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「熱中症」の多くは軽度、症状あれば涼しい部屋へ【ぼくの小児クリニックにようこそ】

千葉市で小児クリニックを構えている医師である著者が、子どもたちの病気を診てきた経験をつづります。

熱中症予防には水分補給が大切
熱中症予防には水分補給が大切

 暑い日が続きますね。テレビでは連日、「熱中症で子どもが救急搬送された」といったニュースが流れています。保護者の皆さんは、夏場にお子さんが発熱するとすぐに、「熱中症かも!」ととても心配されるようです。

 しかし、医療機関を受診しなくてはいけない熱中症というものは、そんなに多いわけではありません。

子どもの熱中症は実は多くない

 医療機関にかかる熱中症の患者数は毎年35万~40万人で、それも高齢者が多いです。一方、冬のインフルエンザ感染者は毎年1000万人で、子どもが多いです。「夏になったら、子どもたちが次々に熱中症になる」というのは誤解があると思います。

 熱中症という病態は結構複雑で、一般の人には分かりにくいのではないでしょうか。多くの人は、「暑さの影響を強く受けて体温が上昇してしまう病気」と考えているようですが、そうではありません。暑いときに人が体温を一定に保とうとする仕組みから、熱中症になる流れを、順を追って説明しましょう。

(1)まず、体の表面で体温を下げようとします。皮膚の毛細血管が広がり、血液を体の表面に集めて温度を下げます。このため、脳へ十分に血液が行き渡らなくなり、めまいや気分不快、失神を起こします。この段階では体温は上昇していません。

(2)皮膚に血液を集めるためには、全身を血液がぐるぐると循環しなければなりません。体中を循環する血液が足りなくなると、軽い脱水状態になります。手足がしびれたり、脚がつったりします。サッカー中継を見ていると、脚がつった選手がよく映りますが、あれは軽い熱中症です。そしてこのときも、体温は上昇していません。

(3)全身にぐるぐると血液を回すためには、心臓がフル回転しなければなりません。しかし、脱水が進んで循環する血液が少なくなってしまうと、心臓は「空回り」状態になるので、いよいよ全身を冷却できなくなります。全身の「脱力感」「倦怠(けんたい)感」「頭痛」「吐き気」となり、大汗をかいて体温が39度くらいに上昇します。

 つまり、熱中症で体温が上がってしまっているというのは、相当深刻な状態ということです。この状態がさらに進むと、もはや水分がないため汗はかかず、肌は赤く熱く乾燥し、意識がなくなります。「多臓器不全」と呼ばれる状態に陥り、集中治療室で治療を受ける必要があります。体温は40度を超えます。

 私はひと夏に数人の熱中症の患者を診ますが、すべて(1)の段階の軽症のお子さんです。一方で、夏の間、発熱したお子さんは多数クリニックを受診します。

暑さを避けて十分な水分補給を

 先日も、幼稚園の年長さんの男の子がクリニックにやってきました。母親が言います。

「うちの子、昨日から38.5度の熱があるんです。熱中症でしょうか」

「熱以外に何か症状はありますか」

「少し頭が痛いって…」

「お子さん、元気ですよね。今も椅子に座って脚をブラブラさせていますよね。熱中症で発熱したら、2日間も様子を見ることなんてできません。そういう慢性の病気ではありません。熱中症は緊急の病気です」

 結局、このお子さんは「夏風邪」でした。7~8月は、発熱しか症状のない夏風邪のお子さんが結構受診します。夏風邪の中でも、皮膚・粘膜に症状が合併すると、「手足口病」や「ヘルパンギーナ」と呼ばれます。

 熱中症を心配してクリニックを受診することは、全然悪いことではありませんが、単純に「夏」+「発熱」=「熱中症」ではありません。

 しかし、お子さんが暑い環境の中で大汗をかいて「気分が悪い」「頭が痛い」などと言うのであれば、軽い熱中症かもしれません。この場合は、エアコンが十分に効いた涼しい部屋で寝かせ、スポーツドリンクを少しずつ何度も飲ませてください。これだけで、ほとんどの場合は回復します。

 熱中症が起きる一番の理由は何かご存じですか。それは「油断」です。暑さを避けて、しっかり水分補給をすれば、未然に防げます。

(小児外科医・作家 松永正訓)

松永正訓(まつなが・ただし)

小児外科医、作家

1961年東京都生まれ。1987年千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰(1991年)など受賞歴多数。2006年より「松永クリニック小児科・小児外科」院長。「運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語」で2013年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社)などがある。

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