教員3100人増へ 増えるだけいいとは言い切れない「教育の質」の問題
大学入試改革など、高等教育を中心にしたさまざまな問題について、教育ジャーナリストである筆者が解説します。

2021年度公立学校教員採用選考試験の第2次試験が、各地で行われています。過労死ラインを超えて働く教員が小学校で3割、中学校で6割(文部科学省の2016年度教員勤務実態調査)を占める中、今年は新型コロナウイルス感染症の防止対策や学力保障策も加わって、教員の勤務実態は一層厳しさを増しています。
国は正規教員3100人増員などの対策を打ち出していますが、果たして、それで十分なのでしょうか。教員については「質と人数」両面の確保が大切なのですが、その前途には多くの難題があります。これまでの経緯とともに説明します。
厳しい勤務実態の中で
新型コロナウイルスの流行と、それをきっかけに安倍晋三首相が呼び掛けた長期間の全国一斉休校による学習の遅れを受けて、国の2020年度第2次補正予算では、学習指導員や「スクール・サポート・スタッフ」計8万1800人という大規模な臨時職員追加とともに、小学校と中学校の最終学年で少人数学級を編成できるよう、正規教員を3100人加配(増員)する措置が盛り込まれました。正規教員の増員分は退職教員の再雇用などで賄うと思われます。
3100人という増員自体は、単年度の改善数としては十分なものの、本来なら、この程度の増員が改善計画として5~10年にわたって保障されることが、学校現場にしても、長期的な採用計画を立てたい教育委員会としても望ましいところでしょう。
ここで、公立小中学校の教員数を決める仕組みを説明しておきましょう。教員定数は、学校数やそれぞれの学校の規模(学級総数)などによって基準がありますが、教員の給与費は、3分の1を国が、3分の2を都道府県が負担しているため、国の予算措置とそれに伴う法改正によって、全国の学校にどのくらいの教員数を配置するかの「教職員定数」が決められます。
国は1959年度以来、7次にわたる教職員定数改善計画を立てて、50人学級を40人に引き下げるなどの措置を取ってきました。しかし、2006年度以降、新たな改善計画は策定されていません。2011年度には、民主党政権の下で小学校の1年生だけ35人学級が実現し、自治体によっては独自に予算措置をして、小学2年以上の35人学級を実施しているところもありますが、国の財政難などから、国としての教職員定数の抜本的な改善は停滞しています。
そうした中で、教員の勤務実態は前回2006年度の調査と比べても、明らかに悪化しています。経済協力開発機構(OECD)の統計でも、日本の中学校教員が「世界一忙しい」ことが浮き彫りになっています。
一方、教員採用を巡っては2019年度採用試験(2018年度実施)で、小学校の競争率(採用倍率)が全国平均でバブル期と並ぶ2.8倍となったことが大きな衝撃を与えました。「危険水域」とされる3倍を切ると、質の高い教員を選べなくなるというのが、採用担当者の経験則だからです。教員の採用試験を行っている65都道府県・政令指定都市のうち、3倍を切ったのは31道県市と半数近くを占め、1倍台も10道県市ありました。最低は1.2倍とほぼ選考の余地がありません。
背景には、第2次ベビーブーム期に大量採用された教員が大量退職し、それを補うため、新規教員の大量採用が続いたことがありました。民間企業への就職が好調だったことも相まって、採用倍率の低下に拍車が掛かりました。今後、優秀な教員が確保し続けられるのか、関係者には懸念が広がっています。
コメント