モラハラ夫から逃れた50代女性…「私物回収」阻む嫁ぎ先の“復讐”〜実録・ボディーガード体験談
警護のメリットは「相手と対等に向き合えること」
家はとても広く、2時間ほど探しましたが、着物は見つかりません。さすがに個人の部屋までは入れないので、そこで諦めました。「覚悟はしていた」とA子さんは言っていましたが、本当につらかったと思います。それが目的で、ここに来たのですから。
仕方なく、引き上げることにしました。夫が「駅まで送る」と言いましたが、私から丁寧に断りました。A子さんは誰の目も見ずに「お邪魔しました」と告げて、われわれとその場を後にしました。取りあえず、駅の方面に向かって歩きましたが、振り返ると夫が、道路まで出てこちらを見ているのです。しかも、手を振っています。彼の目が届かないところまで進み、タクシーを呼びました。
帰りの道中、A子さんは冗舌でした。緊張から解放された人は、テンションが上がることが珍しくないですが、先ほどとは別人のようです。彼女から、しきりにお礼を言われました。そして、「あの連中を前にして、あんなに堂々とできたのは初めてです」「着物は残念だけど、一人だったら怖くて声が出なかった」ともおっしゃっていました。安心感によって相手と対等に向き合えることが、警護のメリットなのです。A子さんのもともとの性格は分かりませんが、夫を相手に毅然と対応できたことで、自信を得たように見えました。
A子さんの年齢を考えると、離婚は覚悟のいる決断です。しかし、すがすがしい表情からは、離婚で失うものよりも、“新しい人生”という収穫の方がはるかに大きいように感じました。
(一般社団法人暴犯被害相談センター代表理事 加藤一統)
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