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ボビー・オロゴンさん“7歳さば読み” 芸能人の「年齢詐称」は詐欺罪にならない?

芸能人が年齢を若くさば読みして、うそが発覚したことは度々ありますが、年齢について対外的にうそをつくことは、詐欺罪にならないのでしょうか。

ボビー・オロゴンさん(2005年11月、時事)
ボビー・オロゴンさん(2005年11月、時事)

 先日、タレントのボビー・オロゴンさんが妻への暴行容疑で逮捕され、2日後に釈放されましたがその際、公式プロフィルの年齢は47歳なのに、実際の年齢が54歳であることが発覚し、話題となりました。

 芸能人が年齢を若くさば読みしていたことが発覚することは、これまでにも度々あり、決して珍しいことではありませんが、例えば、アイドルが年齢を若くさば読みしていて、実際の年齢はもっと上だったことが発覚した場合、ファンがショックを受けるなど何らかの悪影響を与える可能性はあり、ネット上では「詐欺罪にならないのか」という声もあります。

 芸能人が対外的に、年齢についてうそをつくことは詐欺罪にならないのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

詐欺罪が守るのは「個人の財産」

Q.そもそも、詐欺罪はどのような場合に成立するのですか。

佐藤さん「詐欺罪は簡単に言うと、他人の財産をだまし取ると成立します。刑法246条で規定されており、1項は『人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する』、2項は『前項の方法により、財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた者も、同項と同様とする』と定めています。

詐欺罪を定めることで守ろうとしているのは、個人の財産ですから、単にうそをついただけでは成立せず、うそをついて他人から金品をだまし取ったり、代金の支払いを免れたりして初めて成立します。

詳しく説明すると(1)人を欺く行為があり(2)それによって相手がだまされて勘違いし(3)勘違いによって自分の意思で財物や財産上の利益を処分して(4)財物や財産上の利益がだました人や第三者の手に渡ると詐欺罪が成立します。財産をだましとろうと人を欺いたものの(2)~(4)までの流れが途中で途切れてしまえば、未遂にとどまります。

加えて、詐欺罪が成立するためには、故意(1から4の流れを認識していること)と『不法領得の意思』(他人の物を自分の物として自由に利用したり処分したりする意思)が必要です」

Q.芸能人がタレント名鑑や所属事務所のホームページなどで、年齢について対外的にうそをつくことは詐欺罪になるのでしょうか、ならないのでしょうか。

佐藤さん「芸能人が対外的に、年齢についてうそをつくことは詐欺罪になりません。前述した通り、詐欺罪は個人の財産を守るために定められています。芸能人が公式ホームページなどにうその年齢を記載することは、被害者の財産をだまし取ることに向けられたものではなく、個人の財産の侵害につながらないからです」

Q.もし、芸能人が年齢についてうそをついていた場合、どのようなケースであれば罪に問われる可能性がありますか。

佐藤さん「先述したように、年齢についてうそをついただけでは犯罪は成立しないでしょう。例えば、年齢を若く偽ったアイドルが自分のグッズをファンに直接販売したケースを考えてみましょう。ファンからすれば、『若いと思ったから買ったんだ! だまされた』と思うかもしれません。

しかし、社会通念上、年齢を偽るだけでは、グッズ代金をだまし取ることに向けられたうそとは評価されないでしょう。つまり、こうしたケースであってもアイドルが詐欺罪に問われるとは考えられません。芸能人は、芸名、年齢、出身地、趣味…など自らのあらゆることを含めて演出し、ファンに夢や感動を与えます。そうした演出が犯罪になるとは考えられません」

Q.アイドルが実際の年齢よりも若くさば読みをしていたことが発覚した場合、ショックを受けるファンもいると思います。だまされた人に精神的苦痛を負わせてしまうのに、法的責任を問うことはできないのでしょうか。

佐藤さん「法的責任を問うことは難しいです。年齢のさば読みにショックを受け、『慰謝料を取りたい』『今までつぎ込んできたお金を返してほしい』など、民事上何らかの請求をしたくなるファンもいるかもしれません。

しかし、前述した通り、基本的に年齢を偽ることは違法ではありません。アイドルは年齢を含め、一つのキャラクターとして自らを演出していることが多く、演出された姿と素の姿に乖離(かいり)があったとしても、それについて法的責任を問われるものではないのです。

アイドルはファンに夢や希望を与えてくれる存在です。多少の年齢のさば読みは広い心で受け止めるのも、ファンの一つの在り方なのではないかと思います」

Q.では、芸能人ではなく一般人の場合についてお聞きします。例えば、アルバイトやパート、就職活動、転職活動で記述する履歴書で年齢をさば読みするのは、違法なのでしょうか。また、婚活パーティーなどでプロフィルの年齢をごまかすことは違法にならないのでしょうか。

佐藤さん「履歴書にうその年齢を書いた場合、私文書偽造罪に問われるのではないかと心配する人がいますが、その心配は当たりません。偽造とは、文書の名義人(文書に記載されている人)と作成者(実際に文書を作成した人)が不一致になることをいい、年齢など文書の内容を偽っただけでは、私文書偽造罪は成立しないからです。

ただし、就職活動等で年齢をさば読みすることは、採用段階で会社に事実を伝える義務に反しており、会社との信頼関係を壊す行為です。募集や採用する際、年齢制限を課すことは原則禁じられており、年齢詐称によって懲戒解雇に至るケースはまれですが、詐称の程度が大きく、会社の雇用計画などにも悪影響を及ぼすような場合、懲戒解雇が認められることもあります。

婚活パーティーなどでプロフィルの年齢をごまかす場合も、それだけで違法性は認められないでしょう。ただし、相手の信頼を裏切ることになるので、交際が進んでから2人の関係がこじれる原因になってしまうこともあります。年齢を偽っても大抵、ばれてしまうものです。大切な就活や婚活の場面で年齢を偽るのは避けた方がよいでしょう」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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