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「肉体」と「精神」…RIZAPグループ瀬戸健社長&精神科専門医・田中伸一郎が考える「真の健康」とは?

肉体と精神…体と心が健康になるというのがどういうことなのか…。「RIZAP」グループの瀬戸健社長と、精神科専門医の田中伸一郎さんに“真の健康”について語ってもらいました。

RIZAPグループの瀬戸健社長(右)と精神科専門医の田中伸一郎さん
RIZAPグループの瀬戸健社長(右)と精神科専門医の田中伸一郎さん

 「健全なる精神は健全なる肉体に宿る」という言葉があります。身体が健康であれば、おのずと精神も健全であるというような意味なのですが、本当にそのような作用はあるものなのでしょうか。体と心も健康になれるように促すコンビニジム「chocoZAP(チョコザップ)」などを運営するRIZAP(ライザップ)グループの瀬戸健社長と、精神科専門医の田中伸一郎さんに登場してもらい、肉体と精神についての関わり合いや、健康などについてクロストークをしてもらいました。

「褒める」ことが重要 「自己投資」が幸せへの“鍵”に

──本日は貴重なお二人の顔合わせとなりましたので、まずは「肉体と精神の関係」というところからお話を伺えればと思います。そもそもですが、筋トレなどで体を動かすことは、肉体だけでなく脳や精神にもさまざまな効果があると思うのですが。

田中「その効果は大きくありますね。『スマホ脳』という著書が話題になったスウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセン氏の紹介した研究で、子どもたちが朝、学校に行った時に、運動をしてから勉強した方が集中しやすくなるというデータが出ているんです。計算のミスも少なくなるということが、数値として出ていて。現代人の脳はとにかく日常的にネットやスマホでグルグルとループされていて、休憩するにしても動画を見るなど、目から入った情報を頭で処理するものばかりです。そこで運動という、全く違う要素を入れてあげて脳の違う部分を使うと、また勉強や仕事に戻った時に集中しやすいということはあると思っています」

瀬戸「先生がおっしゃるような、スマホ時代の運動の必要性みたいなものは、我々も皆さんに広く伝えたいと思っているところです。しかし、運動のもたらす効果、例えば認知機能の改善だったり、記憶力の改善だったりというものが、まだほとんど知られていないなと、すごく思います。
身近な例で言えば、私の息子が今、受験の真っ只中なのですが、勉強ばっかりで、全く外に出ないんです。『朝、ちょっと有酸素運動をするだけで、記憶の定着が違うよ』というアドバイスをしたのですが、全然聞いてくれなくて(笑)」

田中「そうなりますよね(笑)」

瀬戸「運動って、やること自体が苦痛で、それがストレスになって、もっと落ち込んでいくっていうイメージを持っている方もまだまだ多いんですよ。でも『何かを変えたい』と思った時に、精神的なものを変えるのはなかなか難しいのですが、行動から変えていくというのは、順番的にもすごくやりやすいと思います。RIZAPに来ていただくと、みんなキツそうな顔をして『アーッ!』とか『ウウッ!』とか言いながら筋トレしていますが、終わった後は本当に元気になって帰っていくんですよ。家に閉じこもっていると太陽の光も浴びないし、声も小さくなって、歩く時も下を向くようになる。でも背筋を伸ばす、上を向いて歩くようにする、カラオケで大きい声で歌うようにするなど、そんな風に行動を変えていく方がコントロールしやすいと思います」

──確かにそうですね。

瀬戸「その上でRIZAPでは、トレーナーが『褒める』ということを意識して行っています。『体つきが変わってきましたね』とか、『輪郭がスッキリしてきましたね』『めっちゃオーラが出てきてますね!』という感じで。他人からの評価が加わることで自信がついて、内面も変わってきますから。僕も奥さんに『嘘でもいいから褒めて』ってよくお願いしているんですよ(笑)」

田中「『褒める』ということについては僕も最近、すごく考えてます。日本人は褒めるのがけっこう苦手なんですよ。『褒め言葉』とか『褒め方』に関する書籍も少なくて。『褒める』というのは過去の結果を評価するという側面もありますが、先を見て、未来を見据えた言い方になっていることも大事なんです。褒められると「よし、やろうかな」と、その先も動こうという気持ちになることってあるじゃないですか。そう言いながら、僕たち医者はなかなか褒めないんですけどね(笑)。『顔色が悪くないですか?』とか、基本的に“悪いこと探し”が多くて。だからRIZAPのトレーナーさんが基本的に褒めるというお話は興味深いですね」

