新名称も公募、「サル痘」とはどういうもの? 気を付けるべき点は? 医師に聞く
感染症「サル痘」について、国内でも7月下旬に感染者が確認されました。そもそもどういう病気で、どのような点に気を付ければいいのでしょうか。

欧米を中心に感染が広がっている感染症「サル痘」について、国内でも7月下旬に感染者が確認されました。世界保健機関(WHO)が新名称を公募するなど、注目されている病気ですが、そもそもどういう病気で、どのような点に気を付ければいいのでしょうか。医療法人社団南州会理事長で、三浦メディカルクリニック(神奈川県三浦市)院長の井上哲兵医師に聞きました。
もともとサルは無関係
Q.「サル痘」とはどういう病気でしょうか。
井上さん「サル痘は、サル痘ウイルスによる動物由来の感染症です。ちなみに新型コロナはコウモリ由来と言われています。
サル痘という名前ですが、もともとサルは無関係で、本当の宿主はネズミの仲間と考えられています。実験動物を集めていたときに、偶発的にウイルスに感染しているサルがいたことで発見され、『サル痘ウイルス』と名付けられ、発症した場合に『サル痘』と呼ばれるようになったと言われています。サルにしてみたらいい迷惑です。
ヒトへの感染事例が初めて報告されたのは、1970年のザイール(現在のコンゴ民主共和国)です。それ以降アフリカにおいて、コンゴ民主共和国をはじめとするコンゴ盆地から西アフリカにかけての熱帯雨林地域で、サル痘のヒト感染が報告されていました」
Q.感染経路は。
井上さん「ウイルスを保有しているネズミの仲間、リス、感染したサルなどの動物の、血液や体液に触れることでヒトに感染します。またそれらのリスやネズミの肉を加熱不十分な状態で食べた場合も感染すると言われています。
また、サル痘に感染した人の飛沫(ひまつ)を浴びたり、サル痘に感染した人の体液や皮膚病変に触れるたりすることで、ヒトからヒトへと感染していきます。今回の欧米を中心とする集団発生は、男性同士の性行為が伝播の原因と言われていますが、飛沫や寝具を介した感染報告もあり、アメリカでは女性や子どもへの感染も確認されています。
なお、理論的には空気感染も起こす可能性が指摘されていますが、実際に空気感染を起こした事例は確認されていません。発症後からすべての皮疹が消失し新しい正常な皮膚に覆われるまで、感染予防策をとることが推奨されています。」
Q.潜伏期間は。
井上さん「従来、感染してから5日から21日間(平均12日間)の潜伏期間があると言われていましたが、今回の集団発生の潜伏期間は平均8.5日とされ、95%の人が17日以内の発症と報告されています」
Q.症状は。
井上さん「症状は、発熱や強い頭痛、リンパ節の腫れ、筋肉痛、強いだるさで、発症から1日から3日後には水疱(すいほう)が顔に出現し、やがて全身に広がります。水疱は顔以外では特に手のひらや足の裏にできやすく、口の粘膜や眼、生殖器にも出現します。出現から10日ほどでかさぶたになります。
天然痘に症状がよく似ていることから、症状だけでこれら2つの疾患を見分けることは困難と言われていますが、天然痘は1980年に世界から根絶したとされており、この症状を見たら、まずサル痘を考える必要があります。
なお、水疱ができる疾患として水ぼうそう(正式名称は水痘)がありますが、水ぼうそうでは、水疱やかさぶたになった水疱、治癒過程の水疱など、さまざまな進行度の皮疹が入り混じっているのが特徴です。一方、サル痘や天然痘では、全身の皮疹が同じ時間軸で均一に進行していくのが特徴です。つまり、皮疹がワーっと出て、一斉にかさぶたに変化して治癒していくということです。かさぶたが消えるまでは、およそ3週間と言われています」
Q.致死率は。
井上さん「過去のアフリカでの発生例では、致死率は1%から10%程度と報告されていますが、2003年の米国での集団発生時には、死亡例はありませんでした。また、今回のサル痘は比較的致死率が低いタイプのものと判明しています」
Q.万が一、全身に水疱がでてしまったら、どうすればいいのでしょうか。
井上さん「日本では、サル痘の報告が8月29日時点で4例とわずかなため、基本的には水ぼうそうと考えられますが、万が一、水疱が全身に広がってしまったら、直接病院やクリニックは受診せずに、まずは電話で問い合わせてください。感染拡大防止のため、連絡なしでの直接来院は避けてください」
Q.日常生活で注意する点はありますか。また、治療法や予防法を教えてください。
井上さん「日本では流行しているとは言えないため、生活様式を無理に変える必要はありません。しかし、今後の感染者数によっては、約85%の発症予防効果があるとされる天然痘ワクチンの接種も検討すべきかもしれません。
(オトナンサー編集部)
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