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「私、パワハラ受けた?」 被害者が自覚しないハラスメント認定、あり得る? 社労士に聞く

被害者に「パワハラ」との認識がなく、第三者の意見からパワハラが認定されることは起こり得るのでしょうか。社会保険労務士に聞きました。

被害者が自覚しないパワハラ認定、あり得る?
被害者が自覚しないパワハラ認定、あり得る?

 共産党の小池晃書記局長が田村智子党政策委員長を不当に叱責したとして、11月14日、パワハラを理由に党から警告処分を受けました。「叱責」の場面にSNS上などで批判が集まったのが処分の発端だったようですが、田村氏は同18日の記者会見で「(当時)叱責されたとか、パワハラを受けたという認識を全く持っていなかった」と発言。一方で、「客観的に見ればパワハラだった」とも述べました。

 被害者に「パワハラ」との認識がなく、第三者の意見からパワハラが認定されることは、一般的な職場でも起こり得るのでしょうか。社会保険労務士の木村政美さんに聞きました。

調査の結果、認定も

Q.まず、パワハラの定義を教えてください。

木村さん「厚生労働省の『パワーハラスメント防止のための指針』による職場でのパワハラの定義は、次の(1)から(3)まで、すべての要素を満たすものをいいます。

(1)優越的な関係を背景にした言動であること(例えば上司から部下に対する言動など)

(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること(例えば業務上の指導中に性格や容姿等、業務に直接関係のないことまで持ち出し、やゆすること)

(3)労働者の就業環境が害されるもの(当該言動が労働者に対して身体的または精神的に苦痛を与え、その結果就業環境が悪化する)であること

ただし、『客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場でのパワハラには該当しない』とされています。例えば工事現場で、部下が労災事故が発生する恐れのある行為をした場合に、上長から『何やっているんだ! バカ』などと厳しい叱責を受けたケースなどが該当します。

パワハラの代表的な言動は、次の6類型に分けられます。

(1)精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損(きそん)・侮辱・ひどい暴言などを受ける)
(2)身体的な攻撃(暴行・傷害などを受ける)
(3)過大な要求(業務上明らかに遂行不可能なことや必要がないことを強制される、仕事を妨害されるなど)
(4)過少な要求(業務上の合理性がなく労働者の能力や経験とかけ離れた低い程度の仕事を与える、仕事を与えないなど)
(5)人間関係からの切り離し(無視する、仲間から外す、隔離するなど)
(6)個の侵害(過度に労働者のプライバシーに踏み込むことなど)

以上です」

Q.どのようにしてパワハラを認定していくのでしょうか。

木村さん「2020年6月(中小企業は2022年4月)施行の『改正労働施策総合推進法』(通称『パワハラ防止法』)により、企業は職場でのパワハラ防止対策に取り組むために、いくつかの施策を行うことが必要になりました。その中の一つに『苦情などに対する相談体制を整備すること』があります。

具体的に言うと、企業がパワハラに関する相談窓口を設置し、被害者、行為者、第三者(パワハラ現場を目撃した従業員など)からの相談や苦情等を受け付けます。その後は速やかに事実確認の調査をすることになりますが、手順としては

(1)調査担当者(企業の人事担当者が行うケースが多い)を決める
(2)調査担当者はパワハラの有無について相談者、被害者、行為者、関係者(被害者や行為者が所属している部署のメンバーなど)と面談するなどして事実確認を行う
(3)パワハラの証拠(メールや録音、録画など)がある場合は提出を求め、内容の確認を行う
(4)調査結果に基づきパワハラの有無について判断する。

判断基準は、先ほどの質問への回答で説明したパワハラの定義に照らし合わせつつ、次の(ア)から(キ)までの各要素も加味した上で、総合的に判断します。

(ア)言動の目的(指導目的か嫌がらせか)
(イ)言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む言動が行われた経緯、状況
(ウ)業種・業態
(エ)業務の内容・性質
(オ)言動の態様・頻度・継続性
(カ)労働者の属性や心身の状況
(キ)行為者との関係性」

Q.「パワハラを受けた」との認識が被害者になく、第三者の意見を端緒にしてパワハラが認定されることは、一般的な職場でも起こり得るのでしょうか。

木村さん「相談窓口に第三者から『パワハラ被害を受けた人がいる』といった通報があった場合、調査担当者は、被害者に事実確認を行います。しかし、被害者本人がパワハラを受けたという認識がないと、本人から『調査をしなくてよい』と言われる可能性があります。この場合、被害者の意向に反して企業が調査を進めることはできないので、受けた行為がパワハラか否かの判定も不可能になります。

しかし調査打ち切り後、行為者によるパワハラ言動が、被害者本人だけではなく、他の従業員に対しても行われたなどにより、被害が深刻化した場合、企業はパワハラの通報を受けていたにもかかわらず、対処を怠った責任を問われるリスクがあります。

企業としては調査を継続するために、被害者に対して、自分はパワハラを受けたと思っていなくても、目撃した第三者の考えは違うこと、従って職場のパワハラ防止対策を実施するためには調査が不可欠であることを説明し、調査に協力してもらうよう了承を取り付ける必要があるでしょう。

その結果として、パワハラが認定されることはあり得ると思います」

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木村政美(きむら・まさみ)

行政書士、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

1963年生まれ。専門学校卒業後、旅行会社、セミナー運営会社、生命保険会社営業職などを経て、2004年に「きむらオフィス」開業。近年は特にコンサルティング、講師、執筆活動に力を入れており、講師実績は延べ700件以上(2019年現在)。演題は労務管理全般、「士業のための講師術」など。きむらオフィス(http://kimura-office.p-kit.com/)。

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