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「発達障害」の30歳ひきこもり長女、自力で「障害年金の請求書類」書くと主張…困惑した社労士が気付いた“本当に必要な支援”

家族に寄り添う本当の支援とは?

 障害年金では、まず初診日の証明書を入手することから始めます。幸いにも小学生の頃に受診した小児科に当時のカルテが残っていたので、初診日の証明書(受診状況等証明書)を入手することができました。

 次は診断書の入手です。まずは美紀さんが発達障害により、日常生活にどのくらいの困難さを抱えているのか、それを文書にまとめます。そして主治医に文書を渡し、その内容を踏まえた診断書を作成してもらうようにします。

 なお、診断書にある日常生活能力の判定(日常生活の困難さ)は次の通りです。

(1)適切な食事
(2)身辺の清潔保持
(3)金銭管理と買い物
(4)通院と服薬
(5)他人との意思伝達および対人関係
(6)身辺の安全保持および危機対応
(7)社会性

 これら7項目について、美紀さんの具体的なエピソードを文書にまとめます。母親と私で話し合った結果、「私がメールで質問をする→母親がメールで回答をする→回答を基に私が清書していく」といったことを繰り返すことになりました。

 しかし、ここで思ってもみないことが起こりました。

 私が最初の質問である「適切な食事について」の質問をしてから2週間以上がたっても、母親から何の音沙汰もなかったのです。

 心配した私は母親に連絡をしてみました。すると意外な答えが返ってきました。

「長女の強い希望で、回答は本人が作成することになりました。回答をまとめるまで時間がかかってしまい申し訳ございません。回答がまとまり次第、こちらからご報告いたします」

 この返事に私は戸惑いを隠せませんでした。

 最初の質問からすでに2週間以上が経過しています。日常生活の困難さの項目は全部で7つ。これらをまとめるのにかなりの時間がかかってしまうであろうことは想像に難くありません。

 さらに、障害年金では「病歴・就労状況等申立書」という書類も作成する必要があります。病歴・就労状況等申立書には、診断書では記載し切れない本人の状況を記載していきます。

 発達障害がある人の場合、幼少期から現在までの状況を具体的に記載する必要があります。日常生活の困難さの回答をしてもらった後、幼少期から現在までの回答もしてもらわなければなりません。

 そこで、私は次のような提案をしてみました。

「回答をまとめるのにお時間がかかるようでしたら、インターネットを利用したウェブ面談でお嬢さまに直接お話しいただくのはどうでしょうか。もちろん顔は映さなくて大丈夫です。音声だけで構いません。口頭でお伝えいただく方が時間の節約になると思います」

 すると、母親は申し訳なさそうな声で言いました。

「長女は他人に会うと極度の緊張で頭が真っ白になってしまい、うまく伝えることができません。インターネットでの面談も厳しいと思います。せっかくご提案いただいたのに申し訳ございません。長女は話すことは苦手ですが、文章であれば何とか作成できます。とはいえ、長女は作業がとても遅いので、かなり時間がかかっているようです。もちろん『早く請求した方がよい』ということは、長女もよく分かっています」

「それならば、なおさら早くできる方法を見つけなければなりません。障害基礎年金と障害年金生活者支援給付金の合計は1カ月当たり約7万4700円です(2025年度の金額として。100円未満切り捨て)。仮に請求が6カ月遅くなると約45万円、1年遅くなると約90万円ものお金をもらいそびれてしまいます。それはもったいないことですよね」

 私はいつの間にか焦りにも似た気持ちに襲われました。それが母親にも伝わったのか、母親は次のように言いました。

「長女は今まで納得のいく形で物事を最後までやり遂げた経験がほとんどありません。長女は昔から作業がとても遅かったので、母親の私も『この子は何でこんなに遅いのか。もっとテキパキできないものなのか』といら立ちを隠せないこともたくさんありました。そのため、先生のおっしゃることもよく分かります。それでも、どうかご理解いただけませんでしょうか」

 母親の言葉に、私はわれに返りました。

「今回は事後重症請求になるから、できるだけ早く請求をしなければならない。専門家である私にできる支援は、速やかに必要書類をそろえること。それが美紀さん家族にとっても望ましいはずだ」

 そのような思い込みにとらわれていることに気が付いたからです。長女の決断には「自分で物事をやり遂げたい」という強い意志が感じられました。

 さらに、母親は続けました。

「実は最近になって長女から言われたのですが、長女はひきこもりになってからインターネットで発達障害のことを調べたそうです。すると自分に当てはまる事柄がたくさんあり、大きなショックを受けていたようなのです。『なんで私は発達障害なのだろう』ということがずっと心の中で引っかかり、何もする気も起きなかったと言っていました。長女はこの年齢になって、やっと自分の発達障害を受け入れることができるようになったんだと思います」

「なるほど、事情は分かりました。それでは娘さんのペースで進めていくことにしましょう」

 早く請求することが唯一の正解であると思い込んでいた私は、美紀さんの納得がいく回答が出来上がるまで待つことにしました。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

【画像】「ためになる!」 これが「発達障害」の子どもの将来のために今から“やっておくべき準備”です

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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