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診断され不安に…「逆子」の原因、母体や胎児への影響は?

妊娠中、不安なことの一つが「逆子」です。逆子になると、母体や胎児にどのような影響があるのでしょうか。

「逆子」はなぜ起こる?
「逆子」はなぜ起こる?

 妊娠中は赤ちゃんの誕生を楽しみに待つ気持ちが高まる一方で、不安なことも少なからずあるもの。その一つが「逆子(さかご)」です。ネット上では「逆子と診断されたときは正直、不安になった」「一度直ったものの、また逆子になりました」「逆子がずっと直らなくて帝王切開で出産した」などの体験談が多くある他、「どうして逆子になるんだろう」「逆子になるのを防ぐことはできるの?」など疑問の声も見られます。

 逆子になると、母体や胎児にどのような影響があるのでしょうか。産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。

子宮筋腫が原因の場合も

Q.そもそも、「逆子」とは何でしょうか。

尾西さん「通常、出産が近づくと、赤ちゃんはお母さんのおなかの中で頭が下の状態になりますが、頭ではなくお尻や足が下の体勢になる状態を『逆子』といい、医学的には『骨盤位』といわれます。

赤ちゃんは、おなかの中で成長していくにつれて、脳を含む頭が重くなり、通常は妊娠30週ごろまでに頭が下にぐるんと回ります。30週ごろまでにいったん頭が下になると、頭の方が重いため、再度反対に回ってしまうことは少ないです。なお、逆子の割合は妊娠中期で30%程度ですが、国立成育医療センターのデータによると、妊娠後期の37週時点では約3%です」

Q.逆子になる原因は何でしょうか。また、妊婦自身が逆子の予兆に気付くことはできるのですか。

尾西さん「はっきりした原因は分からないことが多いのですが、お母さんに子宮筋腫がある▽胎盤の位置に異常がある▽骨盤が狭い▽おなかが張っている、など赤ちゃんの頭が下に回りにくくなる要素が原因となることがあります。逆子の場合、『おなかの下の方で蹴られる感じ』を体感する妊婦さんが多く、赤ちゃんがくるっと回って『頭位』になると『上の方で蹴られるので、回ったかも』と気付くことがあります」

Q.医学的観点から、逆子は積極的に直すようにした方がよいのでしょうか。それとも、そのままにしていても問題ないのですか。

尾西さん「先述の通り、通常は妊娠中期から後期にかけて頭位になるのですが、逆子は何らかの原因で『なれない』状態なのでデメリットの方が多いです。可能な限り直すようにした方がよいでしょう。

逆子の場合、出産時に赤ちゃんの足から出産することになります。その場合、分娩(ぶんべん)の途中で赤ちゃんが『万歳した状態』になってしまい、スムーズに出産できなかったり、破水後にへその緒が先に出てきてしまって苦しくなったりするなど、分娩時のさまざまなリスクが高くなるため、現在はほとんどの病院が帝王切開を行っています。

そのため、自然分娩を希望する人は30週以降、胸を床につけてお尻を上げる『胸膝位(きょうしつい)』で赤ちゃんを回りやすくする『逆子体操』を行います。また、35週以降に、お母さんのおなかを外側から医師が押して、赤ちゃんを回転させる『外回転(がいかいてん)術』を行って積極的に直す病院もあります。

ただ、これらの方法でも100パーセント成功するわけではない上、赤ちゃんの首にへその緒が巻き付いたり、胎盤がはがれてしまったりする『常位胎盤早期剥離』などによって、緊急で帝王切開が必要となるリスクもあるため、行うかどうかは担当医の話をしっかりと聞き、相談した上で決めましょう」

Q.逆子が直らないまま自然分娩を行うケースもあるのでしょうか。

尾西さん「数は少ないですが、逆子の自然分娩を行っている病院もあります。ただ、先述のような分娩時のリスクがあるため、逆子の分娩に精通した医師がいることや、何かあったときに緊急で帝王切開ができるような設備が整っていることなど、条件が整った限られた病院でしか行っていません」

Q.日本で帝王切開が始まっていなかった時代、逆子はどうなっていたのでしょうか。

尾西さん「昔は、逆子でも自然分娩を行っていました。江戸時代、大田晋斎という医家が著書『按腹(あんぷく)図解』で逆子治療について書いているので、当時も逆子のリスクは認識されていたようですが、逆子に限らず、妊娠・分娩に伴う『周産期』のお母さんや赤ちゃんのリスクが現代よりも高かったこと、逆子の分娩に精通した医師や助産師(当時の呼称は『産婆さん』)が多くいたこともあり、今ほどは通常の分娩との差を意識していなかったのではないでしょうか」

Q.日常生活上で、逆子になる可能性が高まる妊婦さんの生活習慣などはありますか。

尾西さん「骨盤が狭い場合や子宮筋腫がある場合など、赤ちゃんが回りにくい素因があるケースは仕方ないのですが、『動き過ぎ』『体を冷やす』などで子宮がきゅっと収縮して、おなかが張りやすい状態になっていたり、きつ過ぎる下着や腹巻き、骨盤ベルトによって締め付けられていたりすると、赤ちゃんの頭が下に回れなくなります。

また、お母さんのストレスによっても、おなかが張りやすくなるので、ストレスは禁物です。のんびりとリラックスした気持ちで過ごせるように本人も周囲も気を付けましょう」

Q.妊婦さんの中には「逆子になったらどうしよう」「逆子が直らなくて不安」と感じる人も少なくないようです。

尾西さん「逆子であること自体が赤ちゃんに悪影響を及ぼすことはないので、安心してください。また、中期の間はまだ回りやすいので、あまり心配はいりません。ただ、後期になっても逆子のままだと、確かに、赤ちゃんもお母さんも元気なのに帝王切開になるという点で残念な気持ちになると思います。

しかし、逆子のまま出産するリスクは帝王切開によるリスクよりも高いことが分かっています。その上で、どうしても自然分娩を行いたい場合は先述の通り、逆子の分娩に精通した医師がいる病院、すぐに緊急で帝王切開ができる病院をきちんと選んで相談しましょう。

また、『いつまでに逆子が直ればよいですか』と聞かれることが多いのですが、最終的には帝王切開当日までに頭が下に回れば自然分娩となります。私も、帝王切開を控えた入院時に逆子が直っていた患者さんを経験したことがあります。最後までリラックスした気持ちで過ごしましょう」

(オトナンサー編集部)

尾西芳子(おにし・よしこ)

産婦人科医(神谷町WGレディースクリニック院長)

2005年神戸大学国際文化学部卒業、山口大学医学部学士編入学。2009年山口大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院研修医、日本赤十字社医療センター産婦人科、済生会中津病院産婦人科などを経て、現在は「どんな小さな不調でも相談に来てほしい」と、女性の全ての悩みに応えられるかかりつけ医として、都内の産婦人科クリニックに勤務。産科・婦人科医の立場から、働く女性や管理職の男性に向けた企業研修を行っているほか、モデル経験があり、美と健康に関する知識も豊富。日本産科婦人科学会会員、日本女性医学学会会員、日本産婦人科乳腺学会会員。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yoshiko-onishi/)。

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