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「私が孫を抱く日なんて永遠に来ない」 自閉症児を24年間育てる母が「わが子の障害を直視できない」親たちに伝えたいこと

「うちの子に限って、そんなはずはない」。わが子の障害にショックを受け、現実を受け入れられない親へ、自閉症児を育ててきた筆者が伝えたいメッセージとは――。

わが子の障害を受け入れられない親へ… ※画像はイメージ
わが子の障害を受け入れられない親へ… ※画像はイメージ

 子育て本著者・講演家である私には、講演をするとき、同じ悩みが繰り返し寄せられます。それは、「わが子の障害をどうしても受け入れられない」という悩みです。その気持ち、私にはとてもよく分かります。子どもが小さければ、なおさらだと思います。

 私は24年間、知的障害のある自閉症の息子を育てていますが、いまだに定型発達の人と比べては落ち込む日々を過ごしています。現在、私は63歳ですが、孫自慢をする友達の話を、「息子は結婚することもないから、私が孫を抱く日なんて永遠に来ないんだな」と思いながら、表面上はニコニコしながら聞いています。

“普通”という呪縛からの解放

 さて、わが子に「障害があるかもしれない」と言われたとき、親は大きなショックを受けます。そして「うちの子に限って、そんなはずはない」と。「ただ個性が強いだけなのに、障害だなんて……」という気持ちが湧き上がります。

 自分の人生の中で、障害のある人と接する機会がほとんどなかった人も少なくありません。そのため、「障害=かわいそうなもの」「恥ずかしいこと」といった偏見を、無意識に持ってしまっていることもあると思います。

 また、自分の親から「普通であること」「人並みであること」を強く求められて育った人もいます。

 どんなにネットサーフィンして子育て情報を集めても、子育て本を読んでも、人は自分が育てられたように自分の子を育てます。すると、「せめて人並みに、普通に」という価値観が、自分の子にもそのまま重なってしまいます。

 そして、苦しみ、悩み、勉強会や講演会に足を運ぶ人がいます。「今のままじゃいけない」と行動を起こしている、それだけで、その方はもうすでに、親としての一歩を踏み出しているのですから、時間がたつにつれ、徐々に現実を見て、“普通”という呪縛から解放されていくと思います。

 けれども一方で、なかなか現実を直視できない親御さんもいることでしょう。現実から目をそらしている間に、一番苦しんでいるのは、他でもないお子さん自身です。

 とはいえ、その一歩を踏み出そうとしたとき、まずぶつかるのが“夫婦間の温度差”です。子育てにおける夫婦の対立は、決して珍しいことではありません。例えば、こんな「あるある」があります。

・母親(妻)は、保育園や児童館で他の子どもと日常的に接しているため、違和感を早くに察知するのに対し、父親(夫)は「そんなに違うか?」とピンと来ない

・子どものかんしゃくやこだわり行動に対し、母親は「特性かもしれない」と思うが、父親は「しつけが甘い」と決めつけてしまう

・療育や支援制度について情報収集をする母親に対して、「そんな必要ある? 大げさじゃないか」とちゃかすような態度を取る

 そして最もつらいのは、母親が勇気を出して「相談したいことがある」と切り出しても、父親に「またその話か」「おまえは心配しすぎだ」と一蹴されてしまうこと。一人で抱えきれなくなった思いは、やがて行き場をなくします。

 私は、親御さんからそんな悩みを打ち明けられたとき、次のようにお答えしています。「大人の価値観は、なかなか変えられません」「無理に説得しようとして、自分の心が壊れてしまうくらいなら、黙って母親一人で行動すればいいのです」と。

 療育施設に通っていることや、手帳を取得したこと。それらは無理に誰かに言わなくても大丈夫。家族間でも同様です。戸籍にも、住民票にも載らないし、タンスの奥にそっとしまっておけばいいのです。そして必要に応じて、手帳に助けてもらうのです。

 大事なのは「手帳を持っている」ことではなく、それによってわが子の未来が守られる可能性が広がるということだからです。(※知的障害がない場合は、療育手帳は取得できませんが、精神障害者保健福祉手帳や受給者証などは医師の診断で取得できます)

【画像】「えっ…?そうだったの……?」 これが「発達障害児」にみられることのある行動です(5つ)

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立石美津子(たていし・みつこ)

子育て本著者・講演家

20年間学習塾を経営。現在は著者・講演家として活動。自閉症スペクトラム支援士。著書は「1人でできる子が育つ『テキトー母さん』のすすめ」(日本実業出版社)、「はずれ先生にあたったとき読む本」(青春出版社)、「子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方」(すばる舎)、「動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな」(小学館)など多数。日本医学ジャーナリスト協会賞(2019年度)で大賞を受賞したノンフィクション作品「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社、小児外科医・松永正訓著)のモデルにもなっている。オフィシャルブログ(http://www.tateishi-mitsuko.com/blog/)、Voicy(https://voicy.jp/channel/4272)。

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