お笑い芸人が“モノマネ芸人化”する事情 トークスキル全盛期から笑いが多様化
ダレノガレ明美さんのモノマネで知られる福島善成さんら、モノマネをするお笑い芸人が最近増えつつあります。その背景とはどのようなものでしょうか。

船越英一郎さんやダレノガレ明美さんのモノマネで知られる、お笑いコンビ・ガリットチュウの福島善成さん、細川たかしさんをモノマネする、レイザーラモンRGさん、声優の野沢雅子さんを模写する、お笑いコンビ・アイデンティティの田島直弥さん、IKKOさんのモノマネをする、同・チョコレートプラネットの松尾駿さん――。
最近、普段からモノマネをするお笑い芸人が増えつつあります。そんな「モノマネメインの芸人」が増える背景を分析してみたいと思います。
コント芸人の延長線上にある
まず、大前提として、冒頭挙げた方々はいずれもコントをする芸人であるということがあります。もともと「扮装(ふんそう)」が仕事の一環であり、その姿でバラエティーに出ることに抵抗がないのです。
7月3日に放送された「ウチのガヤがすみません!」(日本テレビ系)初のゴールデン特番では、お笑いトリオ・鬼ヶ島のアイアム野田さんが、サッカーJ1・ヴィッセル神戸に所属したスペイン代表のアンドレス・イニエスタ選手のモノマネで登場、スタジオを沸かせていましたが、鬼ヶ島も「キングオブコント」の常連組です。
トークスキル全盛から、笑いのベクトルが多様化
さらに、そんなコント系芸人を、普段のバラエティーでも受け入れられる土壌ができつつあることも考えられます。
これまでのバラエティー界は、「アメトーーク!!」(テレビ朝日系)で有吉弘行さんが再ブレークの足がかりをつかんだり、「人志松本のすべらない話」(フジテレビ系)で宮川大輔さんが注目を浴びたりと、そのトークセンスからチャンスを広げるパターンが多く、「しゃべりがうまくないと売れない、使ってもらえない」風潮すらありました。
しかし、一つの現象が全盛を極めると揺り戻しが来るのは世の摂理。お笑い界にこの後、台頭してきたのは、出川哲朗さんやANZEN漫才・みやぞんさんといった「人柄の良さ」「一生懸命な姿」など、生き方そのものや「たたずまい」が支持される芸人でした。
つまり、お笑い芸人に求められる第一条件が必ずしも「トークスキル」だけではなくなってきたのです。
イロモノの芸から海外でも評価されるエンターテインメントに
そんな流れに加えて、ある芸人の台頭が状況を変えました。それは「憑依(ひょうい)芸」でシーンを席巻したロバート・秋山竜次さんであり、渡辺直美さんでした。コントの「なりきりキャラ」をさらに極めて、エンターテインメントに昇華させたのです。
これまで「かぶり物」でバラエティー番組に出ることは、あまり歓迎されませんでした。芸人はしゃべりで笑いを取るもので、コント番組以外では、それに頼るものではないと。しかし、そんな邪道とされてきたものが日本だけでなく、海外で評価され始めたのです。こうした地殻変動の影響で、他の芸人も、素のまま出なくてもある程度許されるようになったと考えられます。
つまり「笑わせた者勝ち」というべきか、どんなジャンルのネタ、またどんなタレントが現れても寛容な空気が、醸成されつつあるのではないでしょうか。お笑い界はこれからますますボーダーレスに広がり続けるでしょう。
これまではトークスキル一辺倒で、そこからあぶれたら「ダメ」の烙印(らくいん)を押されてきた芸人にとっては、またとない好機がやってきたと言えます。今後のお笑い界にますます期待が高まります。
(芸能ライター 河瀬鷹男)
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