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新宿区が“騒音”理由にデモ出発地を制限…「拡声器は迷惑」「やり過ぎ」と賛否、法的には?

東京都新宿区が騒音などへの苦情を理由に、デモの出発地にできる区立公園を制限したことが議論を呼んでいます。デモ規制を巡る法的問題について、弁護士に聞きました。

「うるさいデモ」は法的に規制できる?
「うるさいデモ」は法的に規制できる?

 騒音などへの苦情を理由に、東京都新宿区は8月1日から区立公園の使用基準を変更、デモの出発地にできる区立公園を新宿中央公園のみに制限しました。このデモ規制措置について、区は「周辺住民からの要望に対応した」としていますが、「言論の自由の侵害」と反発も広がっています。

 SNS上では「どんな内容でも、うるさければ騒音」「家の近くは勘弁してほしい」「拡声器使うのはマジ迷惑」「音量や主張内容に疑問を感じることもあるけど、規制はやり過ぎだと思う」「デモは民主主義の基本」など、賛否の声が上がっています。

 オトナンサー編集部では、デモを巡る法的問題について芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

受忍限度を超えれば「騒音」だが…

Q.「騒音」の法的定義とは。デモの声や音は騒音に該当しますか。

牧野さん「判例では、『騒音の侵入が違法というためには、被害の性質、程度、加害行為の公益性の有無、態様、回避可能性等を総合的に判断し、社会生活上、一般に受忍すべき限度を超えている』騒音を違法な騒音と定義しています。

さらに、『人が社会の中で生活を営む以上、他の者が発する騒音にさらされることは避けられないのである』から、受忍限度を超えた騒音を違法な騒音としています。その観点では、デモの声や音も受忍限度を超えている場合、騒音に該当する場合があります」

Q.受忍限度を超えているかどうかの基準とは。

牧野さん「裁判所は、受忍限度の騒音について、複数の要素を考慮して総合的に判断しますが、環境基本法(平成5年法律第91号)第16条第1項の規定に基づく騒音に係る環境基準について、環境庁の告示が一つの参考となります。

居住地域や商業地域などによって基準は異なりますが、療養施設や社会福祉施設などが集合して設置される地域など、特に静穏を要する地域では、昼間が50デシベル以下で、夜間が40デシベル以下です」

Q.デモの声や音で迷惑を被った場合、何らかの法的手段に訴えることはできますか。

牧野さん「受忍限度を超えている場合は不法行為(民法709条)に該当し、被害者は加害者に対して、被害の程度や状況によりますが、おおむね数万~数十万円前後の損害賠償請求をすることができます」

Q.うるさいデモを法的に止めさせることはできますか。

牧野さん「受忍限度を超えれば、近隣住民の人格権を侵害することとなり、差し止め請求が認められる可能性があります。例えば、カラオケの騒音について深夜午前0時~午前4時のカラオケ装置の使用禁止(使用の差し止め)が認められた事件があります。また、エアコンの室外機の騒音についても、『近隣居住者の敷地内に50デシベルを超える騒音を到達させてはならない』と差し止め請求が認められています。

しかし、デモの場合、近隣の住民がうるさいからとその場ですぐに裁判所から差し止めの仮処分命令をもらうことは事実上不可能です。また、デモの予定が分かっていて、裁判所から事前に差し止めの仮処分命令をもらうことは理論上考えられますが、デモの騒音がどの程度の被害を生じるかが不明確ですので、これも実際には難しいでしょう」

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牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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