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命の危険も…妊娠・出産後の「産褥期」、どんなことに注意して過ごすべき?

妊娠・出産で大きく変化した体を回復させるための期間「産褥期」が話題になっています。どんな点に注意すればよいのでしょうか。

女性の産褥期に注意すべきこととは?
女性の産褥期に注意すべきこととは?

 出産後の女性に訪れる「産褥(じょく)期」について、ネット上で話題になっています。産褥期は、妊娠・出産で大きく変化した体を回復させるための期間ですが、日々の育児・家事に追われて無理をしてしまう女性が少なくない上に、時には命に危険が及ぶケースもあるようです。ネット上では「産後はやることが多くて、つい動きすぎてしまう」「大量出血して驚いたことがある」「気持ちが沈んだのも関係あるのかな」など、さまざまな声が寄せられています。

 産後の女性の体には、どのような変化やリスクが潜んでいるのでしょうか。産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。

産後6~8週までの期間を指す

Q.そもそも「産褥期」とは何でしょうか。

尾西さん「産褥期とは、妊娠中に変化したお母さんの体が、妊娠前の状態に戻る産後6~8週までの期間を指します。具体的には、妊娠で大きくなった子宮が元の大きさに戻ったり、妊娠中に増加した女性ホルモンが急激に減ったり、増加した血液が元の量に戻ったりします。特に最初の3週間は、まだ骨盤や筋肉の傷が癒えていない時期なので、動きすぎないようにしましょう。

この時期に無理をすると、産後の回復が遅れたり、母乳が十分作られなかったりするほか、精神的な不安定さから乳幼児の虐待につながることもあります。体の回復だけでなく、赤ちゃんとの愛情を育むための大切な期間でもあるので、無理はせずにゆっくり過ごしましょう」

Q.産褥期の具体的な症状と、危険なケースを教えてください。

尾西さん「子宮が元の大きさに戻ることによる痛みである『後陣痛(こうじんつう)』を感じることがあるほか、女性ホルモンの減少に伴って、うつのような症状の『マタニティーブルー』が起こるケースもあります。血液量が元に戻ったり、母乳が作られたりすることによる、むくみなどの症状も現れます。

また、出産の際に子宮や膣(ちつ)に傷ができて、『血腫(けっしゅ)』という血のたまりができたり、胎盤が一部残って気づかなかった場合などに、産褥期に大量の出血をしたりすることがあります。通常の月経よりも多く、さらさらした出血がある場合は、出産をした病院に連絡しましょう」

Q.産褥期に無理をすることで、命が危うくなるケースも実際にあるのでしょうか。

尾西さん「命に危険が及ぶような出血は、産後3日以内が多くなっており、その後は減少していきます。ただ、無理をしなくとも、やはり産褥期に動き回ると傷の治りが遅くなったり、出血が長引いたりすることがあります。さらに、感染症にかかりやすかったり、心筋症を発症したりする人もいるので、体調の変化に注意しましょう。

また、産褥期は精神的に負担がかかり、自殺する人が多くなっています。国立成育医療研究センターなどのチームの調査によると、その人数は、出産時の事故で亡くなる人数より多いです」

Q.産褥期が終わった後は、どのように過ごすのがよいのでしょうか。

尾西さん「産褥期が終わったからといって、すぐに全てが元に戻るわけではありません。産後の完全な回復には『体の回復』『ホルモンの回復』『環境に慣れること』が必要です。

まず、体の回復には3~6カ月かかります。授乳中は、母乳を作るホルモン『プロラクチン』が多く出ており、逆に女性ホルモンの『エストロゲン』の分泌は少ない状態が続きます。ホルモンの状態が元に戻るのは、生理が再開する頃になるため、授乳をしている人の場合は半年~1年続きます。

この回復には個人差があります。それは、ホルモンだけでなく、環境も大きく影響しているためです。夜中の授乳やお世話に慣れるのに、3カ月~半年はかかります。心と体と環境の全てが整うことで、子育てや将来に前向きになれるでしょう」

Q.産褥期やその後の期間について、夫はどのように対応すべきでしょうか。

尾西さん「『出産・産後は病気ではない』という人もいますが、実際は“生と死が常に隣り合わせ”の期間です。体への負担は、『大きな交通事故に遭ったのと同等のダメージ』ともいわれています。

パパは何をしたらよいか分からず、戸惑うこともあると思いますが、まずはママのことをよく観察しましょう。顔色や動作を見ることで、回復の具合だけでなく『何に困っているか』『何を手伝えばよいか』も分かってくるでしょう。特に、さらさらした出血や動けないほどの腹痛がある場合、侮ることなく、出産した病院へ連絡してください」

Q.産褥期のリスクについて、男性を中心に一般的にはあまり知られていないように思います。

尾西さん「産後の体は満身創痍(そうい)です。体や環境の変化で、本人や周囲の人が思っているよりも体と心のダメージは大きいもの。産後すぐに妊娠前の状態や生活に戻るわけではないので、周囲の手助けが大切です。女性側からSOSが出る前に、小さなことでも手伝ってみてください。

また、ママの回復と同じように、パパにとっても最初の3カ月が肝心です。ここで子育てに参加することで子どもへの愛着が湧き、夫婦仲が悪化する『産後クライシス』を防ぐこともできます。働くパパは仕事で疲れていて大変だと思いますが、子育てを『仕事』と思わず『癒やしの時間』として迎えてみてください」

(オトナンサー編集部)

尾西芳子(おにし・よしこ)

産婦人科医(神谷町WGレディースクリニック院長)

2005年神戸大学国際文化学部卒業、山口大学医学部学士編入学。2009年山口大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院研修医、日本赤十字社医療センター産婦人科、済生会中津病院産婦人科などを経て、現在は「どんな小さな不調でも相談に来てほしい」と、女性の全ての悩みに応えられるかかりつけ医として、都内の産婦人科クリニックに勤務。産科・婦人科医の立場から、働く女性や管理職の男性に向けた企業研修を行っているほか、モデル経験があり、美と健康に関する知識も豊富。日本産科婦人科学会会員、日本女性医学学会会員、日本産婦人科乳腺学会会員。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yoshiko-onishi/)。

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