市場活性化で増える「年上の部下」、どうコミュニケーションを取る? 適切な言葉遣いは?
「年上の部下」に対する適切なコミュニケーションとは、どのようなものでしょうか。意識すべきポイントや指導のコツを識者に聞きました。

転職市場が活発化し、中途採用者を受け入れる職場が増加している昨今、自分よりも年上の人が部下(後輩)として入社してくるケースは珍しくありません。
こうした「年上の部下」との人間関係に悩む声はSNS上などでも多く、「ミスが指摘しづらい」「敬語とタメ口のどちらにすべきか悩む」「上から目線にならないように気を付けています」など、さまざまな体験談が寄せられています。
年上の部下との上手な付き合い方とはどのようなものでしょうか。職場のコミュニケーション術に詳しい、人材開発コンサルタントでコラムニストの松尾知枝さんに聞きました。
自尊心を尊重し、話を聞く
Q.年上の部下とのコミュニケーションで、意識すべきポイントは何でしょうか。
松尾さん「年上の部下や後輩と人間関係を築く上で無視できないのは、年上の部下の心理的ジレンマです。彼らは『職務上は部下』であることを頭では理解しているものの、『年下になめられたくない』という本音を多かれ少なかれ持っています。
表面上は波風立てずに過ごしていても、年下に指示を受けたり、自分よりもずっと仕事ができる年下の姿を目の当たりにしながら働いたりするのは、葛藤があるものです。
年上の部下は、一緒に働く上司や先輩を同一視(自分も相手と同じようになれるはずだという思い込み)しやすい傾向があり、『私はあの人よりも年上なのに正当に評価されていない』という被害者意識が生まれることもあります。
自尊心が満たされない日々が続くと、指示を聞きもらしたり、素っ気ない態度を取ったりするなど、合理的とは言えない振る舞いをしてしまい、チームのコミュニケーションや業務に支障が出ることも十分に考えられます」
Q.年上の部下に対する、適切な言葉遣いとは。
松尾さん「相手のプライドを尊重する意味でも、ビジネスマナーとしても、年上の部下と話す際には、なれなれしい常語(タメ口)ではなく、敬語が好ましいです。
ただし、相手から申し出があった場合は別です。例えば『敬語ばかりだとよそよそし過ぎるので、飲み会の場では無礼講で接してください』などと相手から言われた場合、『いいんですか? では年上ですけれどお言葉に甘えて』と一言断りを入れた上で、少しずつフランクな口調で話すと、お互いの距離を縮める良いきっかけになるかもしません」
Q.注意や指導をする際に、気を付けるべきことはありますか。
松尾さん「年上の部下に指導する時は、いつも以上に距離感や言い方に気を付けないと、パワハラだと誤解されてしまう恐れがあります。年上なのに部下であることに心理的葛藤を抱いている場合、上下関係の顕在化や否定されることに敏感になっており、注意や指導を『精神的な攻撃』や『不当な要求』だと受け止めてしまうことがあるのです。
これは、年上相手に限ったことではありませんが、部下や後輩を指導する際は、必ず相手の『逃げ道』を用意してあげましょう。例えば、後輩がミスをした場合、まずは相手の言い分を聞き、『~という事情があったから、このような状況になったのですね』といったん受け入れます。
仮に後輩が言い訳をしたとしても、頭ごなしに否定するのではなく、『そうなんですね』とまずは受け止めてください。極端に下手に出たり同情したりすると、上下関係そのものがあいまいになって逆効果なので、決して迎合する必要はありません。あくまでも冷静に傾聴する姿勢を見せ、相手が意見を言えるようにするのがポイントです。
会話において逃げ道を作ると、相手は『理解してもらえる』と感じ、信頼を得やすくなるという効果があります。一度、信頼を勝ち取ってしまえば、その後のコミュニケーションはスムーズに運ぶものです。“コミュニケーションにおける先行投資”だと思って、指導や注意をする立場であっても、まずは『相手の言い分を聞く』ことを意識してください」
Q.自分が年上の部下や後輩になった場合、心掛けるべきことは。
松尾さん「お互いに気を使い過ぎると、コミュニケーションが密に取れない関係になってしまいます。年上の自分から積極的に話しかけるなど、先に距離を縮めようとする姿勢を見せることが望ましいでしょう」
Q.職場のコミュニケーションを円滑にするために、上司・部下双方に求められることは何でしょうか。
松尾さん「コミュニケーションで大切なことは『共感ファースト』に尽きます。余裕がない時や熱心である時ほど、つい自分の主張を先に押し通したくなるものですが、そうすると相手もますます態度を硬化させるだけです。
例えば、『なるほど、そういう事情があったのですね』『正直にご指摘いただけたことで、私にとっても大きな気づきになりました』など、相手に寄り添う言葉がほんの一言あるかないかで、その後の信頼関係は大きく変わります。
『一呼吸置いて、先に相手の立場を理解する』ことを心掛けると、職場での意思疎通は随分スムーズになるはずです」
(ライフスタイルチーム)
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