賃貸契約で「年収」「保証人」情報を偽ったら、どんな責任を問われる?
賃貸物件を契約する際、年収や保証人の記入を求められるケースが多いものですが、情報を偽って記入した場合、どのような責任を問われるのでしょうか。

賃貸住宅を契約する際は、審査のために年収や保証人の記入を求められることが多いものです。例えば、年収の正確な情報を知るために源泉徴収票を探したり、保証人になってもらうよう、親や兄弟を説得したりと契約前は何かと手間がかかります。
ところで、もし、審査に通るために年収を多く見積もって書いて発覚した場合、どのような問題になるのでしょうか。また、保証人の情報を偽ったり、保証人が亡くなったにもかかわらず、情報を更新せず、その物件に住み続けたりした場合はどうなるのでしょうか。白石綜合法律事務所の宮崎大輔弁護士に聞きました。
詐欺罪の可能性は極めて低い
Q.賃貸住宅の契約時に年収や保証人の情報を偽った場合、法的責任を負う可能性はあるのでしょうか。また、偽ったことが発覚する可能性はあるのでしょうか。
宮崎さん「もし、賃借人(部屋を借りる人)が年収や保証人などの情報を偽って契約を結んだ場合、『賃貸人(部屋を貸す人)が事前に真実を知っていれば、契約を結ばなかった』という事情があれば、賃借人の賃貸人に対する詐欺罪が成立すると考えることもできます。ただし、賃借人が部屋の使い方を守り、賃料を毎月滞りなく支払っているのであれば、賃貸人に損害がないため詐欺罪は成立しません。
また、仮に賃借人が賃料を支払わずに退去したとしても、実際に詐欺罪として立件される可能性は極めて低いと言わざるを得ません。詐欺罪が成立するためには『賃貸借契約時点』で『故意に賃料を支払わずに居住する』という意思が賃借人にあったことを立証する必要があるためです。そのため、契約後、『お金を払うことができなくなった』と言われても一連の行為に故意があったと立証することは大変難しく、詐欺罪には問われない可能性が高いのです。
ちなみに、賃貸借契約書には『入居申込書の内容に虚偽の事実が認められた場合、契約を解除できる』と規定されていることが通例です。年収や保証人の情報を偽ったことが判明した場合、詐欺罪には問われなくても賃貸借契約を解除されることは覚悟しておいた方がよいでしょう。
昨今、プライバシーの意識が高まっているため、業者が独自に調査しても情報を偽ったことが発覚する可能性は低いでしょう。もっとも、高額の費用を払って探偵事務所などを使えば、正しい情報が判明することもあるとは思いますが、入居前の調査にそこまでの労力をかける業者は少ないでしょう。そのため、一定額以上の賃料だと、収入証明などの確認を必須としている業者が多いように思います」
Q.例えば、契約予定者が入居申込書に年収を「400万円」と記入したのに実際は「480万円」だった場合、虚偽の申し出をしたと捉えることもできます。もし、この事実が発覚した場合、契約を解除される可能性はありますか。
宮崎さん「自身の年収を実際より少なく記入した場合、契約解除にはならないでしょう」
Q.保証人が亡くなったにもかかわらず、別の保証人を立てないまま、その物件に住み続けた場合、法的責任を負う可能性はあるのでしょうか。また、発覚することはあるのでしょうか。
宮崎さん「賃貸借契約書で、連帯保証人が亡くなった場合は、代わりの連帯保証人を選び、賃貸人の承諾を得ることが義務付けられていることが多いため、その義務を怠った場合には、契約を解除される可能性はあります。ただし、賃借人が部屋の使い方を守り、賃料を滞ることなく支払っていた場合は法律上、そのような解除が認められる可能性は低いでしょう。
先述のように、業者が労力をかけて契約者の情報を調べることはほとんどないため、保証人と賃貸人が知り合いであるような特異な場合を除き、保証人の生死について発覚する可能性は低いと思います」
Q.親族以外の人を保証人に立てることは可能なのでしょうか。
宮崎さん「保証人で重視されるのは親族関係ではなく、保証人本人の資力のため、もちろん可能です」
Q.賃貸住宅の契約時に年収や保証人の情報を偽った事例、判例はありますか。
宮崎さん「不動産の仲介業者に関する裁判例があります。仲介業者は基本的に、賃借希望者が申し出た情報(身元、職業など)を賃貸人に伝える義務はありますが、その情報が正しいかどうかを調査する義務はないとされています。ただし、賃借希望者の申し出た情報に疑問が感じられ、正常な契約ができない可能性が考えられる場合は、契約前に調査する義務や部屋の賃貸人にその旨を伝えて注意を促す義務があるとされました(東京地裁1981年7月15日)」
(オトナンサー編集部)
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