長期金利が低下…米債券市場では何が起きているのか
グリーンスパン氏の「謎」再来?
実は、2000年代半ばにも同様のことが起きています。
2004年6月以降、6回で計1.50%の利上げをしたにもかかわらず、長期金利が低下したことについて、グリーンスパンFRB議長(当時)は2005年2月の議会証言で、「コナンドラム(謎)だ」と述べました。最終的に11回で計2.75%の利上げが行われましたが、長期金利はほとんど上昇しませんでした。そして、景気はその間も住宅ブームによって好調が継続したのです(2007年12月に景気は後退局面入り)。
当時の、米国を含む世界的な長期金利の低位安定は、アジア諸国や産油国を中心とした「世界の貯蓄過剰」が背景だったという説があります。現在、米国こそ金融政策の正常化を開始していますが追随する主要国はなく、日本やユーロ圏では「非伝統的」と呼ばれる極端な金融緩和が今も続けられています。やはり世界のカネ余りが長期金利低下の背景にあるのかもしれません。
加えて、米国の場合は2つの特殊要因が長期金利の低下に影響している可能性があります。一つは中国です。2016年、中国は人民元の下落を抑制するためにドル売り・人民元買いの介入を続けたものとみられます。結果として、中国は米国債を大量に売却しました。しかし、2017年に入って人民元相場が安定する中、中国は米国債購入に転じているようです。外国全体でみても、2017年1~3月期は4四半期ぶりに米国債の取得超過に転じています。
もう一つは、デットシーリング(債務上限)です。債務残高が法定上限に達したため、米政府は公務員年金や州地方政府を対象とした非市場性国債を大量に償還しています。通常の市場性国債は今も発行されているため、直接的には長期金利の低下要因とは考えにくいのですが、債券の需給面で何らかの影響を及ぼしているのかもしれません。
今後、米議会の予算審議において、減税やインフラ投資の行方が決まるでしょう。また、景気や物価の鈍化が一時的かどうかも徐々に判明するはずです。外国からの米国債投資が2016年から2017年初めにかけて見られたような急激な変化を繰り返すことは考えにくく、デットシーリングはいずれ引き上げられるでしょう。
そうした中で、長期金利低下の「謎」がある程度解けるのかもしれません。
(株式会社マネースクウェア・ジャパン チーフエコノミスト 西田明弘)
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