オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

「中立」「公平」な放送とは何か いま問われるキャスターの矜持【前編】

報道は主観的な価値判断によって成り立つ

 この法律の下、当然、ニュースの制作現場は「中立」「公平」に伝えようと務めます。ただ難しいのは、何をもって「中立」「公平」な放送とするかです。放送局が何かを伝えることは主体的な活動です。

 取り上げた出来事の何が問題なのか、それが持っている意味を伝えることであり、送り手側の主観的な価値判断がどうしても入ってしまいます。そうした「視点」や「切り口」なくして報道は成り立ちません。同じトピックを伝えたとしても、番組が異なれば光の当て方が異なるはずです。それまで否定されるべきではありません。

 そして、今回問題としたいのは「キャスターの発言やスタンスをどう考えるか」です。昨今のニュース番組では、ニュースの後にキャスターがコメントする機会が多くなりました。季節の話題であれば、自身の感想を述べることも許されますが、政治など意見が分かれる問題はそうは行きません。キャスターは放送局の「顔」であり、その発言が局の姿勢とも受け取られかねないからです。

 ニュース番組も当然、視聴率を気にしますし、他局との競争ですから、ニュース後のコメントに個性を出して他局との差別化を図ろうとします。ただし、先ほど述べた放送法の存在から、国論を二分するようなトピックの場合は、より慎重な発言が求められます。

テレビの主義主張は認められないのか

 ここ数年では、安全保障法制の問題が分かりやすいでしょうか。こうした場合、賛成/反対両方の意見を紹介しながら、判断は視聴者に委ねる形が採用されます。キャスターの発言が番組の“色”を決めてしまうため、番組での発言はデスクや報道責任者といった、しかるべき担当者と相談した上で慎重に決められることになります。

 ただ、その場合、番組の個性はどうなるのでしょうか。テレビ報道では主義主張は認められないのでしょうか。政府の発表をそのまま流すことは、ジャーナリズムが本来持っている「権力を監視する機能」を放棄することにならないか…といった、さまざまな問題をはらむことになります。ニュースの送り手はこうしたことに悩みながら日々、ニュースに向き合っているのです。

(駒沢大学文学部准教授 深澤弘樹)

1 2

深澤弘樹(ふかさわ・ひろき)

駒沢大学文学部社会学科准教授、元・山梨放送アナウンサー

1969年甲府市生まれ。同志社大学卒業。1991年4月山梨日日新聞社入社。甲府市政記者を経て1992年4月から山梨放送アナウンサー。同社に18年間勤務し、テレビ・ラジオのスポーツ実況のほか、ニュースや情報番組などを担当した。山梨放送に勤務する傍ら中央大学大学院で学び、2009年3月に博士(社会情報学)取得。専門はニュース研究、スポーツ実況研究。2010年から現職。主な業績は「変容するテレビニュースとキャスターの役割」(春風社、2015年、単著)など(http://amzn.asia/9vTL2tw)。

コメント