流行の「手足口病」、治癒しなくても通園可の理由【ぼくの小児クリニックにようこそ】
千葉市で小児クリニックを構えている医師である著者が、子どもたちの病気を診てきた経験をつづります。

今年は手足口病が大流行しています。千葉市の統計では、過去10年で最多とのことですが、皆さんの地域でも同様ではないでしょうか。
6月から始まった流行は、まだ完全には収まっていません。今日も、手足口病の疑いがある1歳の保育園児がクリニックを受診しました。発疹が出ているので、医療機関を受診するように保育園から指示されたのだそうです。
原因ウイルスは腸内にいる
「先生、うちの子、膝にぶつぶつが出ているのですが、これって手足口病なんでしょうか」
「ちょっと待ってください。手のひらや、足の裏をよく見てみましょう。靴下を脱がせて。ほら、赤い発疹がいくつか出ていますね。膝の発疹も病気の一部です。おむつの中はどうですか」
「あ、お尻にぶつぶつがたくさんあるんです」
「よくあるパターンですね。口の中は…ああ、ちょっと上顎の粘膜が赤くなっていますね。典型的な手足口病です」
「じゃあ、保育園は登園停止でしょうか」
「それが違うんです。熱はありませんね? 元気ですね? 口の中を痛がって食事が取れないということはありませんね?」
「はい。大丈夫です」
「では、明日から行って大丈夫です。証明書を書きますね」
「じゃあ、うつらないんですね?」
これは、必ず保護者の方から聞かれる質問です。手足口病はコクサッキーウイルスやエンテロウイルスによって発症します。エンテロとは、ラテン語で「腸」という意味。つまり、手足口病の原因ウイルスは手足にいるのではなく、腸の中にいるのです。お尻回りに発疹が出るのは、便の中にウイルスがいるからです。
そして、手足口病はいったん発症すると、3週間程度にわたって便からウイルスが出るといわれています。つまり、3週間は他人に感染するということです。では、なぜ保育園に行ってもいいかというと、手足口病は「病気としては軽いもの」と考えられているからです。「他のお子さんにうつしてしまっても仕方のない病気」、そして、「3週間休むのは現実的ではない病気」と考えられているのです。
「ですから、私の書いた証明書には『保育園に行ってもいい』とは書いてありますが、『病気が治癒した』とは書いてありません。みんなでよく手洗いをして、ウイルスが広がらないようにすることが大事なんです」
脳炎や髄膜炎を起こす可能性もあるが…
手足口病は軽い病気…そう説明はするものの、私にはいつも一抹の不安があります。コクサッキーウイルスやエンテロウイルスは、脳炎や髄膜炎、そして心筋炎を起こす可能性があるからです。
嘔吐(おうと)や頭痛が激しい場合、脳炎や髄膜炎を疑う必要があります。そして、腹痛・嘔吐といった「消化器症状」に、呼吸困難などの「呼吸器症状」、そして、ぐったりとしてしまう「全身症状」があれば、心筋炎を起こしている可能性があります。心筋炎は劇症型の経過を取ることがあり、あっという間に心臓が止まってしまうことがあるのです。
私は開業して13年になりますが、幸運なことに、心筋炎の子どもには一例も出会ったことがありません。最後に心筋炎を診たのは、大学病院で勤務していたときです。
手足口病のお子さんを診る都度、私は心筋炎の説明はしていません。それは、保護者の不安をあおることになるからです。むしろ「軽い病気」と説明しておいた方が、もし、お子さんの症状が悪くなったときに「あれ? 医者の説明と違うぞ」と保護者が気付いてくれるのではないかと考えているのです。
手足口病に限らず、私はどんな病気でも、その後の経過の「大体の予測」を説明します。その説明が実際と違っていたら、それは何か予期せぬことが起きている証拠ですから、「話が違う」と思ったときはもう一度診察を受けるのが、医者にかかる上での一つのコツではないでしょうか。
(小児外科医・作家 松永正訓)
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