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たびたび目にする「メタ認知」とは? 鍛えるとどんなメリット? 心理学者が解説

「メタ認知」の能力を向上させると、どのようなメリットがあるのでしょうか。心理学者が解説します。

「メタ認知」とは?
「メタ認知」とは?

 インターネットや書籍などで、「メタ認知」という言葉を目にすることがありますが、この言葉の意味がよく分からないと感じたことはないでしょうか。メタ認知の能力を鍛えると、日常生活のさまざまな場面で役立つといわれています。

 今回は、事故防止や災害リスク軽減に関する心理的研究を行う、近畿大学生物理工学部・准教授の島崎敢さんが、メタ認知の概要やメタ認知の能力を向上させるメリットについて、解説します。

自分を客観視する能力

 メタ認知とは、自分の認知状態を認知することです。これだけ聞いても何のことか分かりにくいとは思いますが、例えば「あの人の名前なんだっけ、喉まで出かかっているけど思い出せない!」という現象にもメタ認知が関係しています。

「メタ」とは「上位の」という意味の接頭語です。自分視点で自分を認識している自分の他に、斜め上から自分をクールに眺めている自分が「メタ認知」です。先述の「喉まで」の例の場合、メタ認知の機能がなければ「あの人の名前」は単に「知らない」ということになります。

 しかし、メタ認知は「かつて自分がその人の名前を知っていたこと」「今は記憶の想起に失敗していること」を、斜め上からクールに見つめています。

 メタ認知は他にもさまざまな場面で働いています。例えばメタ認知は、「自分が何を理解していて何を理解していないか」「何ができて何ができないか」など、自分の能力を客観的に観察しています。自分の理解や能力の実態を知り、弱点を特定できれば、それを補う戦略を考えられます。

 適切なメタ認知はコミュニケーションを円滑にします。自分と相手の会話を斜め上からクールに見つめられれば、自分が相手にどう映っているか、自分の発言は相手にどう取られているか、自分の説明が相手に理解されているかをモニタリングできるので、相手に好印象を与えたり、自分の意図を正しく理解してもらったりする方法を考えることができます。

 メタ認知は、安全とも関係します。疲れや焦りを感じたときに斜め上からそれに気付けば、休憩していったん落ち着くなどの必要な対処ができます。加齢によって心身機能が低下した高齢ドライバーでも、メタ認知能力が健在なら、能力低下を自覚しながら安全運転をするので、運転のリスクがそれほど上がらないことが分かっています。

 メタ認知は、何かを計画的に進めるときにも役立ちます。「プロジェクトのゴールは、今の自分の能力で実現可能か」「計画を進めるための方法や期間が適切か」「必要な資源があるか」などを斜め上からクールに見られれば、成功率をより高めるための計画の修正ができるし、プロジェクトを進めている間も進捗(しんちょく)状況を適切に把握できるのです。

 このように、斜め上から自分を見つめるメタ認知は、自分を適切にモニタリングし、コントロールするために極めて重要な能力です。あらゆる物事の進捗状況に、メタ認知は少なからず関わっているのです。

 では、メタ認知能力はどのように高めたらよいのでしょうか。斜め上から自分を見つめる自分を鍛えるには、自分の考え方や行動を自己観察する癖をつけることが有効です。自分自身の強みや弱み、思考のプロセス、行動パターンなどを観察し、自己理解を深めましょう。

 このとき、自分の思考や感情、行動の理由などを言語化することで一層理解が深まります。感じたことや考えたことを中心に日記を書いてみるのも有効だといわれています。

 また、自分をクールに見ている他の人の意見も参考になります。自分が他の人からどう見えているか、チャンスがあれば教えてもらい「自分が思っていた自分」とは違う所を認識しましょう。そのような人に心当たりがなければ、自分の行動を録画して見るだけでも新しい気付きがあるかもしれません。

 ところで、先生が生徒の、上司が部下の、親が子どものメタ認知能力を育てようと思った場合、どうすればよいでしょうか。自分の思考や行動の理由に注目してもらうために、上手な質問を投げ掛けましょう。何を感じ、どういう思考プロセスを経てその行動をしたのかを、問い詰める感じにならないように質問して、相手が自分で感じたことや考えたことを言語化するのを促してください。

 また、自分の行動の結果を100点満点で採点してもらい、100点に満たない部分は何か、それを100点にするにはどうすればよいかを質問するのも有効です。こういうやり取りを繰り返していくことで、自分の現状やゴールとのギャップを斜め上から客観的に評価し、間を埋める具体的な行動を考える力がついていきます。

 さて、良いことずくめのようなメタ認知ですが、過度なメタ認知はチャレンジを阻害するともいわれています。あまりにクールに自分の能力や現状を分析し過ぎてしまうと、「自分には無理だからやめておこう」と思ってしまうかもしれません。しかし、チャレンジをせずに無難な道だけを選んでいると、チャンスをつかめなくなってしまいます。

 だからこういう事態に陥ったときは、さらに斜め上に行き「メタ認知し過ぎてチャレンジ精神を失っている自分」をメタ認知してみるのがお勧めです。

(近畿大学生物理工学部准教授 島崎敢)

【ひと目で分かる】「メタ認知」のイメージを写真で分かりやすく解説!

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島崎敢(しまざき・かん)

近畿大学生物理工学部准教授

1976年、東京都練馬区生まれ。静岡県立大学卒業後、大型トラックのドライバーなどで学費をため、早稲田大学大学院に進学し学位を取得。同大助手、助教、国立研究開発法人防災科学技術研究所特別研究員、名古屋大学未来社会創造機構特任准教授を経て、2022年4月から、近畿大学生物理工学部人間環境デザイン学科で准教授を務める。日本交通心理学会が認定する主幹総合交通心理士の他、全ての一種免許と大型二種免許、クレーンや重機など多くの資格を持つ。心理学による事故防止や災害リスク軽減を目指す研究者で、3人の娘の父親。趣味は料理と娘のヘアアレンジ。著書に「心配学〜本当の確率となぜずれる〜」(光文社)などがあり、「アベマプライム」「首都圏情報ネタドリ!」「TVタックル」などメディア出演も多数。博士(人間科学)。

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