瀬戸「ポジティブシンキングですよね。僕もある時期から、言葉にはすごく気をつけてきました。夫婦の会話でもネガティブな言葉は全てポジティブなものに変えるというのを、2~3ヵ月間、集中してやったことがあるのですが、これはかなり効果がありましたね。

田中「それも先ほど出てきた『行動から変えてみる』という一例ですよね。笑顔を作ってみるとか、歩く時に上を向くということは、『身体心理学』でも研究されてきたことなんです。トボトボと下を向いて歩いていると、自然と気持ちも落ち込んできますが、顔を上げて歩幅を広く取ってちょっと速めに歩くと、心が弾んでくるとか。朝、鏡に向かって『ああ、今日も会社か……』と思うのではなく、そこで口角を上げて、笑顔を作ってみたり、出勤した時も『おはよう!』ってちょっと大きめの声で言ってみるなど、これらは1人で始められることなので、工夫してみると効果があると思います」

瀬戸「『変えられることから変えていく』ということは、僕はいつも思っていることでもあります。僕が会社を作った時に、まず『売上1億円』という目標を立てたのですが、1億円なんてどうやっていいか分からないわけですよ。なので、要素を分解していって、『何ができるかな』というところから考え始めました。1年で1億円だったら、1ヵ月だと800万円、1日だと20~30万円になる。20~30万円の売上のためには、商品の出荷が必要で、そのためにはまず商品を作らないといけない。商品を作るためには勉強しなくちゃいけない。勉強するために、まず本屋さんに行こうと。だから『何ができるかな』の一番始めは、本屋へ行くことでした。でも最初は、漫画を買って帰ったんですけどね(笑)」

田中「漫画、買っちゃいますよね(笑)」

瀬戸「何回か通ううちに、『これは』と思った自己啓発書を購入したんですけど、読むとなると拒絶反応が出てしまいました。だから次は『まず開こう』と、その本を開くだけというのを毎日やったんです。開いた瞬間に眠くなるので、『目次』で寝てたりして(笑)。でも、これを本当に1ヵ月ぐらいやっていったら、月に10冊とか軽く読めるようになっていって、今も毎月20冊程度は読むようになりました。今、『月に20冊読んでいます』と言うと、そこだけ切り取られて『社長は20冊読める人だ』みたいに言われるのですが、始まりは『何ができるかな』だったんですよね。
だから先生が言われたように、大きな声を出してみることとか、小さくてもできることの積み重ねというのは、絶対バカにしちゃいけないと思います」

瀬戸健社長
瀬戸健社長

──それはある意味、小さいレベルからの自己改革だと思うのですが、もう一つ、『自己投資』の大切さについてもお話しいただけたらと思います。自己投資をすることによって、自分的な幸せのビジョン、見え方がどう変わってくるのかという点について、伺えますか?

瀬戸「自分に対しても、『消費』と『投資』の二つがあるんですよね。『消費』はその場で消滅してしまうものですが、『投資』は『投資対効果』という言葉があるように、何かをすることでリターンを得ることだと思います。
例えば1500円で本を1冊買って読むと、その内容から得られる将来的なリターンは、間違いなく本の値段以上のものが生み出される。こんなおいしいことはないなって、いつも思っています。いろいろな方々が人生を懸けて編み出したメソッドやノウハウを『虎の巻』みたいな形にして、1500円程度の安価で売ってくれるわけですからね」

田中「よく分かりますね。自己投資というのは結局のところ、『先に出しておく』ということだと思います。何かを我慢したせいでつらくなって、後でドカ食いにお金を使っちゃうというのだと確かに『消費』そのもので、だったらその分を先に出しておいた方がいいんじゃないかと。今、瀬戸社長が言われたように本を買って読むというのはまさにそれで、何か普段と違ったアクションを起こすということですよね。美術館に行ってアートに触れるとか、ちょっと奮発して“勝負ネクタイ”を買って何かの時に準備しておくなどでもいいと思います。ストレスフルな生活を送って調子を崩して、もしもその発散のためにどんどんお金を使わなきゃいけなくなるぐらいだったら、少しお金はかかっても、先にお金を出して自己投資しておくのが大事かなと思います」

瀬戸「僕も若い頃は『消費』ではなく『投資』にできるだけ回すということを意識していました。それが将来、自分の成長にもつながるなと思いながら。僕がRIZAPで関わっている筋トレもそうです。勉強だって同じで、どちらも究極の自己投資ですよね。確かにやっている瞬間はキツいのですが、キツいことがイコール不幸なことなのかっていう、捉え方の問題でもあって。そうやって自分に種をまいてあげれば、将来の利回りという点では分かりやすく見えてくるものはあると思います」

