メルカリがアントラーズ経営権取得、譲渡額16億円は「安い」との声も…専門家に聞く
フリマアプリを運営する「メルカリ」が、サッカーJ1・鹿島アントラーズの経営権を取得すると発表。譲渡額は約16億円ですが、「安い」という声も出ています。

フリマアプリを運営する「メルカリ」(東京都港区)が7月30日、サッカーJ1・鹿島アントラーズの経営権を取得すると発表しました。アントラーズは1993年のJリーグ発足当初から参戦しているクラブで、リーグ優勝8回、ACL優勝など輝かしい歴史を持つチームです。そのアントラーズの譲渡額が「約16億円」と発表され、一部で「安い」という声も出ています。スポーツビジネスに詳しい尚美学園大学の江頭満正准教授に聞きました。
FCバルセロナを基準にすると389億円
Q.メルカリが15億9700万円で鹿島アントラーズの経営権を取得すると発表しました。約16億円という金額は、Jリーグ屈指のクラブ買収の金額にしては「安い」という声もあります。
江頭さん「確かに安いかもしれません。参考になるのは、アメリカ・フォーブス誌が毎年公表している『most valuable sports teams』という記事です。2019年は例えば、アメリカンフットボールの『ダラスカウボーイズ』の市場価値を50億ドル(1ドル=110円で約5500億円)と査定しています。サッカーでは、スペインの『FCバルセロナ』が40億2000万ドル(約4422億円)です。これを基に鹿島の市場価値を計算すると、389億円になります。その計算は次の通りです。
監査法人のデロイトUSがまとめた『FOOTBALL MONEY LEAGUE REPORT』によると、『FCバルセロナ』の年間売り上げは6億9040万ユーロ。1ユーロ120円とすると、828億4800万円になります。鹿島の売り上げは73億3000万円なので、バルサの8.8%にあたります。バルサの市場価値は4422億円なので、その8.8%を鹿島の市場価値とすると389億円となるのです。バルサは世界規模でのブランド価値があるので、鹿島と単純計算で比較できないとしても、15億9700万円は破格の安さかもしれません」
Q.サッカーや野球では、クラブや球団の譲渡が行われることがありますが、譲渡額は一般にどのようにして算出するのでしょうか。
江頭さん「先述のように、デロイトという監査法人が、前出のスポーツチーム評価をしています。このように、普通の株式会社を評価するのと同様、投資対象チームの価値を調査して算出するのが現代式です」
Q.ソフトバンク、楽天、DeNAなど、野球やサッカーのチームを傘下に入れるIT企業が増えています。IT企業がスポーツに本格参入するメリットを教えてください。
江頭さん「私はダイエーホークス(現ソフトバンクホークス)時代に、オーナー代行のブレーンとして10年間仕事をしていました。その経験から2つの理由が考えられます。1つは、伝統的な大企業と異なり、急成長した企業は経団連のようなコミュニティーでなかなか認められません(メルカリは既に経団連に入会しましたが)。
伝統のある会社の中には『急成長する会社は失速も早い。20年から30年、黒字で健全経営しないと信用できない』といった価値観も存在しています。海外では、プロスポーツチームのオーナーはそれだけで特権階級扱いを受けますが、同様のことが国内でもいえるでしょう。
もう一つの理由が、自社の株価を上昇させるための戦略です。急成長した企業は、社長が多くの自社株式を保有しているケースがあり、株価が上がることで個人資産が増えます。自社の価値が世間に認められることになり、経営者としても評価されます。
今までメルカリに興味のなかった鹿島ファンの40、50代男性が、親会社であるメルカリの株式を購入する可能性があります。既存の株主も、黒字の鹿島を購入することの経営上のリスクは少なく、メリットの方が多いでしょう。ただし、チーム成績が低迷し、万が一降格するとメルカリの株価が影響を受けて下落する危険性は否定できません。
メルカリの上場は2018年6月19日、新興市場のマザーズで当初500億円を調達しました。上場当初5300円だった株価は、2019年8月2日には3000円を下回っています」
Q.鹿島はこれまでの実績だけでなく、今期も上位につけ、観客動員も順調です。こうした状態で経営が譲渡されるのはなぜでしょうか。
江頭さん「アントラーズのこれまでの親会社、日本製鉄の業績低迷が考えられます。8月1日発表の四半期決算短信によると、営業利益は33.1%減で落ち込みが著しいです。この落ち込みを2020年3月までに解消することが難しそうなので、チームが順調なタイミングで売りに出して現金化しようとしたのかもしれません。
そもそも、鹿島はJリーグ発足時、リーグ関係者が黒字化を最も不安視したクラブでした。その後の成績と営業努力で売り上げを伸ばし、親会社からの支援なしでやっていけるようになったものの、最初の親会社だった住友金属が2012年、新日本製鉄に吸収合併され、親会社の内部でアントラーズに対する考え方が変わったようです。
住友金属時代にアントラーズ担当者は役員クラスでしたが、合併後は部長クラスに。そこへ、本業の業績悪化。ドラマの『ノーサイド・ゲーム』のように、アントラーズをお荷物扱いする考えが生まれた可能性はあります」
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