オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

長引く熱に注意、3歳児がかかった「川崎病」の怖さ【ぼくの小児クリニックにようこそ】

千葉市で小児クリニックを構えている医師である著者が、子どもたちの病気を診てきた経験をつづります。

子どもの熱が下がらないときは要注意
子どもの熱が下がらないときは要注意

「次の患者さんはおたふくかぜです。他の病院で既に診断は付いているんですけど、熱が下がらないそうです」

 看護師さんにそう言われて、私はちょっと首をかしげました。

(あれ? なぜ、その病院に行かないのかな? どうしてうちに来るんだろう?)

 隔離診察室に入ってみると、3歳の男の子がベッドの上で横になっています。そばでは、母親が不安そうな表情で椅子に座っています。

首のリンパ節の腫れが3センチにも

「どうなされたんですか? おたふくかぜって診断されたんですよね?」

 私がそう声をかけると、母親はさらに顔を曇らせました。

「熱が下がらないんです。今日でもう4日目で、起き上がれないくらい元気がないんです」

 私は、おたふくかぜによる髄膜炎(ずいまくえん)を心配して、「頭を痛がっていませんか」と尋ねてみました。母親は「それはありません」と言います。

 私は、早速診察をしようと、男の子を座らせて耳の下を触ってみました…いや、触ろうとしたのですが、腫れている場所は耳下腺(じかせん)ではありません。首のリンパ節です。改めてリンパ節に触ってみると、大きさが3センチほどもあります。

 これは、おたふくかぜではありません。しかし、リンパ節に細菌感染が起こって化膿(かのう)する化膿性リンパ節炎でもありません。赤くないし、触ってもあまり痛みは感じていないようです。

 高熱が続き、元気がなく、首のリンパ節が腫れる病気といえば、答えはすぐに出てきます。それは「川崎病」です。

全身の血管に炎症

 私は母親と一緒に、男の子の「目」「唇・舌」「手のひら」を順番に見ていきました。いずれも赤くなっています。衣服をめくると、胸からおなかにかけても「発疹」が出ています。こうなると、診断はもう間違いありません。

「川崎病ってよく聞きますけど、どういう病気なんでしょうか」

「原因ははっきりしていないんですが、全身の血管に炎症が起きる病気なんです。何か病原体の感染があって、それに対して免疫が過剰に反応しているのかもしれません」

 私は母親に、これからすぐに千葉県こども病院に入院する必要があることを説明しました。

 千葉県こども病院では、感染症科やアレルギー・膠原(こうげん)病科などに診療科が細分化されています。では、何科に連絡を取るかというと「小児救急総合診療科」です。なぜならば、川崎病で一番怖いのは、心臓に血液を送る冠動脈に炎症が起き、その結果、冠動脈瘤(りゅう)ができることだからです。

 冠動脈瘤は血栓ができる原因になり、その結果、心筋梗塞を引き起こすことがあります。当然ですが、心筋梗塞は命に関わります。

 治療は、アスピリンや免疫グロブリンを使って、体中の炎症を抑え、冠動脈瘤や血栓の発生を抑えることにあります。超音波検査によって、心臓の冠動脈の状態を経過観察しなくてはいけませんから、循環器内科の先生の協力も必要です。従って、千葉県こども病院では「小児救急総合診療科」が司令塔になって、各科との連携を調整するのです。

春から夏にかけて患者数増加

 この男の子は、その日のうちに千葉県こども病院に入院することになりました。後日、病院から私のクリニックに手紙が届きました。それによると、冠動脈に異常は認められなかったそうです。私は一安心しました。

 なぜ、母親は私のクリニックを受診したのでしょうか。それは、あまりにも男の子に元気がなく、ぐったりとしていたからです。母親の勘が働いたのでしょう。それは正解でした。診断が遅れると、冠動脈瘤発生のリスクも上がります。

 川崎病は、しょっちゅう見る病気ではありませんが、絶対に見逃してはいけない病気でもあります。春から夏にかけて患者数が増加し、秋に減るという特徴があります。幼稚園以下の年齢であれば、誰にでも起こります。1日だけの高い熱は心配ありませんが、長引く熱が要注意なのは、こうした病気の可能性があるからです。

(小児外科医・作家 松永正訓)

松永正訓(まつなが・ただし)

小児外科医、作家

1961年東京都生まれ。1987年千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰(1991年)など受賞歴多数。2006年より「松永クリニック小児科・小児外科」院長。「運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語」で2013年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社)などがある。

コメント