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健康的? 子どもどうする? 「早朝出勤制度」導入企業が増加で賛否、専門家は?

働き方改革の一環で「早朝出勤制度」を導入する企業が増加。ネット上では「健康によい」などと好意的な意見が寄せられていますが、本当に社員の負担軽減につながるのでしょうか。

早朝出勤で社員は幸せになる?
早朝出勤で社員は幸せになる?

 働き方改革の一環で大企業を中心に「早朝出勤制度」を導入する企業が増加しています。早朝出勤を促すために、軽食の無料提供や時間外手当の支給などを行うケースもあり、ネット上では「健康によい」「通勤電車の混雑緩和につながる」など好意的な意見が上がる一方、「子どものいる家庭はどうするのか」「勤務時間がスライドしただけ」といった意見も寄せられています。

 早朝出勤制度は、本当に社員の負担軽減につながるのでしょうか。そのメリットなどについて、経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

労働コストの合理化図る

Q.午後8時以降の勤務を原則禁止とする代わりに、午前5時から8時までの間に勤務した社員への時間外手当を割り増しにする会社も登場しています。早朝出勤制度は、本当に社員の働き方改革につながるのでしょうか。

大庭さん「働き方改革の本質は、少子化による労働力不足が進行する環境下において、国内経済を維持していくために企業の生産性を高めることです。その最優先課題は『長時間労働を前提とした働き方を改める』ことですから、無制限な時間外労働を生まない早朝出勤は大変有意義な取り組みです。

早朝出勤を経営者側の視点で見た場合、必要な企業活動を維持しつつ労働コストの合理化を図れるという意味で、歓迎できる取り組みです。また、従業員側からの視点で見た場合、生活のリズムが変わることへの懸念は否めないですが、ワーク・ライフ・バランスの実現にもつながるため、損な取り組みではありません」

Q.早朝出勤で生じるメリット、デメリットは。

大庭さん「『仕事の効率が良くなる』『働く人のストレスを緩和する』『省エネ効果が生まれる』というメリットがあります。

早朝は外部からの電話などで仕事の邪魔をされることが少なく、生物学的にも脳の働きが良い時間帯であることが証明されているため、仕事の効率が向上します。通勤ラッシュの苦痛からも解放され、終業後に家族や趣味などと向き合う時間が増えることで、働く人のストレスが緩和されます。さらに、夜間の電気使用量が減り、あるいは早朝の涼しい時間帯にクーラーを使用せずに仕事をすることで、省エネ効果も生み出せます。

デメリットとして考えられることは、実労働時間の把握が曖昧になる可能性があるということです。始業時刻前の勤務であるため、管理者が勤務実態を把握しきれないこともあるからです。さらに、業務の都合で終業時刻後に対応しなければならないことがあった場合、早朝にも勤務をした分、一日の実労働時間が長時間化してしまいます」

Q.企業が早朝出勤制度を導入する場合、求められることは。

大庭さん「早朝出勤は、企業の生産性向上と従業員の長時間労働防止を目的としたものでなければ意味がありません。一日の実労働時間が長時間化してしまうことがないよう配慮が必要です。各従業員の業務状況を正確に把握した上で早朝出勤を命じる、もしくは、従業員からの早朝出勤の申し出を許可する対応を行うことが求められます。

そのほか、早朝勤務を行うことのできる時間帯や一定期間内での上限時間などをルール化する、通勤時間の長い従業員に対しては生活や移動に無理を生じさせないための配慮を行うといった必要もあります」

Q.早朝出勤した社員に時間外手当を支給しない企業もあるようですが、本来支払わなければならないものなのでしょうか。

大庭さん「上司が早朝の勤務を指示した場合、もしくは、本人の意思で早朝の勤務を行っているのを上司が黙認した場合、早出出勤で働いた時間は労働時間になり、賃金支払いの義務が生じます。よって、早朝出勤を行ったことで、その日の実労働時間が8時間を超えた場合やその週の実労働時間が40時間を超えた場合は、超えた部分に対して時間外労働としての割増賃金を支払う必要があります。

さらに、午前5時よりも早い時間から勤務を開始した場合は、午前5時までの時間に対して深夜労働としての割増賃金を支払う必要があります」

Q.今後、早朝出勤は日本で広がると思いますか。

大庭さん「政府主導で働き方改革が浸透することで、企業の生産性を高めることへの意識が高まりつつあります。さらに、若年者を中心として、『プライベートな時間も大切にし、会社に縛られない働き方をしたい』という価値観も広まりつつあります。今後、国内で早朝出勤を取り入れる動きが広まっていくことが想定されます」

(オトナンサー編集部)

大庭真一郎(おおば・しんいちろう)

中小企業診断士、社会保険労務士

東京都出身。東京理科大学卒業後、企業勤務を経て、1995年4月に大庭経営労務相談所を設立。「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心に企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。以下のポリシーを持って、中堅・中小企業に対する支援を行っている。(1)相談企業の実情、特性に配慮した上で、相談企業のペースで改革を進めること(2)相談企業が主体的に実践できる環境をつくりながら、改革を進めること(3)従業員の理解や協力を得られるように改革を進めること(4)相談企業に対して、理論より行動重視という考えに基づき、レスポンスを早めること。大庭経営労務相談所(https://ooba-keieiroumu.jimdo.com/)。

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