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限度の週28コマから29コマへ 小学校が直面する授業時間の問題と休校要請

大学入試改革など高等教育を中心にしたさまざまな問題について、教育ジャーナリストである筆者が解説します。

臨時休校となった小学校で自習する子どもたち(2020年3月、時事)
臨時休校となった小学校で自習する子どもたち(2020年3月、時事)

 新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、安倍晋三首相が全国の小・中・高校と特別支援学校に、3月2日から春休みまでの一斉臨時休校を要請し、実際に4日時点で公立小中学校の99%が休校しています(文部科学省調査)。

 休校中も、学校現場は児童生徒の宿題指導や生活状況の確認に追われています。そうした中で改めてクローズアップされているのが、「授業時間」の在り方です。

「標準」下回っても問題にせず

 安倍首相が突然の休校要請を行う前、文科省は全国の教育委員会などに宛てた2月25日付の事務連絡の中で、「標準授業時数を下回ったことのみをもって学校教育法施行規則に違反するものではない」という見解を改めて示しました。

 小中学校で行う授業時間の「標準」は、同規則に定められています。「1時間」の授業といっても、よく知られているように1コマの授業は小学校45分、中学校50分で行われており、これを「1単位時間」と呼んでいます。

 年間の授業時数は教科ごとに決められていて、例えば、小学6年生の国語は175単位時間とされています。夏・冬休みなどを除くと、年間で35週の授業が行われるのが通例なので、175単位時間÷35週で週5コマ、国語の授業を行うという想定です。全教科を合わせた小6の年間授業時数は現在、980単位時間です。

 ところで「標準」というのは、どういう意味でしょう。指導要領の歴史を振り返ると、1958年に初めて告示された時には「最低授業時間」とされていましたが、1968年の改訂(全面実施は1971年度以降)で「標準」に改められました。

 指導要領に定められた内容をこなせる「標準」的な授業時数として示す一方、実際には標準を上回っても下回っても構わないというわけです。従って、今回のように新型コロナウイルスの影響による臨時休校などで結果的に標準時数を下回ったとしても、かつては誰も問題にしませんでした。

「ゆとり教育批判」で潮目変わる

 潮目が変わったのは、1998年改訂の指導要領の全面実施が始まる2002年度を前に巻き起こった「ゆとり教育批判」です。同時に完全学校週5日制(それまでは月2回の土曜休み)に移行することもあって標準時数や学習内容を削減したことで(年間時数は1015→980単位時間に)、「学力が低下するのではないか」という懸念が世間で高まったのです。
 
 そうした批判や懸念に対応しようと文科省は、「指導要領は最低基準だ」と言い始めました。さらに2003年12月には指導要領を一部改正して、削減した内容を一部復活させただけでなく、補充学習や発展学習を行ってもいいことを明確化しました。ほぼ10年サイクルで全面改訂されてきた指導要領を、初めて実施途中で一部改正するという異例の措置でした。

 この間、多くの学校では、標準時数を上回る「授業時間の確保」に追われました。きめ細かい指導で学力を向上させるには、標準以上の授業が必要になると考えたわけです。法令上は依然として、結果的に標準を下回っても構わないとされているのですが、よほどのことがない限り許されないという雰囲気が、あっという間に教育界に出来上がりました。

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渡辺敦司(わたなべ・あつし)

教育ジャーナリスト

1964年、北海道生まれ、横浜国立大学教育学部卒。日本教育新聞記者(旧文部省など担当)を経て1998年より現職。教育専門誌・サイトを中心に取材・執筆多数。10月22日に「学習指導要領『次期改訂』をどうする―検証 教育課程改革―」(ジダイ社)を刊行。

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