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上司「何でも相談して!」→「そんな簡単なことを聞くな」 “矛盾”発言に部下困惑…どうする?

「分からないことがあったら何でも聞いて」と言ったにもかかわらず、部下が相談をすると、「そんな簡単なことを聞くな」「自分で考えろ」と返答する上司にどう対処したらよいのでしょうか。人事のプロが解説します。

上司に相談をして叱られることも…
上司に相談をして叱られることも…

 職場の上司から「分からないことがあったら何でも聞いて」と言われたため、仕事のやり方を相談したところ、「そんな簡単なことを聞くな」「自分で考えろ」と返答され、困った経験がある人も多いのではないでしょうか。中にはそのことが原因で萎縮してしまい、上司に相談しないまま仕事を進めたために、今度は「なぜ確認(報告)しなかった」と怒られた人もいるようです。

 上司が矛盾する発言を繰り返す背景や、こうした上司への対処方法などについて、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた人事コンサルティング会社「人材研究所」の曽和利光代表が解説します。

上司の言語化能力に期待するな

「分からないことがあったら、何でも聞いて」と言ったにもかかわらず、部下が相談すると「そんな簡単なことを聞くな」「自分で考えろ」と上司が返答するのは、まさに「どっちやねん!」と言いたくなるような状況です。

 まず、やり取りの言葉自体から考えると、上司の方が悪いとしか言いようがありません。「何でも聞いて」とだけ言った場合、そこには何も条件が付いていませんから、何を聞いたとしても本来は叱られる筋合いはありません。

 しかし、ここは日本です。世界一ハイコンテクスト(共通の文化基盤を持つ)で、「言わずとも分かる」「あうんの呼吸」でコミュニケーションを取る国です。これに限らず、人の言うことを文字通り捉えてはいけません。上司が「言っていない背景」があるはずです。

 考えてみれば、組織は分業で成り立っており、どんなことでも部下が逐一聞いてきたら、分業している意味がなくなります。ですから、「何でも聞いて」という言葉自体がそもそもおかしいですし、言葉が足りないのです。

上司が「言っていないこと」とは

 多くの「上司」を見てきた私の経験からすると、彼らの言う「分からないことがあったら何でも聞いて」に足りないのは、次の条件ではないかと思います。「一度、自分で一生懸命考え、分からなければいろいろ調べ、それでも分からなければ」ということです。

「調べ方が分からなければ、まずはそれを聞いて」とか、さらに言えば、「考えうる可能性や選択肢を洗い出して、そしてそれぞれのメリット・デメリットもある程度出して、その上で自信は持てなくとも『これじゃないか』という自分なりの仮説を持って」という条件を付け加えてもよいかもしれません。

 さて、これらの言葉が全部付いていればどうでしょうか。上司の行動はそれでも理不尽に見えますか。

「言わずとも分かる」は通用しない時代

「いや、ならそう言ってほしい」という部下の気持ちはよく分かります。ハイコンテクストな日本でも、近年は多様化が進んできて「言わずとも分かる」が通用せずに「言わないと分からない」社会になってきています。

 それなのに、“昭和思考”な上司が、自分たちにとっては常識だが、若い人には通用しないことを「言わずに」理解させようとするのは怠惰と言ってもよいかもしれません。特に近年はリモートワークも浸透してきていることもあり、伝えたいことはすべて「言葉にしないと伝わらない」ので、メンバーに指示をする立場の上司たちは、これからは何でも言語化する能力が必須です。

 そのため、本件においては、結局のところ「隠れた条件」を言わなかった上司にやはり非があるでしょう。

上司の言語化スキルはすぐには変わらない

 ただ、上司に非があるとは思うのですが、だからと言って「こちらは悪くない」と文句を言うだけでは問題は解決しません。言語化能力はなかなか身に付かないので、「すべてを言葉にしない」上司が、すぐに何でも言葉にしてくれるようにはならないからです。

 それではどうすればよいのでしょうか。それは、部下の方が指示を受ける際に、上司の言葉を文字通り受け取るのではなく、「上司が言っていない隠れたメッセージがないかどうか」「上司が無意識に前提としていることがないかどうか」を探るということです。

 上司から「分からないことがあったら何でも聞いて」と言われたら、「聞く際の注意点はありますか」「自分で考えるべきか、聞くべきか迷ったらどうしたらよいですか」などと最初に条件を聞けばよいだけです。

部下から最初に「暗黙のルール」を確認する

 人は自分の中で常識になっていることは言葉にしないことが多いですが、人から聞かれれば意識化できることも多々あります。部下から質問されることによって、自分の中の暗黙知(長年の経験や勘に基づく知識)が顕在化していくのです。

 最初は「そんなこと言わないと分からないのか」と言われてしまうかもしれませんが、聞くは一時の恥です。最初だけ「すみません、常識知らずで…」などと言って我慢して、上司の言わなかったことを明確化することができれば、その後は楽になります。

 それをせずに、「これを聞いてみたら『聞くな』と言われた」「これを聞かなかったら『聞け』と言われた」などと、個々の事象から「上司の中にある暗黙のルール」を推定していくというのは、途方もなく無駄な努力ではないでしょうか。

 このように推定するのではなく、直接聞いてしまうのが一番早いのではないかと思います。

(人材研究所代表 曽和利光)

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曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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