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結婚後の生活を決める「婚前契約書」、どんなメリットがある? 法的効力は?

カップルが結婚後の生活や育児方針などを契約書面にまとめておく「婚前契約書」が話題です。どのようなメリットがあるのでしょうか。

「婚前契約書」は作るべき?
「婚前契約書」は作るべき?

 先日、ネット上で「婚前契約書」というキーワードが話題になりました。カップルが結婚後の生活や育児方針、離婚してしまった場合の財産分与まで夫婦に関するさまざまな取り決めを行い、あらかじめ、契約書面としてまとめておくものをいうようです。

 しかし、こうした契約書の作成は日本ではあまり一般的とはいえないため、ネット上では賛否がくっきり分かれる形に。「事前にいろんなことを決めておくのはよいこと」「夫婦間のトラブルを防ぐのに役立ちそう」という肯定的な声の一方、「どうして、結婚前に離婚の話をしないといけないの?」「これ自体がトラブルの原因になりそう」といった否定的な声のほか、「作った方がいいの?」「本当に効力はある?」などの疑問を持つ人も少なくありません。

 結婚を控えたカップルは婚前契約書を作った方がよいのでしょうか。白石綜合法律事務所の宮崎大輔弁護士に聞きました。

財産めぐる争いの防止に

Q.そもそも、「婚前契約(書)」とは何でしょうか。

宮崎さん「婚前契約とは言葉の通り、カップルが結婚前に締結する契約のことです。婚前契約を交わす際に決めることの多い事柄は(1)日常生活における取り決め(2)夫婦の財産関係(3)離婚時の条件が挙げられます。

この中で唯一、民法に規定されているのが『夫婦の財産関係』についての婚前契約です。民法755条は『夫婦が、婚姻の届け出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる』と規定しています。この規定の通り、婚前契約は原則として婚姻前に行わなければならず、婚前契約をしていない場合は『次款』、つまり、民法760条から762条で定めることに従うことになります」

Q.婚前契約書に法的な効力はあるのでしょうか。中には、内容を自分たちで自由に決めて作るケースもあるようです。

宮崎さん「法的効力とは、法律上の権利義務の取得・喪失・変更が生じることをいいます。自分たちで自由に決めた婚前契約でも、原則として法的効力が認められますが、『強行法規』と呼ばれる法令の規定や公序良俗(民法90条)に反する契約は無効になります。また、夫婦間だけではなく、第三者との関係では、登記などをして公示しなければ、第三者に『婚前契約の内容が有効である』と主張することはできません(同756条)。

強行法規とは、法令のうち、当事者の意思にかかわらず強制的に適用される規定のことです。強行法規に反する契約の具体例としては『離婚原因として、民法で定められている事項以外のものを追加する』『夫婦間の扶養義務を否定する』『離婚した場合の、親権を持つ者をあらかじめ決める』などの契約が挙げられます。また、公序良俗(民法90条)に反する契約については、例えば、『浮気した場合に慰謝料を1億円払う』というような、常識的に見て、極めて高額の契約は原則として公序良俗違反となり、無効になります」

Q.婚前契約書を作成するメリットは何ですか。

宮崎さん「メリットとして、まず挙げられるのは、離婚時に財産分与の対象となる財産の範囲を婚前契約によって定められることです。原則として、婚姻中に築いた財産は『夫婦の共有財産』として財産分与の対象になりますが、離婚する際は『財産が婚姻中に築かれたものなのかどうか』で争いになるケースが多く、婚前契約によって、そのような争いを未然に防止できます。海外のセレブなどが婚前契約を交わすことが多い理由は、夫婦間の財産に関する取り決めができるからです。

また、夫婦の日常生活に関する取り決めについては、結婚前にじっくりと話し合い、婚前契約という形にすることによって、結婚してから『価値観が違った』などと言い争いになることを防げると考えられます。さらに、浮気をしたときの慰謝料などを公序良俗に反しない程度の金額で事前に定めておくことにより、浮気防止の効果もあるかもしれません」

Q.一方で、デメリットもあるのでしょうか。

宮崎さん「デメリットとしては、婚前契約が日本の文化に浸透していないこともあり、結婚を『契約』という形で縛ることに抵抗感がある点でしょう。結婚前から、離婚を前提に財産についての取り決めをしたり、浮気することを想定して慰謝料を決めたりすることにためらいを感じるカップルは多いのではないでしょうか。結果として、婚前契約の締結を持ち出すことにより、カップルの関係に亀裂が入る可能性もあると思います」

Q.婚前契約書を作成することが特に望ましいカップルの条件はあるのでしょうか。

宮崎さん「先述のように、資産家のカップルが挙げられます。こうしたケースでは婚前契約によって、お互いの資産を適切な形で保護しておく必要性はあるでしょう。また、一方に子どもがいるカップルなども婚前契約によって、『子どもの養育費は誰が支払うのか』という取り決めをしておくこともできるので、望ましいといえるかもしれません」

Q.婚前契約書について、ネット上では意見が分かれているようですが、弁護士の観点からみて、結婚を控えたカップルは婚前契約書を作成しておいた方がいいと思われますか。それとも、必要ないと思われますか。

宮崎さん「弁護士の観点からみると、婚前契約によって、あらかじめ、お互いの約束事項を決めておくのはよいことだと思います。ただし、個人的には、夫婦の関係を契約で縛るべきものではないと考えているので、婚前契約を締結したいと思ったことはありません」

Q.婚前契約書を作成する際のポイントや注意点はありますか。

宮崎さん「先述したように、婚前契約書は『婚前』に作成する必要があります。また、民法758条には『夫婦の財産関係は、婚姻の届け出後は変更することができない』と規定されており、婚姻後、婚前契約の内容を変更することは原則としてできないので注意しましょう。不動産など、夫婦の一方が勝手に第三者に譲渡してしまった場合に備えて、婚前契約により、譲渡する不動産などは登記もしておかなくてはいけません。婚前契約書は意外と法的に問題となる点が多いので、弁護士に相談して作成することをおすすめします」

(オトナンサー編集部)

宮崎大輔(みやざき・だいすけ)

弁護士

2013年3月、青山学院大学法科大学院修了。同年9月、司法試験合格。2014年12月、弁護士登録し、白石綜合法律事務所入所。企業の顧問を務める関係から、企業の労務問題を得意とするほか、刑事事件や債権回収事件、金融関係事件、企業合併事件など幅広い案件を手掛けている。近年は、インターネット上の誹謗中傷問題に積極的に取り組んでいる。紹介動画(https://m.youtube.com/watch?v=8ppVIXTR23g)、問い合わせ先(http://顧問弁護士.com)。

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