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7万人超が受講 職場の精神・発達障害者を助ける「しごとサポーター」、どんな制度?

精神障害や発達障害の人たちの定着が進まない職場があります。国は、周囲の知識や理解不足が一因と考え、「精神・発達障害者しごとサポーター」制度を設けています。

「精神・発達障害者しごとサポーター」シンボルマーク(厚生労働省ホームページより)
「精神・発達障害者しごとサポーター」シンボルマーク(厚生労働省ホームページより)

 4月2~8日は「発達障害啓発週間」。発達障害についての認知が徐々に広がり、企業でも、発達障害、またはそれに近い症状を見せる社員がいることが知られてきています。しかし、そうした社員への企業側の対応は整っているとはいえません。厚生労働省は「精神・発達障害者しごとサポーター」制度を創設して養成講座を行い、精神障害や発達障害の人が、円滑に仕事できる環境を整えようとしています。同制度について、厚生労働省障害者雇用対策課地域就労支援室の根本友之室長補佐に聞きました。

一緒に働くのが当たり前の職場に

Q.「精神・発達障害者しごとサポーター」とは、どのような制度ですか。

根本さん「各企業で、障害者雇用の取り組みが進んだこともあり、精神障害および発達障害(以下、精神・発達障害)のある社員が、各企業内に増えています。精神・発達障害のある社員と一緒に働く場合、正しい知識と理解が必要です。知識と理解を身に付けて、こうした社員の応援者を増やそうと始めた制度です」

Q.なぜ始めたのですか。

根本さん「精神・発達障害のある社員の職場定着が、必ずしも順調ではないからです。理由はさまざまですが、職場の同僚の、精神・発達障害への知識や理解が十分ではないことも、一つの理由と考えられます。知識や理解を同僚に身に付けてもらい、精神・発達障害のある人と一緒に働くのが当たり前の職場にすることが制度の目的です」

Q.サポーターは、どのようにして育てるのですか。

根本さん「養成講座を全国各地で開催しています。2017年9月から始めました。各都道府県にある労働局やハローワークの担当者が2時間程度の座学の講座を行います。企業での出前講座も行っています。

参加者は管理職だけでなく、現場の一般社員も多いです。これまでに約7万4000人が受講し、サポーターになりました。受講後、『自分は精神・発達障害に一定の知識、理解がある』ことを意思表示するシンボルマークを提供し、名刺や職場のデスク上などに明示することを推奨しています」

Q.サポーターは職場でどのような役割を果たすのですか。

根本さん「精神・発達障害のある社員との接し方で、戸惑ったり悩んだりした同僚がいたときに、その同僚の相談に乗ります。また、精神・発達障害のある社員自身が何らかの支援が必要になった場合には、専門機関につなぐこともあります」

Q.精神障害や発達障害の症状は多様です。2時間程度の養成講座で知識と対応を学べるのでしょうか。

根本さん「養成講座は、専門知識を深く身に付けてもらうことが趣旨ではありません。まずは、精神障害や発達障害の最低限の基本的な知識や対応をより多くの人に身に付けてもらうことが目的です。そのため、労力や時間をかけないよう2時間程度のコンパクトな講座にして、受講のハードルを下げています。2019年3月から、養成講座のe-ラーニング版を始め、さらに多くの人に受講してもらえるようにしています」

Q.現在は多くの企業で、特に発達障害、あるいは発達障害が疑われる症状の社員にどのように接したらよいか悩むケースが多いと聞きます。どう接したらよいのか、事例を教えてください。

根本さん「発達障害には多くの種類があり、同じ種類でも、特性やその程度は一人一人異なります。そうした中でも、比較的多くの人に共通する職場でのシーンと、その接し方の例をいくつか挙げてみます」

【初出勤時】

「今日から採用の○○さん、発達障害があるということだけど、最初から声をかけると緊張してしまうかな…」

→他の同僚と同じように、まずはあいさつから声をかけてください。緊張のため自分からのあいさつがなかなかできない場合であっても、周囲からあいさつされると歓迎されていると感じて緊張が緩和される場合もあります。

【仕事中】

「○○さん、仕事中メモを一生懸命取るのは感心だけど、メモを書くのにすごく時間がかかってしまって、説明をするのに手間取ることがあるんだよな…」

→書面を準備して説明するのが望ましいです。メモを取る習慣が身に付いていても、指示のどこが重要なのか判断できず、一言一句、全てをメモしようとする場合があります。時間があれば待つことも有効ですが、メモ作業を極力少なくするために、仕事の指示は口頭のみでなく書面で提示し、口頭で補足するなどの配慮があるとよいです。

【休憩時間】

「休憩時間とはいえ、スマホの音量が大きすぎるな…」

→職場のルールに違反していたり、周囲の人が迷惑がったりしているようであれば、威圧的にならないように声をかけるのが望ましいです。マナー面について、「暗黙のルール」など明文化されていないことへの対応が不得意な場合があり、本人は気づいていないだけということがあるため、注意や叱責、苦情ではなく、ルールや「迷惑に感じている」ことを説明した上で、望ましい対応(イヤホンの利用など)の具体的な提案をする声かけが望ましいです。

【社内イベント】

「部署内で歓迎会(飲み会)があるけど、○○さんを誘ってもよいのだろうか…」

→他の同僚と同様に声をかけるのが望ましいです。最初から声をかけないという判断はせず、例えば、「参加は強制ではない」といった前提で参加希望を確認し、本人の主体性を尊重するのが望ましいです。本人が判断できない場合、支援機関や家族とも相談するのがよいでしょう。

(オトナンサー編集部)

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