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電車の「席取り」に批判も…高齢者のマナーは悪化しているのか

各地で発生した電車内の「席取り」など、高齢者の行為に批判が集まっています。SNS上では、「非常識」「マナーは守らないとダメ」などの声も。実際、高齢者のマナーは悪化しているのでしょうか。

予讃線で発生した「席取り」。封筒や段ボールが置かれていた(※一部加工)=らいぞ(@raizorai00)さん提供
予讃線で発生した「席取り」。封筒や段ボールが置かれていた(※一部加工)=らいぞ(@raizorai00)さん提供

 電車内における高齢者の「席取り」行為が相次ぎ、SNS上などで話題になっています。宮城県内のJR東北本線では4月上旬、老人クラブのグループ名で「席をお譲り下さい」と書かれた紙が置かれ、批判が殺到。後日、同グループが謝罪する事態となりました。同月末には、JR予讃線でも高齢者による同様の席取りが発生。「最近の老人は」と呆れる声が多数寄せられました。

 SNS上では、「非常識すぎる」「いくらお年寄りでも、公共マナーは守らないとダメ」「席取りを見たら、譲る気もなくなる」などの声が上がっていますが、実際に、高齢者のマナーは悪化しているのでしょうか。NPO法人「老いの工学研究所」の川口雅裕理事長に聞きました。

高齢男性に「人目をはばからない言動が多い」

Q.高齢者の「席取り」が相次いだことについて、どうお考えになりますか。

川口さん「席取りがみっともないことだというのは、ほとんどの高齢者が承知していると思います。一人の時にはそうした行動は取らないはずです。高齢者に限りませんが、同質の人間が集まると、とんでもない結論を出したり、易きに流れたりする傾向があります。一人では冷静で常識的な判断ができるのに、集まると急に無責任になり『そうだそうだ』と安易に賛成したり、『おかしい』と言えない雰囲気に流されたりします。

東北本線や予讃線で、高齢者のグループが席取りをした件も、『若い人が、高齢者に席を譲ってくれないよね』くらいの会話が、老人クラブのような同質性の高い集団の中でどんどん盛り上がり、収拾がつかなくなって、安易におかしな結論を導いてしまった結果だと思います。

企業や霞が関で起きている不祥事も、『高学歴の、中高年の男性正社員』という同質性の高い集団が、社会の常識や多様な視点を無視して(理解できず)おかしな判断をした結果だと言えるのではないでしょうか」

Q.マナーの悪い高齢者が増えているという意見について、どう思われますか。

川口さん「当研究所には、調査に協力してくださる高齢のモニター会員(平均年齢72歳)が、約1万3000人おり、インタビューなどをすることがあります。その際『高齢者のマナーが悪くなった』という声がたびたび聞かれ、同世代の人たちも、そう思っているように感じています。

当研究所が、2015年に『世代別のマナーの状況』について調査した結果では、特に高齢男性に『人目をはばからない言動が多い』傾向が見られます。同じ高齢者でも、女性よりも男性のマナーが悪いという結果になりました。

マナーとは違いますが、刑法犯が増えているという実態もあります。法務省が発表している『犯罪白書』(平成28年度版)によると、各年齢層10万人当たりの刑法犯の検挙人数で、高齢者10万人当たりの刑法犯は平成元年から約3倍になっており、他の年代に比べて突出しています」

Q.高齢者のマナー悪化が指摘されるようになった背景として、どのようなことが考えられますか。

川口さん「まずは、高齢化率が上がっているので、マナーが悪い高齢者が目立つように感じるということ。仮に、マナーの悪い人の割合が同じでも、高齢化率が高まれば、人数も増えていくので目立ってしまいます。高齢化率が高まると、同世代で集まりやすくなり、その結果、易きに流れ、集団でおかしな行動を取る可能性も高くなります。

2つ目は、高齢者が身体的に若くなってきた結果、『弱々しい』『守ってあげなくては』と感じられる存在ではなくなってきたということ。スポーツ庁が実施している『新体力テスト』では、1998年の60歳代後半の平均スコアを、2016年の70歳代前半の平均スコアが上回る結果です。高齢者は『昔の高齢者と同じように扱ってもらうのが当然』と思う一方、周囲は『元気で若々しいのに、なぜ高齢者扱いしないといけないの?』と考えています。このギャップが、高齢者の振る舞いに対する違和感となっているのでしょう。

3つ目は、『独居』あるいは『高齢者のみ世帯』の高齢者がかなり増えており、社会とのつながりに欠ける高齢者たちのストレスが大きくなっていること。寂しい、相手にされないといったイライラが、荒っぽい言動につながるケースもあると想像します」

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川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

NPO法人「老いの工学研究所」理事長、一般社団法人「人と組織の活性化研究会」世話人、組織人事研究者

1964年生まれ。京都大学教育学部卒。リクルートグループの人事部門で約13年のキャリアを積み、退社後、組織人事研究者に転身。講演や研修を手掛けるほか、コラムニストとして連載・寄稿を続ける。また、NPO法人「老いの工学研究所」理事長として高齢者・高齢社会に関する研究や提言を行っている。著書に「だから社員が育たない」(労働調査会)、「看護管理者のためのフレームワーク思考53」(メディカ出版)、「顧客満足はなぜ実現しないのか」(JDC出版)、「なりたい老人になろう」(Kindle版)など。老いの工学研究所(http://oikohken.or.jp/)。

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