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猛暑日の面接、採用担当「クールビズでどうぞ」 就活生は信じていい? 試されている?

就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

「クールビズでどうぞ」、信じていい?
「クールビズでどうぞ」、信じていい?

 例年にも増して厳しい猛暑が続く中、今も就職活動を続けている学生も多いと思います。近年ではクールビズも定着し、特にこの夏は節電も呼び掛けられていることから、採用面接でも「クールビズでどうぞ」「私服でどうぞ」と就活生に声をかけるケースが多いようです。

 しかし、就活生の側は「本当にノーネクタイで行って大丈夫なのだろうか」「面接の結果に影響しないだろうか」「もしかして、本当にクールビズで来るか、スーツで来るか、試しているのでは…」と疑心暗鬼に陥ることもあるようです。採用担当者の「クールビズでどうぞ」は素直に受け取っていいのでしょうか。

基本、言っていることを信頼すればOK

 結論から申し上げますと、「もちろん、クールビズで何も問題ありません」です。筆者は日々、人事や採用担当者の皆さんとよく話しているのですが、そんなひきょうなやり方で候補者を試すようなことを考えている人は、誰一人いません(筆者が知らない人では、いるかもしれませんが)。

「クールビズでいい」「私服でいい」というのでしたら「いい」のです。もしも、そんなやり方で人を試そうという会社が万一あれば、そんな会社には絶対に入らない方がよいでしょう。ビジネスの基本は信頼です。その人の言うことをいちいち、「それは本当なのか?」と疑わざるを得ないような信頼できない人とは、チームワークなど築けません。

それでもネクタイの学生が多い理由

 ただ、現実的には、学生は同時に並行していろいろな会社を受けています。「クールビズでいい」と配慮してくれる企業もあれば、そういう気遣いをしない企業もあるでしょう。そうなると、1日で何社も訪問しなくてはいけない場合、きちんとスーツを着て、ネクタイを締めるという方に合わせるしかありません。

 面接や会社説明会の間に、移動中の駅のトイレなどで着替えることも可能でしょうが、面倒くさすぎます。その結果、「クールビズだと言うからそれで来てみたら、みんなネクタイを締めているじゃないか!」と思うこともあるでしょう。しかし、それは企業がうそをついたわけではないのです。

必要ない疑心を生み出す「不信感のスパイラル」

 同調圧力の強い日本においては、みんながネクタイをしている中、自分だけ楽な服装で来ていたら、気まずい思いをすると思います。しかし、繰り返しますが、それは企業側のせいではありません。人は嫌な思いをすると、何らかの分かりやすい原因を探してしまうものです。それで「企業は実は試していたのではないか。とんでもない」などという疑心を抱くという流れなのだと思います。

 本当は誰も悪くないのです。クールビズを勧める企業側も動機は「善」。ネクタイをする学生も、出し抜いてやろうなどという思いがあるわけではなく、物理的な理由で仕方なくそうしているだけです。それでも人は「敵」を探したくなるのです。

 さて、結論としてはそれだけなのですが、こういう疑心が生まれていること自体に問題があると思います。筆者は長年、人事や採用の仕事をしてきて、就職活動をウオッチしてきました。そこで何十年も変わらないのは、残念ながら「不信感のスパイラル」が、企業と学生の間にあることです。

 学生側は企業側に対して、「彼らはいつも良いことばかりを言っている」と考え、企業側は学生側に対して、「本当に志望しているのかどうか分からない」「本当のことを言っているのか、“盛って”アピールしているのか分からない」とお互いに思っているのです。

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曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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