なか卯「親子丼」490円→450円が話題に…物価高でも値下げ&価格維持 メリットは? 専門家に聞く
物価高の状況でも企業が価格を維持したり、特定商品の値下げをしたりした場合、どのようなメリット、デメリットが生じる可能性があるのでしょうか。経営コンサルタントに聞きました。
原材料費や光熱費の価格高騰の影響で、食料品などの値上げが続く中、なか卯(東京都港区)が、4月6日から看板商品「親子丼」(並盛)の税込み価格を490円から450円に40円値下げし、SNS上では「びっくり」「えらい」「うれしい」などの意見が上がっています。
このように物価高の状況でも、飲食店や小売店の中には、あえて特定商品の値下げに踏み切ったり、価格を維持したりするケースもあります。この場合、どのようなメリット、デメリットが生じる可能性があるのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。
新規顧客の獲得を狙う
Q.物価高の中、飲食店や小売店の中には、価格を維持することで消費者から称賛されているケースもありますが、この件についてどのように感じますか。
大庭さん「国内で値上げの波が収まらない中、値上げをしないことを宣言する企業は、消費者としてはありがたく、頼もしく感じます。一方、この状況を経営コンサルタントとしての視点で見た場合、ビジネスチャンスを上手に生かした対応のようにも映ります。
例えば、外食チェーンのサイゼリヤは、低価格で一定品質以上の食べ物を提供するというブランドイメージが定着しており、それにより顧客満足度の向上を実現しています。値上げの波が拡大し続ける中、同社が価格据え置きを表明することで、ブランドイメージの維持や、新規顧客の獲得を目的としている可能性が考えられます。
サイゼリヤも原材料費や光熱費などの高騰に直面しており、価格を上げない場合は利益の減少につながるわけですが、先述のブランドイメージの維持や新規顧客の獲得に対する投資だと考えているのではないでしょうか」
Q.物価高の中、なか卯が「親子丼」の税込み価格を40円値下げし、話題となりました。どういった戦略が考えられるのでしょうか。
大庭さん「なか卯が親子丼を値下げした目的は、客数を増やすことによる利益額の底上げと宣伝広告にあると考えられます。
値下げにより、親子丼(並盛)の税込み価格が490円から450円になりました。この価格はコンビニ弁当の平均的な価格帯と同水準であり、コンビニから客が流れてくることが想定されます。値下げすることで、親子丼1杯当たりの利益率は低下しますが、客数が増えることで販売数量が増加し、結果的に一定期間内の利益額が増加することが期待できます。
さらに、親子丼はなか卯の看板商品なので、値下げは、なか卯から遠のいた客足を戻す効果や、新規顧客の獲得につながる広告宣伝の効果を生み出す可能性があります。なか卯が親子丼以外のメニューを値下げしない理由は、そこにあるのではないでしょうか」
利益維持には「値上げ」に向き合う必要も
Q.では、原材料費や光熱費などの価格高騰にもかかわらず、企業が値上げをしなかった場合、どのようなデメリットが生じる可能性があるのでしょうか。
大庭さん「製造コストや販売コストが高騰し続けているにもかかわらず、企業が値上げをしなかった場合、利益が減少します。もともと企業には、適正な利益の獲得のほか、今後の経営に対する投資を通じて自らを存続させ、成長していく使命があります。また、株主に対しても、適正な利益を獲得した上で配当を行う責任を負っています。
ただし、企業が利益を維持するために、値上げとは関係のないコストを削減しようとすれば、取引先や従業員などに悪影響が生じることがあります。例えば、立場の弱い下請け事業者に対して外注加工費や仕入れ単価の引き下げを要求した場合、その下請け事業者の経営が圧迫されます。また、賃上げの凍結や賞与の支給額を減らすなどした場合、従業員の生活が苦しくなります。
下請け事業者に対する不当な取り扱いは下請法で禁止されていますし、従業員に対する不当な取り扱いも労働法で禁止されています。企業が適正な経営を行いたいのであれば、値上げに対して前向きに向き合う必要があるのではないでしょうか」
Q.今まで価格を維持してきた企業が値上げをした場合のメリット、デメリットについて、教えてください。客数や売り上げが減少する可能性はあるのでしょうか。
大庭さん「値上げによる主なメリットは、経営が維持されることです。値上げを行い適正な利益を確保し続ければ、事業活動の継続はもちろん、企業の存続や成長に必要な投資が可能となります。それにより、取引先との契約維持や従業員の雇用の維持にもつながります。このほか、苦しいはずなのに値上げをしなかった点を消費者が好意的に捉えることで客数が増加し、売り上げの向上につながる可能性もあります。
一方、値上げをすると、ブランドイメージの崩壊や客離れなどのデメリットが生じることがあります。サイゼリヤのように低価格で一定品質以上のサービスを提供するというブランドイメージを持つ企業が値上げに踏み切った場合、そのブランドイメージが崩壊し、競合他社のモノやサービスに客が流出してしまうリスクがあります。
顧客の他店への流出を防げたとしても、客の来店頻度が低下し、売り上げが減少するリスクもあります」
Q.企業が値上げをしてから業績に反映されるまで、どの程度の時間がかかるのでしょうか。
大庭さん「値上げをしても来店客数や購入点数、取引数などに変動がない場合は、値上げの成果がすぐに業績に反映されます。一方、値上げにより来店客数や購入点数、取引数などが低下した場合、業績に反映されるまでに一定の時間を必要とします。
その場合、既存のモノやサービスの付加価値を向上させるか、同業他社との差別化を図ることのできる新たなモノやサービスを生み出すことで来店客数や購入点数、取引数などを回復させない限り、従来の利益水準を取り戻すことができません。利益水準を回復させるために数年単位の時間が必要な場合もあります」
(オトナンサー編集部)
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