精神科専門医の田中伸一郎さん。杏林大学医学部、獨協医科大学埼玉医療センターなどを経て、現在は東京芸術大学保健管理センター准教授。都内のクリニックで発達障害、精神障害などで悩む小中高生の診療もしている。
精神科専門医の田中伸一郎さん。杏林大学医学部、獨協医科大学埼玉医療センターなどを経て、現在は東京芸術大学保健管理センター准教授。都内のクリニックで発達障害、精神障害などで悩む小中高生の診療もしている。

──そういう点では、RIZAPが今、新しく展開している「chocoZAP(チョコザップ)」も、まさに自己投資を促すものでもあり、そして「小さくてもできることから」の積み重ねにつながるものですよね。その一方で、ネイルやカラオケなど、エンターテインメント的な要素を入口にして、運動に結びつけていくという手法にもなっていると思います。本来は違う目的のものが一つになっていることで、精神面でもメリットがあるものなのでしょうか?

田中「先ほども『脳の違う部位を使う』という話をしましたが、まさにそれに当たりますよね。ごく簡単に言うと、小学校や中学校でも、いろいろな科目がありますよね。その中で、例えば算数・数学が得意で理系に進んで、理系の職業に進む人も出てきますが、だからといって彼が小学校からずっと算数の授業だけ受けていればよかったのかというと、決してそういうわけではないですよね。授業には、体育、美術、音楽もあって、いろいろなことをやって成長していくわけで、大人になっても引き続きそれをやっていくというのもいいことですよね」

──よく分かります。

田中「ネイルやカラオケがきっかけでchocoZAPに行くようになって、じゃあちょっと運動してみようか、ということでもいいと思います。それも小さな変化、小さな自己実現につながります。とにかく現代人、特に大人は運動が足りていないと思います。子どものころって、夏はプールに行って泳いだりしましたよね。今は僕も全然行ってないですけど。水着になるのが恥ずかしいということであれば、海辺に行って裸足になって、ちょっと砂浜でパチャパチャやるだけでも全然違うと思います。太陽を浴びて水に触れて、子どものころを少し思い出してそういう感覚を取り戻すことって、すごく大事だと思います」

──さて、お二人からは興味深いお話をたくさんいただきました。実際にお話しされてみて、いかがでしたか?

瀬戸「すごく刺激を受けました。僕も昔、カウンセラーになりたいと思っていたことがあったんですよ」

田中「そうなんですか!」

瀬戸「人の話を聞くのが大好きですし、お話しすることによってその相手が前向きになっていくとか、そういうところにはやり甲斐が感じられるなと思っていて。実はそこがRIZAPにも少しつながっています。今日、先生からは臨床的なところのご意見も伺えて、とても興味深かったです」

田中「私は、RIZAPではトレーナーさんが最後に言葉をプレゼントとして返しているというところが、すごくいいなと思いましたね。やっぱり、ただ鍛えて終わっているという感じではないんですね」

瀬戸「トレーニングが停滞期に入ってくると、一人でモチベーションを維持するのが大変なんですよ。ちょっとした変化を捉えて評価していかないと、それまで築き上げていたものがガタガタッと崩れてしまうので」

田中「体だけの問題じゃないということですね」

瀬戸「肉体と精神がつながっているということは、本当にこれからも、声を大にして言っていきたいですね。『健康』って、ただ臓器が正常に動いていること、みたいなイメージってあるじゃないですか。要は世間で言う『健康』の定義が狭すぎると思っています。だからこそ、もっともっとメンタル面にフォーカスしないと、『健康』やその周辺が間違った方向に行くような気がします」

田中「私もそこに関しては本当に思いますね」

──お二人のさらなるコラボの形も見えてきた気がしますね。本日はありがとうございました。

(ライター・高崎計三)

(オトナンサー編集部)

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田中伸一郎(たなか・しんいちろう)

医師(精神科専門医、産業医)・公認心理師

1974年生まれ。久留米大学附設高等学校、東京大学医学部卒業。杏林大学医学部、獨協医科大学埼玉医療センターなどを経て、現在は東京芸術大学保健管理センター准教授。芸術の最先端で学ぶ大学生の診療を行いながら、「心の問題を知って助け合うことのできる社会づくり」を目指し、メディアを通じて正しい知識の普及に努めている。都内のクリニックで発達障害、精神障害などで悩む小中高生の診療も行っている。エクステンション公式YouTubeチャンネル内「100の質問」(https://youtu.be/5vN5D9k9NQk)。

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