる『計画分娩』を行う病院もあります。

また、自然分娩の場合、病院によってはフリースタイル(自分の好きな体勢)で産むことができますが、無痛分娩の場合は難しいです。そして先述の通り、無痛分娩はプラス10万円ほど費用がかかることが多いので、自然分娩に比べると経済的な負担が増えます」

Q.無痛分娩による出産は「楽」なのでしょうか。

尾西さん「『楽』という言い方には語弊があると思いますし、出産はいろいろな意味で大変なので、実際には『楽な出産』はないと思っています。ただ、これまで自然分娩と無痛分娩を見てきて、出産に余裕があるなと感じるのは無痛分娩かと思います。例えば、陣痛の間も家族と会話ができたり、出産の瞬間に赤ちゃんをしっかり受け止めたりできるのは無痛分娩のメリットです。自然分娩だと、特に長時間の分娩の際は、お母さんが疲れ切って赤ちゃんを抱き締めるどころではないケースもあるからです。

私自身、無痛分娩と自然分娩の両方を経験しました。実は2人目も無痛分娩の予定でしたが間に合わず、結果的に自然分娩になったという方が正確ではあります。確かに自然分娩は骨盤が割れるかと思うほど痛く、ジェットコースターに乗ったように『自分ではどうもできない感じ』ですが、個人的には出産時の『産んだ』という実感は無痛分娩のときよりも大きかったと思います」

Q.無痛分娩を選択した妊婦さんの中には、周囲から、「無痛分娩なら楽だね」「楽に出産できてよかったね」などの言葉をかけられ、複雑な思いをした人も少なくないようです。

尾西さん「繰り返しになりますが『楽』なお産は決してありません。そして、お産に正解もありません。それぞれ思い描く出産も異なります。出産は思い出に残る人生の大切なイベントです。だからこそ、どのような出産にしたいのか、少し考える機会をつくってもいいかもしれません。

自然分娩か無痛分娩の選択だけでなく、医師や助産師などの多い『病院』にするのか、より小規模な『クリニック』にするのか、それともアットホームな『助産院』にするのか、また、分娩についても『フリースタイル』にするか『分娩台』で生むかなど近年は選択肢も多いので、しっかり下調べをして決めるとよいと思います。そして、周囲の人はイメージでアドバイスすることも多いと思いますが、実際に出産するのはお母さん自身です。なるべく本人の希望を気持ちよく聞いて応援しましょう」

(オトナンサー編集部)

尾西芳子(おにし・よしこ)

産婦人科医(日本産科婦人科学会会員、日本女性医学学会会員、日本産婦人科乳腺学会会員)

2005年神戸大学国際文化学部卒業、山口大学医学部学士編入学。2009年山口大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院研修医、日本赤十字社医療センター産婦人科、済生会中津病院産婦人科などを経て、現在は高輪台レディースクリニック副医院長。「どんな小さな不調でも相談に来てほしい」と、女性のすべての悩みに答えられるかかりつけ医を目指している。産科・婦人科医の立場から、働く女性や管理職の男性に向けた企業研修を行っているほか、モデル経験があり、美と健康に関する知識も豊富。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yoshiko-onishi/)。

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