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毎月5000円貯金し旅行へ ひきこもりの30代長女が「清掃」の仕事で見つけた光

ひきこもりの人が自立するには、正社員にならないといけないのでしょうか。学校やアルバイト先でのいじめが原因でひきこもった、女性が立ち直ったケースを紹介します。

正社員しか生きる道はない?
正社員しか生きる道はない?

 ひきこもりのお子さんを抱える家族が「本人(子ども)が働いて収入を得る」ということを考えたとき、真っ先に頭に浮かぶのは「正社員になって自立する」ことだと思います。しかし、それはなかなか難しいのが現実です。ひきこもりのお子さんは正社員になれなければ、親亡き後、生きていくことはできないのでしょうか。

学校やバイト先でいじめの経験

 母親と共に相談に訪れた30代の長女は弱々しい声で切り出しました。

「やっぱり、正社員にならないと生きていけないんじゃないでしょうか…」

 筆者はこう答えました。

「確かに、収入の面では正社員になった方が望ましいでしょう。しかし、親御さんの財産とお子さんの公的年金収入、そして、可能であれば毎月少しずつ貯蓄していくことで親亡き後、お金の見通しが立つケースは多くあります。『正社員になれないから働くことを諦める』というのは、まだ早いかもしれませんよ」

 さらに、筆者は金額の例を出しました。

「月数万円でも将来の見通しは大きく改善します。例えば、月2万円の貯蓄を30年間続けたとすると、2万円×12カ月×30年=720万円。月3万円であれば、1080万円になります。
たとえ、正社員になれず自立が難しくても、生きていく方法はあると思います」

 それでも、母親は不安そうな表情を浮かべました。

「確かにそうかもしれません。でも、長女は少し個性的というか普通とは違う感じで、学校でもアルバイト先でもいじめられてきたんです…」

 確かに、相談の場でも、長女は全体的におっとりとした様子。質問に頑張って答えようとしているものの、言葉がうまく出ず、会話が途切れがちでした。

 母親は続けました。

「不登校になった後、何度かアルバイトをしてみたのですが、いずれも長続きしませんでした。原因はいじめ、嫌がらせです。ですから、もう一度働くことができるかどうか…何かよい方法はありませんか?」

 長女もすがるような目を筆者に向けます。

地域若者サポートステーション利用を検討

 筆者は親子に、ある支援機関の話をしました。

「例えば、地域若者サポートステーション(サポステ)を利用する方法もあります。私も何度か見学しましたが、とてもよい雰囲気でしたよ。支援者もお子さんに理解のある人たちでしたし」

 長女がわずかながら興味を示し、母親は身を乗り出すようにして聞いています。

「一体どのような所なのでしょうか? どんなことをしてくれるのですか?」

 筆者はサポステについて大まかに説明しました。

 サポステは厚生労働省委託の支援機関で、支援対象者は15歳から49歳までの人です。就労に向けて全面的にサポートしてくれます。

 まずは、お子さんと担当者が何度も面談をし、お子さんの特性、好きなこと、苦手なこと、興味のあること、やってみたいことなどを丁寧に洗い出していきます。その後、就労訓練や職場見学、職場体験を通して就職を目指します。

 就労訓練では、主にビジネスマナーやコミュニケーションの方法を学びます。職場体験では、実際に協力企業に出向き、商品の品出し、荷物の梱包(こんぽう)や発送、調理補助、清掃、パソコンによる簡単なデータ入力などの仕事を体験することができます。実際に仕事をしてみて、自分に合うか試せるのです。

 ここまでの話を聞いて、母親は疑問を口にしました。

「費用はどのくらいかかるのですか? 高いんじゃないでしょうか?」

「臨床心理士による心理カウンセリングなど一部有料のサービスもあるようですが、ほとんどのサービスは無料で受けられますのでご安心ください」

 それを聞いて、母親はほっとした様子を見せました。

 しかし、長女は浮かない顔のままです。不安が払拭(ふっしょく)できないのかもしれません。「最初の一歩を踏み出せれば…」と思った筆者は、長女にこう言いました。

「初回の相談は、親御さんも同席するケースも多いそうです。お一人で行くのが心配なら、お母さまとご一緒に行ってみるものアリですよ」

 しかし、長女の反応はいまひとつでした。

「はあ、そうですか…」

 結局、面談の最後まで、長女の表情は晴れないままでした。

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

コメント

1件のコメント

  1. サポステって対象年齢39歳までじゃないの?
    地域によっても対象年齢が違うのかな。
    それとも引き下げられた?
    40代の家族について相談してみたかったのに、自分の地域のサポステを調べてガッカリしてしまった。